全国を飛び回る渡邊守さん
渡邊守さんの場合
これからの里親制度充実は、地域力がカギ

家族と離れて生活しなければならなくなった子どもたちに、人生にポジティブな変化と長期的な利益がもたらされるように――。里親養育を包括的に支援する「フォスタリング機関」として自治体と契約して里親養育の普及や質の向上に取り組んでいるNPO法人キーアセットの渡邊守代表に、現代社会の家庭に合った里親リクルートや研修、支援事業を一貫して行う重要性について聞いてみました。

里親って命を削ってやることじゃない

フォスタリング機関という聞き慣れない仕組みは、2016年の児童福祉法改正で、「子どもの家庭養育優先原則」が明記され、都道府県が行うべき里親に関する業務として正式に位置づけられました。2010年、大阪府内に事務所を構えて活動を始めた渡邊さんが運営するキーアセットは、契約した自治体の住民の中から新たな里親を見つけ、保護された子どもを受け入れた後の里親支援までを一貫して行う民間団体です。

そんな渡邊さんが里親支援に関わるきっかけとなったのは、自身の両親が里親として受け入れていた子どもとのある出来事からでした。

「両親はベテランの里親で、地域の方々や里親会のみなさんとのつながりもありました。短期から長期までたくさんの子どもを養育してきていましたが、3歳から養育していた男の子が中高生になると荒れだしてしまいました。60代後半の両親は中高生の考え方についていけなかったのかもしれません。男の子からすると、里親が耳を傾けてくれる存在になっていなかったのだと思います」

「高校1年の3学期になると『1分1秒でも早く家を出て行きたい』と言うし、母は『命を削ってでも絶対に育て上げる』と言い切っていました。私が腹を割って話をしてみると『普通の生活』がしたいと言いました。『普通の生活』とは、テレビドラマのような生活でした。ドラマで描かれる家庭って、一般家庭よりもちょっと憧れたくなる生活をしていますよね。自分がそういう生活をできないのは里親家庭にいるからだと思い込んでいたのかもしれません」

当時、渡邊さんは、この話を聞いた妻から「その男の子の行先の選択肢になれないか」と背中を押されて里親になったのが、里親制度と関わる始まりでした。母親はそれから2年後、亡くなったそうです。

「本当に命を削ってやっていたんだなと思いました。でも同時に、里親って命を削ってやることじゃないと思うのです。こんな悲劇はないなと思いました」

児童相談所、学校、両親の友人、親族、地域の人たち、里親仲間も、みんな母を支えようとしてくれていたそうです。男の子も反社会的な行動をしていたわけではないし、支えてくれた誰かの怠慢によって事態が悪化していったわけでもありませんでした。

「何かが欠けているんだろうと思いました。その何かをずっと探し続けていた時、イギリスでフォスタリング事業をしている民間団体の会長に出会ったんです。日本で里親制度充実のためのソーシャルワークができるかリサーチしてみるように言われ、『このチャンスを絶対逃すまい』という感触をつかみ、1人でNPO法人を立ち上げました」

里親家庭を地域で孤立させないためのサポートが重要と話す
多様な家庭のあり方に沿ったリクルートや支援を

渡邊さんが母親を通じて感じた「里親は命を削ってやることじゃない」と思うほどの状況が、フォスタリング機関を始めるきっかけとなったそうです。「里親は理想的な家庭でなければ」といったイメージを持つ人がこれまで多かったのではないかと思いますが、今は変わってきたのでしょうか。渡邊さんは、里親の支援制度はかなり充実してきていると見ていますが、同時に子どものニーズはどんどん複雑化し、大きくなってきているといいます。もっとスピード感を持って里親支援の環境を整えていかないと、子どものニーズに里親家庭が応えられるようになる前に里親家庭が燃え尽きていくリスクがあると指摘します。

「そうならないために必要なのは、『多様な家庭のかたち』の一つである里親家庭を地域で孤立させないよう、地域社会と結びつける働きです。その働きを里親さんと協働するためには信頼関係が重要です。それをリクルート、研修、家庭訪問など包括的な支援をするなかで築いていくことが、私たちの役割です」

キーアセットは、その包括的支援事業を2015年に大阪府からモデル事業として受託し、府内の一部自治体で始めました。まずは市民が抱く里親へのイメージを変えること。そして、地域のサポートを受けて里親をする新しい家庭を増やしていくこと。たくさんある生き方の中で、里親という選択肢があることを知り、里親という生き方を選んでもらうために必要なことを考えました。

「全国を俯瞰(ふかん)すると、いまだに委託された子どもの養育に関わる課題をできるだけ抱え込んでくれる里親を求めている地域があるのではないかと感じています。里親個人だけに、養育上の課題解決や必要な地域資源の発掘が出来ると期待するのは、日本がめざす『社会的養育』にそぐわないと思います」
「専業主婦で、実子が自立していて、家も広々していて、すでに地域と積極的につながりをもっている――。そんな理想の里親を大勢見つけるのは、これだけ多様な家族像が広がっている中では現実的とは思えません」

現代社会では、たくさんある生き方の中で里親という生き方を選んでもらうという考え方から里親制度の普及活動を始める必要があるという
里親研修でのグループワークで学び合う大切さ

家庭が地域につながっていたり、つなげることができたりすることで、100点満点の家庭でなくても里親家庭になる生き方を選べる可能性を高められると考える渡邊さんは、こんなふうに例えてくれました。

「仮に、里親家庭の養育力は最低限70点が必要だとします。極端かもしれませんが、地域力が50点、里親の個人の資質や養育力が20点でも、合計で70点となりクリアできます。子どものニーズに応えられるなら私はそれでもいいと思うんです。これから里親となってくれる家庭を増やすために大事なことは、里親を孤立させないために一緒に考え、協働してくれる地域力があるかです」

キーアセットが地域で新しい里親家庭を開拓していく中で、大切にしていることがあります。

「地域につながる機会をこれまでもたなかった方も少なくないかもしれません。キーアセットではそのような方でも地域とつながることに興味をもっていたり、前向きであったりする気持ちを大切にしています。もう一つは、柔軟性です。里親になる前の研修では、様々なグループワークをします。そうすると多様な意見が出てきて、参加者同士も学び合い、変化をしていきます。自分たちの常識が通用しないこともあること、過去を共有していない子どもとの新しい生活で文化の衝突はよくあるということを理解して対応しようとする柔軟性です」

本来は親の元で暮らすことができない子ども、その原因を減らすことが重要です。その一方で、虐待やネグレクトなど子どもの命に関わる場合もあり、里親やファミリーホーム、児童養護施設などで暮らす子どもの数は、増加傾向にあります。地域の中で、里親を増やすことも減らすことも、口コミ一つで大きな影響があると言われています。

「『子どもが昨日できなかったことが、今日できた。その成長に関われるって本当にやりがいがある。あなたもやってみない?』。こんなポジティブな口コミが一番効果的なリクルートです。そのポジティブな経験を地域社会のなかで積み重ねていただけるよう、児童相談所を中心に私たちのような関係機関が支援する体制をこれからも充実させていきます」

わたなべ・まもる/NPO法人キーアセット代表理事。2006年に里親登録をして関わり始め、10年に現在の里親支援の団体を設立。現在、大阪、東京、川崎、福岡、埼玉、千葉に事務所を置き、六つの自治体から里親支援に関する事業を受託している。

本事業は里親制度広報啓発事業として実施しています(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
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