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柔軟剤やみそ汁は良い香り?嫌なにおい?国際化するニッポンで「香害」を考える

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages

先日、X(旧Twitter)で「#香害は公害」というハッシュタグがトレンドに入りました。

複数の政治家もこのハッシュタグをもとに投稿しています。葛飾区議会議員の沼田たか子さんも以下のようにポストしました。

柔軟剤などに含まれている化学物質について、体調に異変を感じるなど苦しい思いをしている人がいるという事実がある一方で、SNSでは近年「自分たちが慣れていない匂い」について、即「香害」だととらえる姿勢も目立ちます。今回はグローバルな視点から「におい」について考えます。

香りつき制汗剤、欧州では思春期から当たり前

欧州の国でスーパーマーケットや薬局に入ると、日本よりもはるかに色んな種類のデオドラントが数多く棚に並んでいます。

男性用、女性用とそれぞれに香りが違い、「24時間効果」、果ては「48時間効果」をうたうものまであります。これらは現地の人にとって「日々の生活において、なくてはならないもの」、つまり「生活必需品」です。

子供が思春期の年齢になり汗がにおう年齢になると、親は子供にデオドラントの使用を勧めます。基本的には何か事情がない限り欧州人はほぼ全員が何らかの制汗剤(デオドラント)を使用しています。日本よりも「効き目が強い」商品が多数売られているため、筆者がドイツに一時帰国すると知るやいなや、日本に住むドイツ人から「あのデオドラントを買ってきて」などのリクエストが入ることもあります。

写真はイメージです=gettyimages

一般的に欧州の人は朝、シャワーを浴びると、わきの下にこのデオドラントを塗り、それで一日過ごすわけです。感覚としては「歯磨き」と近いものがあります。一日中、身体を清潔に保つためにはデオドラントが不可欠だというわけです。

日本ではデオドラントの使用はそれほど一般的ではありません。体質的な違いもあるのでしょう。だから日本で「なんで外国の人はあんな匂いの強い制汗剤を使うの?」といった「不満たっぷりの質問」を聞くことも少なくありません。しかし「なんでといっても、欧州の人にとってデオドラントはエチケットです」と言うしかありません。

実際のところ、「もしもデオドラントを使わないで一日を過ごす」となると、「周囲にもわかる汗のにおいが教室や職場などに蔓延する」ことになってしまいます。そういったことをふまえての使用なわけです。

ところが日本の一部の人はこの体質的な違いを考慮せず、「外国人も我々日本人のように毎日お風呂に入れば体臭が改善されるはず」だとか「肉ばかり食べないで、食生活の改善を図ればればにおわなくなり、デオドラントも不要なはず」など見当違いの「意見」が目立ちます。

「におい」を理由に相手を不愉快にさせる行為

問題だと思うのは、「外国人」、つまり自分たちとは違う人を「嫌なにおい」と結びつけて、見下した態度をとる人がいることです。

筆者が日本のあるテレビ番組のために撮影現場に入っていた時のこと。国名は伏せますが、ある外国人の女性が番組中で激しい踊りを披露しました。この女性には日本人のスタイリストの女性が2人ついており、踊りの際の衣装はスタイリストが用意していました。

半日かかった撮影が終わり、ダンスをしていた外国人女性が衣装を脱ぎスタイリストに渡しました。スタイリスト2人はその時「ああ…これで衣装はもう次の人に回せないわね。汗が染みこんでいて。これだから外国人はワキガで困る」と言ったのです。

小声だったものの、汗だくの衣装を持ったまま「どうしよう、どうしよう」とその場をウロウロしていたため、彼女たちの困惑ぶりが外国人のダンサー本人にも伝わってしまいました。すると本人は激怒しました。「あれだけ激しいダンスを踊ったら、汗をかくのは当たり前でしょう!あの人たちは何なの!」と怒りをあらわにしたのです。

筆者も同じように感じ、このスタイリストたちは、かなり意地悪だと思いました。それに「一度ダンサーが着用した衣装を洗濯もせずに次の人に着てもらう、という形の使いまわし」をしようとしていたことにもビックリしてしまいました。

たとえ、それほど汗をかかない人だったとしても、一度他人が着た衣装はしかるべき形で洗濯をしてから次の人に着てもらうべきです。経費削減などその業界特有の「事情」があるのだと想像しますが…「人のにおい」を「外国人であること」と結び付けてコソコソと悪口を言う、という行為は本当に意地が悪いな、自分はするまいと思ったものです。

自分が知らないにおい=「嫌なにおい」?

「におい」に関する無神経な発言は何も日本に限ったことではありません。日本人女性Aさんは夫の仕事の関係でドイツに住むことになりました。ドイツに引っ越してしばらくすると同じ集合住宅に住む近所のドイツ人と会えば立ち話をするなど挨拶を交わす仲になったといいます。

少しずつドイツでの生活に慣れてきたと感じていたAさんですが、ある時、隣に住んでいるドイツ人から「ひとつ聞いていい?朝になると、あなたの部屋から変なにおいがしてくるのだけれど、それはなぜ?」と聞かれたのだそう。日本人女性Aさんには思い当たることがなかったので不思議に思い、旦那さんにもこの話をしました。すると、しばらくしてから旦那さんに「もしかしたら、我々が毎朝飲んでいる味噌汁のことなんじゃないか?」と言われたのだそう。そしてそれは「当たり」でした。

日本人からしてみれば「ホッとするようなにおい」である味噌汁も、そのにおいと共に育っていないドイツ人からすると「慣れないにおい」「嫌なにおい」だったのです。

ただ筆者はそういったことを「あなたの部屋から変なにおいがする」という言い方で「確認」をすることは間違っていると思っています。自分にとって「未知のにおい」であっても、言い方をもっと工夫する必要があると考えます。

先日の記事「食に対する不寛容『オエー問題』を考える 菜食主義が広がるドイツで新たないじめも」の中に"Was der Bauer nicht kennt,frisst er nicht."(和訳「農夫は知らないものを食べない」)というドイツ語の言い回しについて書きました。これは「新しいものを警戒し触れようとしない、食べようとしない人のこと」を揶揄するドイツの言い回しなのですが、「におい」に関してもまさに同じことが言えると思います。

日本では人によって朝に焼き魚を食べることもあります。このことについて筆者が「朝、焼き魚のにおいをかぐと気持ち悪くなる。日本人はよく平気だね」とドイツ人から言われたことは一度や二度ではありません。そのたびに筆者は「あーあ…口に出して言っちゃったか。言い方を考えればいいのに」と思うわけです。

化学物質過敏症の人が「心身ともに抱えている不調」が深刻であると同時に、異なる文化圏の人の「自分にとって必要な生活習慣、及びそれに関連するにおいが否定される」ということも大きな問題だと筆者は考えます。

先ほど挙げた「香りつきの制汗剤(デオドラント)」については「必需品」「身だしなみ」だと考える欧州人は多いのです。香水に関しては、ドイツでも「香水のつけすぎ」を嫌う人はいますが、「香水を全くつけない」という人もまた稀(まれ)です。

写真はイメージです=gettyimages

欧州の女性にとっての「香水」は日本の女性にとっての「化粧」とある意味、似ているのです。「香水をつけることが身だしなみ」だと長年思っている人に対して「香水の香りが不愉快だと直球で言えばわかってもらえる」と考えるのはやめたほうがよいでしょう。キッチリと化粧をしている女性が「あなたの作りこんだ顔を見ると私は不愉快だから、もっと自然にして。お化粧はやめて」と言われたら少なからず「カチンとくる」ことでしょう。

「自分と異なる他者」に思いを伝えるには

化学物質過敏症で日常生活がままならない人が「香りの強い人」と同室で勉強や仕事などをせざるを得ない場合、相手にわかってもらうためには「自分の状況をより丁寧に説明する」必要がありそうです。病気を患った当事者次第ですが、たとえば職場などでは、単なる「好み」の問題でないことを分かってもらうために「医師の診断書を相手に見せること」も効果的だと思われます。

いずれにせよ「その匂いは不愉快。制汗剤や香水をつけないのが常識だから、やめてください」と直球で言ってしまうと、相手は「自分のやり方を否定された」と思ってしまう可能性が高く、人間関係が気まずくなるばかりです。

においに限らないことですが、国や文化によってそれぞれの「常識」や「前提」が違うと認識した上で相手と向き合うことが大事です。「私があなたに日本の常識を教えてあげます」とばかりに説教をするのではなく、相手に「化学物質過敏症である自分の状況」を分かってもらえるような説明に終始する必要があります。

そして後述するように、対応を化学物質過敏症の当事者だけに任せるのではなく、政治家が企業に対して「化学物質過敏症の人が使えないような商品の製造をやめてもらうよう積極的に働きかける」ことが求められます。

化学物質過敏症の人が声を上げるようになったと同時に、様々な国や文化圏の人が同じ空間で勉強をしたり仕事をしたりするようになった今、繰り返しになりますが、においについて「これが常識でしょ」というスタンスで相手に注意したり「日本にいるなら日本に合わせてください」と有無を言わせない伝え方をすることは改めたほうがよいでしょう。

柔軟剤や洗濯洗剤などに含まれている化学物質について「有害である」「公害レベルである」と政治家が問題視するのであれば、個人である市民に対して「商品の使用の自粛」を呼びかけるのではなく、「製造をしている会社に働きかけ」をすべきだと考えます。

冒頭のクリアファイル・シールには「シャンプーの使用量」について言及がありますが、自治体や政治家が、個人である市民に対して「シャンプーの使い方」に口を出すのは「やりすぎ」だと筆者は考えます。企業に対して直接働きかけを行っていただきたいものです。