児童養護施設・里親家庭などで暮らした経験のある学生有志が行っている「ぴあ活動」。いま同じように児童養護施設や里親家庭などで暮らす中高生たちに向けて、動画制作やイベントなどを企画してメッセージを発信、進学やお金、生活のことなどに関する悩みや疑問に答えています。精力的に活動している学生メンバーの3人が集まり、社会的養護や里親制度について、これまでにあった出会いや社会に変化を望むことを座談会形式で語り合いました。

中高生の後輩たちに、当事者だからできることを

――まずは自己紹介からお願いします。

ゆうご :僕は愛知県の大学で経済学部に通っている3年生です。大学1年の頃から一人暮らしをしています。

――ゆうごさんは、それまで里親家庭で育ったのですね。

ゆうご:5歳の頃に委託されて、それ以来、一般の家庭とあまり変わらないような愛情を持って接する育て方をしてもらいました。

ゆうごさん
ゆうごさん

るか: 私は東京都出身で、福祉系の専攻で学んでいます。4年生です。私も一人暮らしをしています。里親のところには、いまも半年に1回ぐらい顔を出して一緒にご飯を食べるなどしています。

しょうり:栃木県に住んでいて大学3年生です。会計の勉強が好きで、将来税理士になりたいと思っています。今年の4月から一人暮らしを始めましたが、それまではファミリーホーム(※)で暮らしていました。アルバイト先がファミリーホームに近いので、いまも帰りにちょっと立ち寄るなどしています。
※里親家庭を大きくした事業。里親や乳児院・児童養護施設職員経験者の自宅等で補助者も雇い、より多くのこどもを養育する。

――皆さんがぴあ活動に参加されたきっかけや、活動の内容を教えてください。

ゆうご:声をかけてもらって、昨年(2021年)の3月から参加しています。中高生のために 何かアクションをしていけたらと前から思っていました。ブックチームを担当して、3号まで作りました。社会的養護を経験した社会人のインタビューや奨学金などのトピックを企画して、中高生に読んでもらって進学や将来について考えてくれたらいいなと思って冊子にまとめています。

ゆうごさんが制作に携わる「ぴあ応援ブック」
ゆうごさんが制作に携わる「ぴあ応援ブック」

るか:私は大学2年の時に、声をかけていただいて。社会的養護の当事者として何かやりたいなと思っていて、ちょうどいい機会だったので参加しました。 中高生の後輩たちに向けて、できることがしたいよねという話があって、去年「ぴあ応援セミナー」を開催しました。

しょうり:僕は2022年10月8日、9日開催の「ぴあ応援フェス」を担当しています。フェスではいろんな職業のプロフェッショナルな方々にも外部講師として参加してもらいます。いまはリハーサルを進めているところです。

(左から)しょうりさん、るかさん、ゆうごさん
(左から)しょうりさん、るかさん、ゆうごさん

――実際、中高生の皆さんはどんなことで悩んでいるのでしょうか。

るか:社会的養護にいるこどもたちは、進学することが難しかったり諦めたりしてしまうケースが多いので、実際に進学した私たちから、進学についての情報や誰に相談したかなどを伝えられたらと思っています。昨年にオンラインで開かれた「夢・進学応援セミナー」をきっかけに、ブックやYouTube(ぴあ応援ラジオ)、今年のフェス、と取り組みを広げてきました。

――昨年の進学応援セミナーはどんな反響がありましたか。

るか:「聞いてためになった」と言ってもらいました。ただ、実際開催してみたら、施設の職員さんや里親さんなど関わっている大人の参加が多くて、思ったより中高生が少なかった。もっと中高生に聞いてほしいと思って、今年は「フェス」の形にしました。

3人が運営に関わる2022年の「ぴあ応援フェス」のリーフレット
3人が運営に関わる2022年の「ぴあ応援フェス」のリーフレット

自分の気持ちを伝えたら 周りが動いてくれる

――当事者としてどんなことを伝えたいですか。

ゆうご:やはり進学関係のことですが、学費や学力、人付き合いも不安がつきものです。特に社会的養護の子たちは人一倍そういうのを感じてしまう面があると思っています。大学に行くと、人との出会いも広がって、知見を広げることができる。そういうことも伝えていきたいです。

――大学に入って、世界が広がった実感がありますか?

ゆうご:大学は専門的な部分も含めて、自分の今までの視点とは違う視点で物事を考えられたりします。例えば、僕が取った授業で面白かったのは「中国経済論」。新しい見方ができて、得られるものが大きかったです。

るか :私は伝えたいことは二つあって。一つは、奨学金の制度や、生活する上での技といった役立つ情報。もう一つは、自分の気持ちや意見を伝えたり、人に頼ったりしていいんだよ、ということ。フェスなどで同じ仲間がいることを感じてほしいです。

るかさん
るかさん

――ご自身を振り返って、中高生の時にもっと知っておきたかった内容がありますか。

るか :はい。里親家庭で暮らしていて、 当時は「進学は難しい」「就職する人が多いよ」と周りから言われていました。「そんなもんなのかな」と思ってしまっていたけど、実はそんなことはありませんでした。「進学したい」とぽろっと言った一言がきっかけで、児童相談所の方とか周りの友人とかが動いてくれて「こういう方法もあるよ」と提示してくれた。だから自分の気持ちを伝えることが大事で、周りに伝えれば、自分ができなくても助けてもらえるチャンスがあります。知らないと夢をあきらめてしまうこともあるので、中高生にいろんなことを知ってもらいたいです。

しょうり:僕も夢とか進学を諦めてほしくないという気持ちがあります。あとは、社会的養護のこどもたちに向けてというより、社会にもっと社会的養護を知ってほしい。たまに偏見を持っている人もいるけれど、そういう偏見にあったときに負の感情を抱かないでほしいし、周りにこんなに仲間がいることを伝えていきたいです。

しょうりさん
しょうりさん

社会的養護をもっと身近に 興味を持ってもらえたら

――まだ社会的養護についてあまり知られていない実感がありますか? 普段、友人などにはどのように伝えているのでしょうか。

しょうり:自分の場合は基本オープンにしています。ある程度仲が良くなった友達には、「こういうところに住んでいるんだよ」って。僕自身はそれで特に嫌な思いをしたことはないけれど、周りを見渡すと隠している人もいるから、もっと知ってほしいと思って、友達や先輩には伝えてきました。

ゆうご :僕は小・中学校、高校と誰にもそういうことを言ったことはなかったんです。最近になって、大学の友達で1人だけ、よく飲みに行く友達がいて、その友達に打ち明けることができた。そしたらその友達が泣いちゃって。同情の涙じゃなく、いろいろ苦労したのかなと思ってくれたみたいで。僕自身は苦労したわけじゃないですけど、これまで打ち明けられなかったことを共有できるのは、なんかいいなと思いました。自分からどんどん発信していくのは難しいけど、そういうことを話せる友達や身近な人がいるのはいいなとは思います。

ゆうごさん
ゆうごさん

るか :私もオープンなほうで、逆に隠しているのが辛いと思ってしまうので、さらっと言える環境で過ごしたいという思いがあります。社会的養護のことにあまり興味がなかった高校時代の友人から、あるとき「里親家庭ってどうだった?どう思っていたの?」と連絡がきました。「突然どうしたの?」と聞いたら大学の授業で社会的養護について学んだから、聞いてみたいと思った、と。そうやって興味を持ってくれたのもうれしかったです。

――るかさんは、児童福祉司の仕事に興味を持ち、目指しているそうですね。

るか :私は9歳から里親家庭に行ったのですが、やはり里親との相性の問題もありました。その後、児童相談所の担当の方が変わって、中学3年で受験勉強に集中できる静かな環境にいたいという私の意見を反映させてくれる方と出会うことができました。こんな職員さんになりたいなと思い、こどもの味方になれる仕事ができたらと思っています。自分のことを否定されると、「この人にはもう言いたくない」と思ってしまう。たとえ相手の思いを叶えられなくても、受けとめることができる人に私はなりたいです。

しょうり :僕は小学校2年生から6年生の中間まで里親家庭で生活をしていました。実はそこで虐待があって、一時保護所に預けられた後、ファミリーホームで生活を始めました。ファミリーホームは外部の人との関わりが多く、ホーム長はじめ、関わってくれる人たちは誰も自分のことを否定しませんでした。高校1年生の時に、ある検定を取ったんです。誰でも取れるような簡単なものだったんですが、すごく褒めてもらえた。その経験がいま税理士を目指していることにも繋がっています。こどもはいろんな大人を見て成長します。見本となるような大人の背中も見てきたので、自分もそういう大人になりたいなと思っています。

しょうりさん
しょうりさん

手を取り合ってこどもを受けとめる社会に

――周りのサポートの中で成長してきた経験を皆さんからお話しいただきましたが、「人を頼る」ことは、簡単なようで難しいことでもあります。人を頼ることのコツって、何かありますか?

るか :私も元々頼ることが苦手で、気持ちを伝えることもできなかった。でも、否定されずに受け止めてもらえる感覚がまず大事なのかなと感じています。家庭でも学校でも、辛い時に辛いと言える相手がいて、それをちゃんとキャッチしてくれる人がいるといい。自分がどうこうというより、そういう環境を社会全体で作っていくことが一番の課題だと思います。

るかさん
るかさん

しょうり :正直、自分も頼るのが上手かと言われたらそんなことはありません。でも、頼るのは、自分を守るため。人に頼ると周りに迷惑がかかるんじゃないかと思ってしまうし、実際そうかもしれないけど、もし無理をして自分が壊れてしまったらどうしようもない。自分の場合は頼れる大人が周りにいたのでよかった。例えば周りの尊敬できる人たちは、どっしり構えていてくれて、話の途中で遮らないですね。僕がいくら長く話しても、一度全部終わりまで聞いてくれる。そういうところを真似して、頼られる大人になっていきたいです。

――世の中に向けて、社会的養護の元で暮らしている人たちに対して、こんな応援があったらいいのに、と思うことはありますか。

ゆうご:やっぱり制度ですよね。制度や手続きが複雑で、社会的養護のこどもに優しくないと感じることもあります。例えば、僕はいま本名ではなく通称名で暮らしていますが、大学の手続きや賃貸物件を借りるときにも、面倒な手続きがあります。もっと簡略化してほしい。制度は社会的弱者を救済するためのものであってほしいです。

しょうり:里親さんの中にも子育てはこうあるべきと強く思う人が少なからずいるように思います。理想の子育てをめざすのではなく、あくまでこども本位で、こどもの気持ちや意見を受け入れて関わってほしいな、と思っています。

るか:こどもが意見を言えることが大事ですが、「主張する権利が自分にはある」ということを知らないと、なかなか意見は言えません。そのためには教育。社会的養護のこどもだけでなく、すべてのこどもが自分の意見を言える環境になるために、「自分の意見を言っていいんだよ」ということを学ぶ機会を教育の一環として入れてもらいたい。社会的養護の友達がいる子と、周りにそういう環境で育った友達がいない子の差も大きいので、もっと身近に感じてもらえるような社会になっていったらいいなと。里親さんも一生懸命やってくれていると思うので、その方向性をみんなで検討して、サポートしながら社会でこどもを育てる、手を繋いだ「輪っか」みたいなものが作れたらいいのではと思います。

※「ぴあ活動」は、朝日新聞厚生文化事業団の児童養護施設・里親家庭等進学応援金(奨学金)を受けている大学生などの「応援生」が中心になって企画・運営しています。


るかさん

るかさん/福祉系専攻の大学4年生。ぴあ活動全体のリーダー(「ぴあ応援フェス」も担当)。東京都出身。里親家庭で育ち、何度か里親家庭が変更になった経験がある。


しょうりさん

しょうりさん/経営学専攻の大学3年生。「ぴあ応援フェス」チームリーダー。栃木県出身。里親委託経験後、ファミリーホームで育つ。


ゆうごさん

ゆうごさん/経済学専攻の大学3年生。「ぴあ応援ブック」チームリーダー。三重県の里親家庭で育つ。フェスでは当日の内容をブックにまとめて発信する予定で、フェスの運営にも関わる。