里親になることに関心はあっても、すぐに行動を起こすのは難しいと思っている方もおられるでしょう。実は里親としての「一歩」には、さまざまな形があります。里親制度についてより多くの方々に知ってもらうことを目的として、当事者や専門家らが語り合う「里親制度オンライン・シンポジウム」が2022年10月22日、開催されました。第二部「聞かせて 里親、こども それぞれの想い」では、里親の河本美津子さん、横須賀市ボランティアファミリー登録者の齋藤節子さん、短期里親の制度を利用したこども側当事者である山本昌子さんをお迎えし、短期間の里親をはじめとした社会的養護のこどもたちとのかかわり方について考えました。解説は日本女子大学教授(社会福祉学)の林浩康さん、ファシリテーターは朝日新聞社の見市紀世子です。
短期里親がもたらすものは
――短期間の里親制度にはどのような形があるのか、教えてください。
林:季節里親、週末里親などの短期里親は自治体独自の制度です。自治体によって呼び方はさまざまあり、神奈川県横須賀市は「ボランティアファミリー」、東京都は「フレンドホーム」と呼んでいます。
乳児院や児童養護施設で暮らすこどもを夏休みや年末年始や週末などに迎え入れ、家庭生活を経験する機会を提供する制度であり、こうした短期間の里親体験に手ごたえを感じて養育里親になられる方もいると思います。
――こども側にも短期里親のメリットはあるのでしょうか。皆さんのお考えを教えてください。
河本:私は週末里親と養育里親の両方を経験しています。こどもたちにとって、時間は短くても、「自分のことだけ見てくれる」「関心をもってくれる」と感じられることが大事だなと思っています。定期的に家に迎え入れることで、「あなたのことを気にかけているよ」という大人からのメッセージを受け取ることができると思います。
河本 美津子さん
PROFILEこうもと・みつこ/1957年、岡山県生まれ。季節・週末里親として数人の養育にかかわった後、養育里親に。2021年3月から高校生の男の子を受け入れており、夫とともに3人で暮らしている。以前に里親として関わったこどもとは、現在も交流が続いている。乳児院や児童養護施設を訪れ、こどもたちと「抱っこ」を通じて向き合う活動をする一般社団法人「ぐるーん」の代表理事でもある。
山本:私は児童養護施設で暮らしていたときに、週末里親を通じて「家庭ではみんな、こんな風に生活しているんだ」と知る機会になりました。
週末里親を希望したのは、犬を飼いたかったからでした。施設では管理上飼えなかったので、犬がいる家庭に預けてもらい、施設では実現できない部分を補ってもらいました。「普通の家」を感じられたのがうれしかったですね。
山本 昌子さん
PROFILE やまもと・まさこ/1993年生まれ。児童養護施設で育ち、小学生のころに週末里親の一種である「フレンドホーム」(東京都の制度)を利用していた元当事者。「THREE FLAGS -希望の狼煙」プロジェクトのメンバーとして、児童養護施設で暮らした経験や考えを交えながら社会的養護の現状や課題を紹介し、視聴者と一緒に考える番組をYouTubeで発信している。
――里親として、短期里親を始めるメリットとはどのようなものでしょうか。
齋藤:私は短期里親として、月に外出1回、お泊り1回の計3日からスタートしました。日時を施設と相談しながら、無理なく交流できることが短期里親のメリットかなと思います。
齋藤 節子さん
PROFILE さいとう・せつこ/横須賀市ボランティアファミリー登録者。1949年、神奈川県生まれ。保育士や保育園園長として約20年間、保育の現場に携わる。実子が成人ののち、退職後も「こどもに関わることをしていきたい」と2008年、横須賀市のボランティアファミリーに登録。3人のこどもたちと月3日ほどの交流から始め、こどもが大きくなったいまに至るまで約14年間、関わっている。
林:お話があったとおり、こども側としては施設の集団生活では学べない家庭生活を体験できることが、短期里親の一番のメリットかと思います。河本さんがおっしゃったように、自分だけに関心を持ってくれる人の存在が、大きな心の励みになるのではないでしょうか。いまは施設にいるお子さんのみならず、一般家庭のお子さんの一時預かりニーズも拡大しているので、短期里親はその受け皿になる可能性もあります。
短期里親 里親の視点から
――次に里親の視点を考えていきましょう。里親経験のあるお二人は、なぜ里親になろうと思ったのでしょうか。
河本:実子が3人巣立って時間ができたこともあり、「こどもたちのために何かできることはないかな」と考えていました。代表を務めている団体の活動を通して児童養護施設に行ったとき、「うちに連れて帰って」と言ってくるこどもに出会い、胸が締め付けられたことも。彼らを我が家に招き入れたいと思うようになり、季節・週末里親として登録しました。
齋藤:私は、保育士をしていたときに、通っていたこどものきょうだいが親の虐待を受け、児童養護施設に入所したということがきっかけでした。社会的養護に関心を持つようになり、保育園を退職後の58歳のときに「ボランティアファミリー」に登録しました。
最初に預かったのは双子のこどもたちで、翌年からそのお兄ちゃんと一緒に計3人を預かりました。当初は食事のときに部屋を歩き回るなど、大変なことも多かったですね。でも、その後14年間かかわり続け、双子のうち1人の女の子とはいまでも毎週1回は電話していて、遊びにも来てくれます。
――こどもたちは、お二人にとってどんな存在ですか。
齋藤:私のことを「おばちゃん」と呼んでくる、かわいい甥っ子や姪っ子のようですね。
夫ががんになり辛い闘病生活を家で送ったのですが、そのときはこどもたちから元気と勇気をもらい、ありがたかったです。夫が亡くなってから、「おばちゃん元気で長生きしてね」と猫の切り絵の作品をくれました。いまでも大事な宝物です。
河本:私が最初に受け入れたのは高校2年生の子で、週末や長期休暇に来るようになりました。いつも「今日は何食べたい?」と聞かれるのがうれしかったみたいです。よく食べる男の子だったので、食べたいというものは何でも喜んで作りましたよ。
高校卒業後に就職が決まって施設を出てからも、20歳になるまでの2年間は一緒に暮らしました。社会的養護の期間は外れていたので「下宿のおばちゃん」という感じでしたね。いまも自分の夢に向かって頑張っていて、「もうちょっと見守ってほしい」と言っています。
――山本さんは児童養護施設出身の若者が集まる居場所をつくる事業をされています。お二人の話を聞いて、どう感じましたか。
山本:週末里親、季節里親というとその場の短期間で終わりというイメージがあるかもしれませんが、私自身、いまも里親さんとはつながり続けています。お二人のように、「心」を抱きしめてもらったり、14年間いまだに電話し合える関係があったりって、すごくいいですよね。
施設だけが頼る先ではなく、いろんなところに居場所がある。そう思えることが心強くて、生きる力になります。
短期里親 こどもの視点
――山本さんが週末里親を知ったきっかけは何でしたか。
山本:小学1年生のときに、施設の職員さんから「家庭的な雰囲気を体験してみる機会があるけどやってみない?」と聞かれて、「やってみたい!」と答えました。不安よりも、どんなところに行くんだろう、とわくわくしていましたね。里親さんが近所のお祭りなどに連れて行ってくれたのがすごくうれしかったです。
施設も大切な空間で、卒園後も職員さんと交流が続いていますが、そこで逃げ場がなくて苦しくなることもありました。週末里親さんの家に行くことで気持ちをリセットできたので、職員さんと私の関係にとっての休憩地点であり、大事な居場所。「私にはどっちもある」という安心感は大きかったです。
――里親と聞くと「親にならなくては」と力んでしまう人もいると思います。河本さんはこどもとのかかわりをどう保っていましたか。
河本:親戚のこどもが遊びに来るような感覚で短期里親をしていました。どのこどもにとっても、いろんな距離感の“おじちゃん”“おばちゃん”が、何人いてもいいと思います。信頼できる大人がいろんな場所にいることが、こどもの成長にとっても大事ですよね。
林:まさに、疑似血縁的な存在は大きな心の励みになります。多様な「支え手」に大切にされていることは自尊心を育みますし、つらさを抱えたときに、距離感が近い職員には言えないこともある。距離感がある週末里親にこそ、言えることもあると思います。
里親を長く続けるために
――齋藤さんは14年間、特定のお子さんたちと関係を築いていらっしゃいます。里親を長く続けるコツはありますか。
齋藤:始めるときに夫と話し合って、「自分たちの生活を第一にして、無理せず楽しんで続けよう」と決めました。こんなに長くかかわるとは想像もしていませんでしたが、長くやろうという気持ちは持っていたと思います。
こどもが悩みを持っていそうだなと思ったら、施設の方にレポートを出して共有していました。そうすると、後からこどもたちのおしゃべりの中で「周りの方が努力して解決しようと動いてくれているんだな」と気づくこともあって、自分だけでどうこうしようと背負わないことが大切だと実感しました。
河本:委託されたこどもたちとは、喧嘩も言い争いもしました。でも、お互いそういうことを言えるような関係になっているのだなと。次の日もまたご飯を食べて修復できましたし、黙っていたとしても、通じ合える。そんな関係ができていたと思います。何かあったときに児童相談所側にも共有しながら、「また次の日も頑張りますので」と話していました。
山本:里親さん自身が孤立していたり悩みを抱えていたりすると、こどもも同じようにつらい思いで見てしまうんです。こどもによって求めているものは一人ひとり違うので、「親としてこうでなくては」と思う必要はないかと思います。いろんな人と連携を取って、相談できる相手を確保しておいてもらうのが大事だなと思いました。
無理ない範囲内から、子育てを分かち合う
――里親として一歩を踏み出したいと思う方に向けて、最後に皆様からメッセージをお願いします。
河本:実子でも、里親としてお預かりするお子さんでも、保護者だけで育てるのは大変です。いろんな人に助けてもらえる環境があればと思います。
里親になれる状況の人は、なってもらうと本当に助かります。もし里親にならなくても、こどもたちや里親さんを助けることもできます。関心を持って下さったなら、できることを一緒に考えていきたいです。
山本:私はネグレクトから保護してもらえなかったなら、いまこの場にも立てていなかったかもしれません。施設や里親の制度があることや、そういったことを志し、動いてくださる方々に感謝しています。
児童養護施設や里親制度の理解は少しずつ深まってきていると思いますが、まだまだ「里親家庭で育った」と言えない当事者もいます。海外のように「そうなんだ」と周りが自然に受け入れてくれる環境になったらいいなと思います。
齋藤:無理をせずに、困ったときには「困った!」と周りに発信してきました。こどもたちはお昼寝と食事だけして帰っていったこともあるけれど、それでいいんです。いつまでも、ほっとできる我が家でありたいと思っています。
こどもは未来です。一人の大人が見守り、味方になってくれるんだと思うだけで、こどもの生きる力になります。「その大人の一人になってみませんか」とぜひお伝えしたいです。
林:子育てを“共有”する文化を培うために、「社会的な養親」を作ることはとても大事なことです。そして、里親が自分のライフスタイルに合った、無理のない形を模索しながら、社会的な親の担い手になる。そんな意識も重要なのではないでしょうか。