里親制度について、基礎知識をわかりやすく伝え、制度をより多くの方々に知ってもらうことを目的とした「里親制度オンライン・シンポジウム」(全三部構成)が2022年10月22日に開催されました。第一部「聞かせて 里親、こども それぞれの想い」には、モデルの冨永愛さん、里親の石川智弥さん・祥子さん夫妻、里親家庭経験者の池田累さん、日本女子大学教授(社会福祉学)の林浩康さんと、ファシリテーターを務めるGLOBE+創刊編集長の堀内隆が登壇。里親制度についてそれぞれの視点から学んでいきました。

里親制度とは何か

――はじめに「里親制度」はどういう制度なのか、教えてください。

林 浩康(以下、林):里親制度を端的に言えば「こどもを我が家に迎え入れて養育する制度」です。日本には、それぞれの事情で親と離れて暮らすこどもたちが約4万2000人います。そうしたこどもたちに、「一貫した養育者が個別的な関係に基づいた家庭生活を提供する」ことを目的とした制度だと言えます。

里親制度とは

では、どんな方が里親になれるのか。要件としては4つほど挙げられます。「愛情を持って養育できること」「経済的に困窮していないこと」「一定の犯罪歴やこどもへの虐待歴がないこと」「一定の研修を受講していること」です。要件の細かいところは各自治体によって異なりますが、単身の方も一律に対象外ということはありません。

――地域や自治体により差はあれど、広く開かれている制度なんですね。冨永さんは、里親制度の理解促進のCMにも出演されています。以前から里親制度に関心を持ちご自身で調べたこともあったようですが、どんなきっかけでしたか。

冨永 愛(以下、冨永):欧米のファッション業界で仕事をしていると、血のつながらないこどもと一緒に暮らしている話を聞くことが少なくないんですね。「最近、家族が増えたんだ」と雑談の中でごく自然に話題になることもあります。そうした話を聞いてきた経験から、日本の里親制度がどうなっているのか詳しく知ろうと思ったのがきっかけです。調べはじめたのは、もう十数年前になります。そのときは特別養子縁組制度と里親制度との違いもあまり知らずに調べていました。

冨永 愛さん
冨永 愛さん

冨永 愛さん

冨永 愛さん
PROFILE とみなが・あい/17歳でNYコレクションにてモデルとしてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍し、今年25周年を迎える。テレビ、ラジオのパーソナリティ、俳優としても活躍。チャリティや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。公益財団法人ジョイセフ アンバサダー、エシカルライフスタイルSDGs アンバサダー(消費者庁)


林:確かに、どう違うのかわかりづらいところもありますよね。
制度の違いを整理しますと、まず養子縁組制度には、特別養子縁組制度と普通養子縁組制度があります。生みの親との法的な関係が消滅するのが特別養子縁組。生みの親と、育ての親との法的な関係が並列して存在するのが普通養子縁組です。戸籍上の表示は、特別養子縁組では実親子同様に長女、長男といった表示ができますし、年齢要件が原則として15歳未満に設定されているのもポイントです。

林 浩康さん(日本女子大学教授)
林 浩康さん(日本女子大学教授)

一方で里親制度は、生みの親に親権があり、里親との法的な親子関係はありません。原則として一時的な養育であって、生みの親の元に戻るか社会的に自立した場合は制度としての関係は解消されます。社会的養護の一環として、里親手当と生活費が約14万円支給される点も、特別養子縁組制度との大きな違いです。

養子縁組制度と里親制度の違い

里親の意義とは

――制度の理解が深まったところで、里親制度の意義について考えていきたいと思います。里親委託を経験した池田さんは、ご自分で里親家庭を希望したとうかがいました。

池田 累(以下、池田):私は9歳から児童養護施設で暮らしており、長期休暇になると里親さんがこどもたちを連れて帰る姿を見ていたんです。そうした制度があるなら使ってみたいなと自然に思うようになりました。
14歳から里親家庭で育ちましたが、一番覚えているのは高校時代のことです。野球に打ち込んでいた自分のために、里親は週末でも朝4時に起きてお弁当を作ってくれて送り迎えをしてくれました。本当にありがたかったです。

池田 累さん
池田 累さん

池田 累さん

池田 累さん
PROFILEいけだ・るい/1990年生まれ、神奈川県在住。9歳で児童養護施設に入所、14歳から里親家庭で育つ。高校卒業と同時に独立し、現在は結婚して二児の父。野球に打ち込んだ高校時代を支え、背中を見せてくれた里親夫妻は「人生の先輩」として現在も慕う間柄。


――児童養護施設と里親家庭の両方を経験されて思うこと、また里親との暮らしで身についたことは何だと思いますか。

池田:どちらにもとても感謝しています。施設に入ったときに、生まれて初めて“あたたかい食事”を口にしたんです。「命が救われた。生きているんだ」と思いました。
そしてその後、里親に出会えたからいまの自分がいます。自転車整備工場を経営していた寡黙な父は、生き方を背中で示してくれた人。看護師をしていた母は「社会で生きていくために必要だから」と、多くのことを教えてくれました。里親は、私の道を切り拓いてくれた、人生のパートナーだと思っています。

――石川さんご夫婦は、2019年に里親登録し、その年の冬に養育里親になりました。里親になり、どんな日々を過ごしていますか。

石川 祥子:乳児のこどもを受け入れたので、実子を育てている家庭とほとんど変わらないのではないかと思っています。里親になることについて、親族からは戸惑いの反応もありました。でも、実際にこどもを前にすれば本当に可愛がってくれています。

石川 智弥:地域の皆さんから声をかけられることが増えたのも、こどもがいるからこそだと思います。

石川 智弥さん・祥子さん夫妻
石川 智弥さん・祥子さん夫妻

石川 智弥さん・祥子さん夫妻

石川 智弥さん・祥子さん夫妻
PROFILEいしかわ・ともや/1973年、千葉県生まれ。現代美術作家。いしかわ・しょうこ/1976年、山梨県生まれ。大学にて常勤で美術を教えていて、彫刻家でもある。夫妻は2016年に結婚、社会的養護としての子育てにも関心を持つ。19年に養育里親として乳児の男の子の委託を受けた。人懐っこく「パパっ子」のこどもと現在、楽しくトイレトレーニングに励む毎日。


――池田さんと石川さん、それぞれのお話を聞いて、改めて林先生は里親の意義をどう捉えていますか。

林:里親制度によって、こどもは一貫した養育者と個別的関係を深め、大事にされているという安心感と自尊心を培うことができます。また、当たり前の家庭環境を体験することで、生活の知恵を身に付け、生きる力を養うことができます。社会生活の土台を形成するという意味でとても意義のある制度ですね。
さらに、こうした意義を家庭生活だけで完結するのではなく、地域とのつながりの中でこどもを育てていくことが大切です。親だけではなく、地域の人も大切に思ってくれる。その環境がこどもの自尊心を強くしてくれるのです。

シンポジウム中の様子
シンポジウム中の様子

里親の一歩を踏み出すために

――では、里親の一歩を踏み出すためにどんなことができるか、不安に思ったこと、ためらいや戸惑いはありましたか。

冨永:私には息子が一人いるのですが、自分のこどもを育てていてもくじけそうなことはたくさんあります。思春期には大変になるかもしれないなど、里親制度について調べたとき、自分だったら里親としてちゃんとこどもに向き合えるのかと不安に思ったことは正直なところ、あります。

石川 智弥:私たち夫婦の場合は共働きなので、一般の家庭と同じように保育園にお世話になっています。ただ、受け入れる前は「どんなこどもが来るのかな」という不安もありましたが、それは最初だけでした。

池田:私にもいまこどもが二人いて感じていますが、子育てはやってみないとわからないです。私自身は、里親に本当に情熱を注いで接してもらったと感じています。野球一筋の生活をサポートしてくれて、やんちゃだった自分に厳しく言ってくれました。こどもを預かる里親制度がもっと前向きに捉えられる社会になったらいいですね。

冨永:たしかに自分の高校時代を振り返ってみても、親でなくても、情熱を持って一生懸命向き合ってくれる人がいました。血のつながりがあってもなくても違わないのかなと、皆さんのお話を聞いて思いました。

林:一歩を踏み出すために、自治体独自の制度として「季節里親」「週末里親」があります。児童福祉施設で暮らすこどもをお盆やお正月などの休暇や週末に限定して家庭に迎え入れるもので、こうした短期間の制度を活用し、より小さなステップから始めてみるのもいいかと思います。

季節里親・週末里親

里親制度のあり方

――里親制度のあり方を社会的な意義の点から考えていきたいと思います。日本での里親制度の浸透度についてどう捉えていますか。

冨永:日本では、身近な話としてほとんど聞いたことがないですね。

林:おっしゃる通り、海外と日本では大きな違いがあります。欧州、オセアニア諸国では親子分離されたこどもの半数以上が里親委託される実態があり、オーストラリアは9割を超えています。一方、日本では施設養護が主流です。施設養護の体制が整っているともいえますが、里親が不足しているのが現状です。

里親制度が普及していない日本

石川 祥子:私は職場に育児休暇を申請したとき、「実子ではないこどもの育休は初めてなので」と許可が下りるまでに時間がかかりました。制度がまだまだ浸透していないと感じました。
ただ、心強かったのは、職場に福祉関係の研究者の方がいて、何でも相談できる安心感があったところです。

池田:制度を理解している人が周りにいるかはとても大切ですよね。私は里親が周りに里親であることをオープンにしていたので、違和感なく、すんなり家庭に入っていけました。だからこそ地域の方から声をかけてもらうことも多かったです。
そうやって里親制度がポジティブに受け入れられ、当たり前な雰囲気を作ることが、制度の理解を広げることにつながるんだろうなと思います。

冨永:昔は日本にも地域全体でこどもを育てていくという習慣があったと思うのですが、それがいまの時代は難しくなってきていると感じています。昔のようにみんなでこどもを育てることを制度として作ったのが里親制度だと思いますので、もっと気軽に里親制度にアクセスできるようになってほしいと思います。

左から堀内隆、池田累さん、冨永愛さん、石川智弥さん、石川祥子さん、林浩康さん

――最後に「これからの里親制度」についての期待や、里親制度に関心をもった方に向けてメッセージをお願いします。

池田:私は9歳で施設に命を救われ、里親制度を知りました。こどもたちには夢や希望を捨てないで、多くの人と関わりながら生きてほしいと思っています。

石川 祥子:こどもを受け入れる前は不安もありました。でも、目の前にこどもが来たら、こどもが解消してくれ、たくさんの楽しい経験ができています。一歩飛び込んでみたら、「この子となら乗り越えていける、守っていきたい」という気持ちが芽生えると思います。

石川 智弥:私は「平凡なマイノリティーになる」というスローガンを自分なりに掲げています。「この子は委託されたこどもなんだ」と周りに言っても「そうなんだね」と自然と受け入れられる社会になっていってほしい。「幸せな子だね」と言ってくれる方がいますが、間違いなく里親の私たちのほうが幸せになっています。

林:里親が一身に養育を担うというのではなくて、支援者とともにチームを組んで育てていく。そんな捉え方が必要だと思っています。

冨永:本日は皆さんのお話からたくさん学ばせていただきました。これまでたくさんの人から愛情を注いでいただいた分、今度は私が返す番だと思っています。そんな風に、愛情を世の中に循環していきたい。里親制度を広く知っていただき、「みんなでこどもを育む社会」に少しでも近づいたらいいなと思っています。