子どもたちの未来を考える日本女子大学の林浩康教授
子どもたちの未来を考える日本女子大学の林浩康教授

子どもの「生きる力」を育む里親家庭

インターネットで「里親」と検索すると、犬や猫の譲渡に関するサイトや記事のリストがずらりと出てきます。これも大事な問題ですが、私たちは今、もっともっと考えたいことがあります。

親元で暮らせない子どもたちの成長を市民が家庭の中で支えていく「里親」という制度を知っていますか? 支え手を求めている子どもたちは、あなたを待っています。林浩康・日本女子大学教授から、私たちへの問いかけです。


「親しか頼れない」「親にも頼れない」状況はリスク

長年、子どもたちを取り巻く環境を見てきましたが、親から影響を受ける度合いが非常に強まってきています。子どもの親への依存度が高まり、世帯収入の格差が子どもの将来の格差に結びつきやすい社会です。

さらに新型コロナウイルスの感染拡大で、「STAY HOME」が呼びかけられ、それに応じて家にこもることで、子どもに対する親の影響がさらに強まるのではないかと心配しています。家庭内で何が起きているかは外から見えづらく、子どもにとって「親しか頼れない」「親にも頼れない」という状況は大きなリスクになってしまうこともあるからです。

かつては、子どもが地域社会で育っていく中で、近所付き合いなど自然に培われた人間関係がありました。そこが「逃げ込んでいく場」にもなっていました。ところが今はどうでしょう。人間関係が希薄化した社会になり、「子どもの居場所」や「逃げ込んでいく場」を社会全体が努力して作っていかなければならない時代なのです。

子どもにとって家庭は、安心して甘えられる場所であって欲しいと思いますが、親の余裕のなさなどから親子関係がこじれることは、どのような家庭にも起こりうることです。だからこそ、子どもにとって「居場所」は、家庭以外にも必要なのです。

「生きる力」という言葉を最近聞く機会が増えました。子どもの育ちにとって大切なことです。「生きる力」とは、「非認知能力」と言い換えることができます。それは自尊感情、忍耐力、対人関係能力、危機に対応する力などを意味します。

子どもにとって、安心して生活できる体験、安心して甘えられる体験が、「生きる力」を育むことにもつながります。しかし、全ての子どもたちがそうした体験を積めているでしょうか。むしろ傷つけられ、どこにも「居場所」のない子どもたちもいるのではないでしょうか。

何らかの事情があって親元で生活できず、里親家庭や乳児院、児童養護施設などで暮らす子どもたちの場合は、虐待やネグレクトなどの被害体験が積み重なっていることも多く、人間関係の形成が困難で、助けを周囲に求める力も低い傾向にあります。つまり、さらに孤立しやすい立場にあるのです。そうした子どもたちの「育ち直し」において、安心して生活できる家庭が必要不可欠です。

居場所のない子供たちを懸念する林浩康教授
「生きる力」の意味を語る

家庭養育の強み

「社会的養護」という言葉、知っていますか? 親がいなかったり、親が育てていくことが難しかったりする子どもを社会的に養育する場です。里親やファミリーホームといった養育者の家庭に子どもを迎え入れる場合と、乳児院や児童養護施設のような集団の中で複数の養育者によって育まれる場合があります。

それぞれに役割があるのですが、子ども目線で考えると、里親など家庭環境の中で一貫した養育者と生活することでより深い個別関係の形成や感情交流が可能となり、「依存体験」をより積めるほか、家庭には「生活体験」の中での学びの機会が多くあると言えます。あえて教わらなくても、家庭生活の中で身についていくことがあります。いくつか事例を紹介しましょう。

里親が前の晩の残り物を朝ごはんに出したら、子どもが不満を言った、という話を聞いたことがあります。子どもがそれまでの人生の中で、家庭生活で培うこのような「生活の工夫」を身につける機会が十分になかったから発してしまった言葉なのです。

施設では集団生活のため、日々の生活では、日課や当番、役割が設けられているところもあります。集団生活を身につけられる面がある一方、みなさんの生活はもっと柔軟ですよね。柔軟だからこそ、自ら考え、動くことが育まれてきますが、そうした機会を十分に得られないで社会に出てしまう子どもたちもおり、一人暮らしに苦戦することがあります。

みなさんも幼いころ、おままごとをして遊んだ経験がありますよね。しかし、物心ついたころから施設で暮らしていると、子どもの中には里親家庭に迎えられた時、おままごとができないということがあります。ハッとさせられます。

最近は、児童養護施設などでも家庭的な養護を目指していますが、里親は、少なくとも一人の一貫した養育者と生活基盤を共有するため、子どもに安心感をもたらし、「依存体験」や「生活体験」を積み重ねていきやすい面があります。自ら考え動くという自立の芽が年齢に応じて育っていくものです。

安心感や生活の中で得る実体験が大切だという林浩康教授
「依存体験」や「生活体験」を積み重ねていきやすい家庭養護が必要だという

「措置」期間の見える化が必要

日本の里親制度は、今まさに過渡期にあります。政府は、欧米やオセアニアなど里親への委託率の高い国を目標にして、できるだけ委託率を上げていこうとしています。これらの国々のように、日本も今、本来あるべき姿は子どもが家庭で養育されるべきものという理念をベースにして、施設養護中心から家庭養護中心への移行を目指していますが、里親制度自体が一般的に知られていないのが実情です。

こうした国々が最終的に目指しているのは、基本的には家庭復帰や養子縁組といった法的により安定した親子関係の保障です。裁判所が「措置」にからむことで、モニタリングの役目を果たし、まず一定期間家庭復帰に向けた取り組みがなされます。日本では、裁判所がかかわるケースは非常に限られています。日本も、社会的養護での措置期間が長期化していることに疑問を持たなくてはいけません。そのためには、施設や里親における子どもの措置期間の「見える化」も必要です。

諸外国の中には原則として社会的養護の対象となる子どもたちが施設や里親の元で暮らす期間は、長くても1年程度で、「一時的なもの」という位置付けの国もあります。もちろん現実にはそうしたことが困難で、里親や施設での生活が長期化する子どもたちも存在しますが、原則論に向けた努力はなされます。一方、日本では長いケースになると10年以上となり、かなり差があります。

里親研修や「チーム養育」の充実で、里親への過度な依存を脱することが、里親制度普及につながるという林浩康教授
里親研修や「チーム養育」の充実で、里親への過度な依存を脱することが、里親制度普及につながるという

「チーム養育」を活用した里親養育

日本では近年、子どもの育ちを支え、里親の負担感を軽減するため、「チーム養育」と言われるように里親養育支援の体制が充実してきています。しかしまだ子どもの養育支援は不十分で、里親に大きく依存している状況です。里親も支援者もチームの一員として共に養育に携わるという意識と、子どもの養育を支える場が必要です。

日本では、里親登録をしている人の半数程度以下しか、子どもが委託されていないという現実があります。日本の研修は座学や施設実習が中心ですが、里親への委託率が高い国々では、グループワークを積み重ねていくのが特徴です。自分の成育歴を振り返ること、里親となる動機や自身の価値観などについて理解を深める研修も必要でしょう。

里親の負担感を軽減するための「チーム教育」が大切だと語る林浩康教授
里親研修では、グループワークを積み重ねていくことが重要という

社会の一員としてできることを考えよう

社会的養護という言葉は、社会による養育と捉えることができます。国民は社会の一員として、互いに養育を共有する意識をもつことが前提として必要だと思います。そうした意識づくりのために、親と暮らす一般家庭の子どもも対象とした「週末里親」「ショートステイ里親」というような機会を地域の中に作っていくことも必要だと思います。

多くの人は養子縁組や里親家庭の子どもたちが身近にいないがゆえに、認知度が低く、それが当事者にマイノリティ意識を生んでしまうという悪循環があります。そうした家庭を増やすとともに、「ショートステイ里親」や「週末里親」の制度がもっと広がれば、養育の共有意識も広がると思います。

社会のしわ寄せは、どうしても弱い立場の人に集約されがちです。生みの親が育てられない子どもは、社会が責任を持って育てなければいけません。市民は社会の一員として、自分たちの生活の延長線上で考え、養育の共有に貢献することが求められています。


はやし・ひろやす/日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授。専門は社会福祉学。社会的養護や子どもの支援のあり方をテーマに取り組んでおり、当事者たちの声に耳を傾けることを基本としている。

はやし・ひろやす/日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授。専門は社会福祉学。社会的養護や子どもの支援のあり方をテーマに取り組んでおり、当事者たちの声に耳を傾けることを基本としている。

本事業は里親制度広報啓発事業として実施しています(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
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