RSS

Breakthrough 突破する力 NPO法人「CANVAS」理事長 石戸奈々子が教育界に新風を吹き込む「21世紀の新たな学び」

デジタルで変える学び、想像して創造する

プログラミング教育に関するシンポジウムのパネル討議で司会する=東京都文京区の東京大学
Photo:Semba Satoru

帰国後すぐに立ち上げに携わったCANVASは、当初4年で活動を終える計画だった。その間に、デジタル教育を実際に子どもたちに体験してもらう「ワークショップ」を全国で展開し、同じような組織が各地に生まれ、育っていく。そんなシナリオを描いていたからだ。だが、ネットがようやく一般にも普及しつつあった当時の日本では、デジタルへの視線は今よりずっと厳しかった。子どもの視力や脳に悪影響はないか。教師の職が奪われるのではないか。そんなデジタルに対する世間の不安は予想以上に強く、活動の輪はなかなか広がらない。石戸は日本に腰を落ちつけて、地道に活動を続けていく道を選んだ。


04年からは年1回、アートやアニメ制作、実験、プログラミングといった全国100 以上のワークショップを一堂に紹介する「ワークショップコレクション」をスタート。これだけ大規模な子ども関連のイベントで、大きな事故やクレームは命取りになる。石戸は裏方のスタッフらと計画を練り、企業や自治体などと交渉を重ねた。その苦労が実を結び、開催2日間で10万人の来場を記録。世界最大級の子ども向け創作イベントとして注目を集めるようになる。草の根的に全国で展開してきたワークショップも、これまでに計3千回、参加人数はのべ約50万人に達した。


デジタル教育の「本丸」となる学校現場でも、10年ごろから追い風が吹き始めた。当時の民主党政権が教育の情報化に力を入れたのに加え、iPadやスマホなど新たなデバイスが広まると、親たちの世代の意識も変わり始めた。おのずとデジタル教科書やプログラミングを導入する議論が加速した。


石戸自身も役所の有識者会議や審議会の委員として積極的に身をさらして、教育界に変化を促すことに力を注いだ。とくに、小学校でのデジタル教科書とプログラミング教育の早期導入に、石戸はこだわった。「ワークショップの参加者はのべ50万人だが、日本には約1千万人の小中学生がいる。学校にプログラミングなどの学びが入ることは、私の悲願だった」


しかし、20年度の導入に向けた準備は遅々として進んでいない。デジタル教育には新たな技術やシステムの導入が欠かせない。教育現場で劇的な変化が起きることを望まない団体などとの攻防が続くなか、そうした団体の勢いに押されて石戸らが運営する一般社団法人「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」が組織存続の危機に立たされたこともあった。追い詰められた石戸を救ったのは、デジタル教育に理解を示す民間の人びとだった。「自分の子どものことを考えても、これからの教育にデジタルはなくてはならない」「石戸さんたちの活動は必要だ」。総会で口々に励まされ、人前で愚痴や弱音を吐くことがめったにない石戸の目に涙があふれた。


石戸らに頼まれてDiTT会長に就いた、元東大総長の小宮山宏(73)は言う。「日本には新しいことには動かないという構造がある。石戸さんには、その構造を変える先べんをつけてほしい。信じるところをやれ、妥協するな。彼女にはそう言っている」


期待を背に石戸は言う。「日本の学校はソーシャル化どころか、その前段のデジタル化で苦労している。でもこれからは、その先のAI時代の学びのあり方についても、子どもたちと議論しながら提示していきたい」


(文中敬称略)

(次ページへ続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示