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SAF生産の「周回遅れ」取り戻せるか 進む廃食油の回収 そろり始まった国産開発

World Now 更新日: 公開日:
回収した廃食油をトラックのタンクに移し替えるレボインターナショナルの従業員
回収した廃食油をトラックのタンクに移し替えるレボインターナショナルの従業員=2024年2月13日、東京都荒川区、松本真弥撮影

東京都荒川区にある総菜店「MaMa菜」。唐揚げが看板商品のこの店のキッチンに置いてある一斗缶を、レボインターナショナルの従業員がトラックに運ぶ。揚げ物のかすが混ざらないように、ざるに油を通し、タンクに注ぎ込んだ。

レボ社は、引き取った廃食油からバイオ燃料をつくるビジネスを、1999年から手がける業界のパイオニアだ。回収先は全国約2万8000店、回収量は年間約1万トンにのぼる。

ただ、国内でのバイオ燃料の活用は進んでおらず、売り先のほぼ全てが欧州向け。利用が広がっている欧州とは異なり、日本ではバイオ燃料への需要は乏しかった。それが、SAFの需要拡大によって状況は変わりつつある。

レボ社は2022年、プラント建設大手の日揮ホールディングス(HD)とコスモ石油とともに、SAFの製造・販売を行う「サファイア・スカイ・エナジー」を設立した。大阪府堺市のコスモ石油堺製油所内にSAFのプラントを造り、2025年度に本格稼働を始める計画で、商用では国産第1号となる見込みだ。レボはこれとは別に愛知県にSAFの工場を新設する計画も進めている。

レボインターナショナルが製造をめざすSAF
レボインターナショナルが製造をめざすSAF=2023年5月23日、京都市、吉田貴司撮影

廃食油をかき集めるため、丸亀製麺を運営するトリドールHD、大戸屋などを展開するコロワイド、スシローの運営会社などと、廃食油の提供を受ける基本合意書を結んだ。レボで営業を担当する永田唯さん(28)は「新規取引先をどんどん開拓しており、SAFの生産に向けて廃食油の確保におおむねめどがついた」と話す。

とはいえ、サファイア社での年間の生産量は3万キロリットルほどで、30年に国内で必要となる約170万キロリットルの2%にも満たない。国内でリサイクルされる廃食油は約40万キロリットルだが、多くは飼料の製造に使われており、燃料原料として利用されるのは1万キロリットルほど。一方で13万キロリットルは海外に輸出されているとされる。

サファイア社の最高執行責任者の西村勇毅さん(42)は「輸出に流れている分を国内で利用できるようになれば、さらなる供給量の上積みも見えてくる」と説明する。

「夢の人工原油」の研究開発も

出光興産は原料に廃食油以外も使う道を選んだ。国内外から調達するバイオエタノールを原料に、ジェット燃料に変換するアルコール・トゥ・ジェット(ATJ)という手法で生産する計画だ。世界でもまだ商用化にたどり着いた企業はなく、同社は千葉県市原市で実証製造に向けた準備を進める。

バイオエタノール以外にも、マレーシアの国営石油会社と組み、原料の調達の可能性を探っている。30年までに年間50万キロリットルのSAFを生産する計画で、「いろいろなプロジェクトにチャレンジし、最適な生産方法を見極めていく段階だ」。同社でバイオ燃料を担当する鹿野祐介さんはこう話す。

ENEOSは「夢の人工原油」ともいわれる合成燃料の研究開発を進めている。工場などから出るCO2に水素を合成させてつくるため、新たなCO2排出量はゼロとみなされる。30年までに高効率で大規模な製造技術を確立する考えだ。合成燃料は廃食油などによるSAFよりも高額で、原料となる水素を製造するために大量の再生可能エネルギーを確保する必要がある。

羽田空港でANAの機体にSAFが給油された
羽田空港でANAの機体にSAFが給油された

一方、ネステとの国内での代理店契約を結ぶ伊藤忠商事リニューアブル燃料ビジネスユニット長の石川路彦さん(54)は「国内でSAFを給油できなければ、外国の航空会社は日本に来なくなり、国力の低下につながりかねない。十分な量を供給できるようにするのが商社としてのつとめだ」と話す。

SAFへの投資は関連事業も含めて150兆円にのぼるという試算もある。欧米から遅れたといわれる日系企業はどう競うべきか。

みずほ銀行産業調査部の豊川晃範さん(36)は「欧米の先行は変わらないが、原料の制約がある日本のような少資源国が試行錯誤し、SAFを製造・調達できる仕組みをしっかり築ければ、原料確保が必要なアジア各国のお手本になる。欧米にはない、独自の立ち位置を示せれば、そこにビジネスの機会も生まれる」と期待する。