あのあやのさんの場合
きっかけさえあれば誰でも里親になれる

他人の息子を育てることは、できますか?
家族は血が繋がってなくても、いいですか?
30代独身男性と少年の里親・里子物語。
(WEB「モーニング」の『人の息子』作品情報ページから引用)

マンガ『人の息子』が連載されている「モーニング」(講談社)のサイトには、こんな紹介文が書かれています。里親家庭を舞台に、展開していくマンガの作者あのあやのさんは、何を伝えたいのでしょうか? インタビューをすると、あのさんはマンガを描き進める中で、「里親家庭とは親子関係より家族というコミュニティーが大切じゃないかなと感じました」と語ってくれました。

里親と養子縁組の違い、知らなかった

――社会的なテーマを扱うマンガが話題になったり、ドラマになったりすることがありますが、あのさんは、なぜ里親制度をテーマにしたマンガを描き始めたのでしょうか?

「ベビモフ」(講談社、2019年に終了)という子育て世代向けサイトで、子育てにまつわるテーマでマンガを描けないか、編集者と一緒に考えていました。実は、里親制度をテーマにする案は編集者が出してくれた案の一つでした。私は当時、詳しく知らなかったんです。

私も漠然とですが家族をテーマにしたマンガを描いてみたいとは思っていたところでした。私も一人親の家庭で育ちました。今では珍しいことではありませんが、当時は子ども同士でも、これって差別や偏見じゃないのという体験をしたことがありました。友だちの親に「お母さんはどんな仕事しているの?」と聞かれたり、小学校では生い立ちを振り返る授業があったりしましたね。みんなお父さんとお母さんの思い出を書いていましたが、私にはお父さんの思い出がなかったんです。こういう経験があったので、里親制度もまだまだ世の中では知られていないがために誤解されていることがあるんじゃないかということを感じていました。

私の家の近所には里親の支援施設があって、日々その施設の看板を見ていたので、ちょっと気になっていたこともありました。マンガを描くことになって訪ねてみると、そこでは里親をしている人たち向けのサロンをしていました。里親をする中で悩みもありますし、そんなことを相談し合える場でしたね。

――マンガを描くために取材する前は、里親制度のことをよく知らなかったということですが、どのようなイメージを持っていましたか?

里親と養子縁組の違いを知りませんでした。一般的には、里親という言葉から犬や猫の里親をイメージする人が多いと思うんですね。犬や猫の場合、里親といっても引き取ればずっと家にいますよね。動物と子どもたちを一緒にするわけではありませんが、里親家庭に来た子どもはずっとその家にいるものだと思っていました。調べていくうちに、思っていたイメージと全然違うんだなと気づいたんです。

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あえて「普通の人」として描いた

――マンガを描くために現場の人たちの取材をしたそうですね。

里親を支援する施設や市の子育て支援課に話を聞きに行きました。どこに取材に行っても、支援している職員の人たちは「里親制度の認知度が足りない」と話していました。里親制度と言いますが、みなさん、これは子どものための制度なんだという点を強調していました。

テレビ番組などで不妊症のご夫婦が子どもを欲しくて里親になるというイメージが、どうしても先行していますよね。それは悪いことではないと思うんですけど、これだけが強くなると、大人の方が子どもを求めていないと成立しないということになってしまいます。でも、取材を重ね、マンガを描く中で、やっぱり子どものための制度としてあることが重要なんだと思いました。

――なぜ、30代独身の男性を主人公にしたのでしょう?

子育てというと、女性のイメージがあるじゃないですか。里親というと、夫婦のイメージが浮かびますよね。里親制度のことをちょっと調べたら、意外だったんですが性別は関係なくて、結婚していなくても独身やパートナー同士でも大丈夫な自治体もあると知りました。そういう人でも里親になれることを伝えられたらと思いました。

取材した施設の職員の中には「男性は子育てに関するコミュニティーを持っていないから不利です」と言う人がいたことも印象に残っていました。確かに、ママ友みたいなコミュニティーがないですね。里親に限らず、男親だけで子どもを育てている家庭は、絶対数が少ないこともありますが、ママ友なら子どもを連れて友だちとランチすることがありますが、パパ友の飲み会に子どもを連れて行くってこと聞かないですよね。私は、男の人が子どもを連れて友だちに会いに行くことがあってもいいと思うんですよね。男の人がそうしてくれたら、私は子育てが楽になるなと思いますし、積極的になって欲しいですね。

――主人公のモデルはいるのですか?

やはり特別な人として描いてしまうと、特別な人だから里親をやっているんだと捉えられてしまうと思ったんですよね。だから、どこにでもいそうなキャラクターにしたし、顔もイケメンにはしませんでした。どこにでもいそうな人が、きっかけさえあれば里親になるんだということを伝えたいと思ったからです。子どもはかわいく描きましたけどね(笑)。

――身近なこととして読んでもらうために工夫したことはありますか?

主人公の里親は、とっぴなことをしないということです。

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生活立て直せば一緒に暮らせると考えて

――里親家庭のことを調べていく中で感じたことはありますか?

子どもと一緒に暮らせない親にとって、施設から子どもが里親のところに行くことに「子どもが懐いちゃうんじゃないか」とか、「養子になっちゃう」「自分と縁が切れちゃう」と思い込んでいる親も多いかなと思うんですよね。でも、里親家庭に子どもがとられちゃうわけじゃないんですよね。生活を立て直せば再び一緒に暮らせる。そういう考え方ができるようにすることが重要だし、そのためには支援が必要ですね。まずは、里親制度を知らないと何も始まらない。だから少しでも多くの人、若い人にも知ってもらうことが大切なんです。

――里親家庭で得られること、喜びって、どんなことだと思いますか?

子どもにとっては自分のことを第一に考えてくれる大人が近くにいることが喜びの一つかなと思います。施設でも職員はいますが、1対1じゃないですよね。

やっぱり子どもがうれしいことが里親の喜びになるのが一番いいと思います。元気で育っていってくれたらいいかなとも思います。

里親家庭は、親子の関係というより、家庭というコミュニティーが大事なんじゃないかなと思います。

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「季節里親」「週末里親」がもっとあっていい

――あのさんは小学1年生になるお子さんを育てているということですが、里親家庭で暮らす子どもの子育てや向き合い方に違いがあると思いますか?

自分の子どもではないということより、里親家庭で暮らす子どもたちが、生みの親と暮らせない原因や別離を経験していることに、ケアや気を使わなくてはいけないポイントがあると思います。血のつながりが親子かどうかということではなくて。

初めて里親として子どもを育てる人と、初めて子どもが生まれた人は、初めての子育てということでは同じだと思うんですよね。大変なところも、楽しいところも一緒だと思います。

今の家族は、親のきょうだいが少ないから、いとこが少ない人が多いですよね。里親になるというと大変なイメージがあるけど、「季節里親」や「週末里親」がもっとあってもいいと思います。子どもからすると、いとこが遊びに来るという感覚に似ていて楽しいと思います。

子育ては立ち止まって考える機会を

――マンガの反響はどうですか?

レビューは気にしますね。話の性質上、最初に「泣ける」というコメントが来ますが、私はお涙頂戴(ちょうだい)という感じでは描きたくなかったんですね。不幸な子どもの境遇がドラマチックだから描こうというのは、正直失礼だし、私がこのマンガを通じて伝えたい差別めいたものをなくしたいということの対極ですよね。読者の感情を動かすことは悪いことではないですが、読者を泣かせるために描いているわけではありません。

女性向けのマンガが多く掲載されているアプリでも読めるのですが、コメント欄を読むと、マンガに登場する子どもの実の母親のように「私もこうなりかねない」とか、「私は一概にこのお母さんがひどいとは思えない」と投稿した人がいました。マンガを通じて、読者が立ち止まって考える機会を作れればいいなと思いました。

あの・あやの/東京都出身。下町生まれ、郊外育ち。神奈川県在住の一児の母。元書店員。「Dモーニング」で養育里親をテーマにした漫画『人の息子』連載中。

本事業は里親制度広報啓発事業として実施しています(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
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