あたたかい家庭を必要としている子どもたちがいます 広げよう「里親」の輪
一般社団法人ぐるーん代表理事河本美津子さん

「親」にならなくてもいい。でも子どものために「何か」はできる

「里親にならなくても、家族と離れて生活している子どもたちのためにできることはある」。里親でありながら乳児院や児童養護施設を訪れて、子どもたちを「抱っこ」する活動を続けている一般社団法人ぐるーんの代表理事、河本美津子さん(65)はこう話します。里親制度に関心はあっても、すぐに行動を起こすのが難しい人もいるのではないでしょうか。ぐるーんの活動の傍ら、里親として預かった子どもを育てる河本さんに、まず一歩を踏み出すためのお話を聞きました。

子どもの存在そのものを「抱っこ」する

「無理なく、楽しく、できるだけ」
河本さんが里親を始めるきっかけとなった一般社団法人「ぐるーん」の合言葉です。ぐるーんでは、全国各地にいる「サポーター」が定期的に乳児院や児童養護施設を訪れ、子どもたちを「抱っこ」します。抱っこするのは、子どもに「あなたのことを見ているよ、関心を持っているよ」ということを伝えるためです。

「『抱っこ』といっても、身体的な抱っこだけではありません。子どもを見つめて『目で抱っこ』、声をかけて『言葉で抱っこ』することもできるんですよ。その子の存在そのものを抱っこするんです」

「抱っこだけではなく、訪問先の施設の需要に応じて、できることは何でもします。例えば乳児院なら授乳やオムツ交換、着替え・入浴の手伝いですね。児童養護施設では一緒に遊んだり、宿題を見守ったりもします」

2020年からのコロナ禍で、定期訪問が難しくなった施設もありますが、新規で活動が始まった施設もあります。訪問を休止している施設には、サポーターが何かの折にベビースタイ(よだれかけ)や日用品、おせち料理などの寄付を届け、「気にかけているよ」というメッセージを送り続けています。

河本さんが執筆し、イラストを描いた「ぐるーん」の10周年記念冊子
河本さんが執筆し、イラストを描いた「ぐるーん」の10周年記念冊子

1人の母親が始めた抱っこの活動

ぐるーんは2011年、前代表の有尾美香子さんが神奈川県で設立しました。ぐるーんのホームページには、有尾さんがシングルマザーとして2人の子どもを育てる中で、「もし私が本格的に身体を壊してしまったら、子どもたちはどうなるんだろう?」と考えたことが、児童養護施設の子どもたちと接点を持つきっかけになったと書かれています。

有尾さんは神奈川県で受け入れてくれる児童養護施設を探し、1人で施設の子どもを抱っこする活動を始めました。活動は有尾さんの周りの人たち、さらにその知り合いなどに広がり、ぐるーんという組織になりました。河本さんは2012年、SNSでぐるーんのことを知りました。

「私は日本語教師として、岡山の小中学校で外国籍の子どもたちに言葉を教えていました。そこであるとき、『この子たちは言葉もわからないなか学校で大変だけれど、家に帰れば母親がぎゅーっと抱きしめてくれる。でも、親と離れて施設で暮らしている子どもたちはどうだろう?』と思ったんです」

「3人の実子が巣立ち、『里親のようにフルに関わることはできないけれど、自分に許された時間で何かできないか』と考えていました。そんなときにぐるーんの活動を知り、『これだ!』と思いました」

抱っこに行ったサポーターは皆、「抱っこを『してあげている』んじゃない、私たちが抱っこを『してもらっている』感覚になる」と言うのだそうです。

「抱っこを『してあげている』んじゃない、私たちが抱っこを『してもらっている』感覚になる」と語る河本美津子さん

4000人のサポーターが広げる愛情の輪

ぐるーんは2014年に一般社団法人となり、有尾さんが代表理事に、河本さんは理事に就きました。ぐるーんの活動も全国に広がり、サポーターは約1000人に増えました。しかし有尾さんは2015年、病のために43歳で亡くなりました。河本さんは、有尾さんから代表を引き継いだのです。

ぐるーんには2022年現在、47都道府県で10代~80代の男女、4000人以上のサポーターが登録しています。設立当初から行っている抱っこや支援を必要とする里親、委託児童へのサポーター派遣に加えて、菓子作りやダンス、リトミック、手芸、バルーンなど、それぞれのサポーターのスキルを生かしながら、施設で暮らす子どもたちと触れ合うイベントやワークショップなどにも取り組んでいます。

「ぐるーん」のサポーターが手作りしたブローチ
「ぐるーん」のサポーターが手作りしたブローチ

自分が将来築く家庭のモデルに触れる

ぐるーんは、季節・週末里親の登録推進にも力を入れています。ぐるーんの活動を通して里親にも関心を持ち、季節・週末里親に登録した河本さんが最初に受け入れたのは、高校2年の男の子でした。

「彼は週末や長期休暇にうちに来るようになりました。そして高校3年の秋に就職が決まりましたが、独り暮らしの不安もあり、卒業後に施設を出てから2年間、私の自宅で一緒に暮らしました。社会的養護のつながりではなく、下宿のおばさんといった関係ですね」

「就職後は無遅刻無欠勤で頑張りましたが、毎日何かにつけ『辞めたい』と言っていました。その子は育ってきた環境の中で働く大人をほとんど見たことがなかったんです。将来自分の家庭を築く際のモデルに触れる、知るということは必要なことだと感じました」

1人の子どもに「おじさん」「おばさん」は何人いてもいい

河本さんは、その子が大好きな熱々のグラタンをほおばりながら、「幸せ~」と言ったときの笑顔は忘れられない、といいます。

「季節・週末里親なら、親類の子どもが遊びに来る感覚で子ども達と関わることができますし、また1人のこどもに対して何人いてもいいと思います。親代わりではなくて、いろいろな距離感のおじさんやおばさん、ということですね」

それから河本さんは季節・週末里親として数人の養育にかかわり、2021年3月から養育里親として現在17歳になる男の子と夫、保健所から引き取った犬と一緒に生活しています。

「まずはとにかくその子の話を聞きました。私も夫も親というよりはおじいちゃん、おばあちゃんに近い年齢です。時間もありますし、子育てに一生懸命になり過ぎないというのかな。実子のときとはまた違うゆとりの子育てができています」

「まずはとにかくその子の話を聞きました。私も夫も親というよりはおじいちゃん、おばあちゃんに近い年齢です。時間もありますし、子育てに一生懸命になり過ぎないというのかな。実子のときとはまた違うゆとりの子育てができています」と語る河本美津子さん

社会全体で子どもを育てる必要がある

河本さんはいま、社会全体で子どもを育てていくことの必要性を感じています。ぐるーんでは里親でなくとも、困っている家庭に食料品や衣類を差し入れるほか、岡山県の県立高校では家や学校以外の子どもたちの居場所になり、色々な価値観を知るところとしてカフェを運営しています。

「実子でも里親としてお預かりする子どもでも、保護者だけで育てるのは大変です。里親になれる状況の人は里親登録してもらえるともちろんいいのですが、里親にならなくても、子どもたちのためにあなたができることはきっとあります。子どもと直接触れ合わなくても、子どもに送るスタイ(よだれかけ)を作ることはできるし、その子や里親を応援することもできます。あなたができることを一緒に考えて、見つけていきましょう」


河本美津子さん

こうもと・みつこ/1957年、岡山県生まれ。一般社団法人ぐるーん代表理事。2012年に岡山で初めてぐるーんのサポーターに登録し、前代表の有尾美香子さんが亡くなったことから、2015年に代表を引き継いだ。成人した実子が3人いて、河本さん夫妻と実子夫妻で生活していたときに里親として子どもを預かり、一時は5人で暮らしたことも。以前に里親として関わった子どもとは現在も交流が続いている。