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Breakthrough 突破する力 演出家 小川絵梨子が瞬間をつなぎ、物語に命吹き込む「外の風に触れ、全力で扉押した」



稽古場で指示を出す声は柔らかい=東京都渋谷区 Photo:Semba Satoru

持てる力全てで挑む


だが、当時、日本ではほぼ無名。稽古場に「誰?」という空気が流れた。小川も舞台用語や作品を練っていく過程が米国と違うと知り、戸惑う。でも、引き返せない。極度の不安に陥った。ニューヨーク時代の仲間で俳優の保科由里子が助手についてくれた。稽古後、スイッチが切れたように寝転がり、2人で一日を振り返る。精神安定剤も服用し、踏みとどまった。「自分の持つ力、全てで挑む姿を尊いと思った」と保科は言う。


開幕すると、リアルな人間描写とドラマが評価された。現在の新国立劇場演劇部門の芸術監督、演出家・宮田慶子(60)は「俳優が内面から生まれるものを頼りに芝居をしていた。時間をかけないとたどり着けないこと。頼もしく思った」。小川にとっては、父親役の故・中嶋しゅうをはじめ、目標を共有できる俳優との出会いも財産となった。「役や物語がまず先にくる、自分と同じ方向性の方でした。ひたすら怖かったけれど、勇気になった」。この成功が扉を開き、日本で活躍の場が広がっていく。14年にはニューヨークのアパートを引き払った。


小川には願いがある。「演劇に慣れていない人も、自然に物語を体験できる演劇を育てたい」。自分は、10代で憧れたスターのように、すごく新しい何かを生みだすタイプではないと思っている。だからこそ――。芸術監督1年目の企画にも、種はまいたつもりだ。「一代では出来ないかも。でも、カラフルな日本の演劇に、そのラインが1本、あってほしい」



(文中敬称略)



(次ページへ続く)

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