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混雑した電車内の「前リュック」論争、日本はマナーに縛られすぎ?ドイツとの違い

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages

先日「電車に乗る時、リュックサックを前に抱えるべきか否か」という話題がSNSで議論になりました。

電車が混んでいる時、リュックサックを従来通り「後ろに背負う」と後ろの人に迷惑がかかる可能性がある一方で、リュックサックを腹側に抱える、いわゆる「前リュック」と呼ばれるスタイルについても「場所をとることは変わらない」「ひじを張ってスマホを操作していたら、結局邪魔になる」「自分は妊娠中だから前リュックは無理」など様々な意見が寄せられました。

今回は海外とも比べながら電車内の「マナー問題」について考えます。

ドイツに「電車のマナー」はない

筆者が出身の南ドイツのミュンヘンでは、今も一部「座席が向かい合わせ」のタイプの古い地下鉄の車両が残っています。この場合、座席に腰かけた人が大きな荷物を床に置いてしまうと、向かい側に座る人の足に当たるため邪魔になってしまいます。

先日、筆者がミュンヘンで電車に乗ったとき、乗客2人がこのことでトラブルになっていました。相手の荷物を邪魔だと感じた女性が「荷物は上の棚に上げなさいよ」と言ったところ、言われた側の女性が「それだと人に盗まれるかもしれないから嫌だ」と拒否。車内にしばらく気まずい空気が流れました。

写真はイメージです=gettyimages

ドイツの大都市の電車は東京ほど混まないので、単純に比較することはできないものの、ドイツでも「電車の中ではどんな行為をすることが好ましいのか、好ましくないのか」をめぐって友達や知人同士で話すことはあります。でも日本のようにメディアやSNSがそのテーマで「盛り上がる」ことはあまりありません。

世界で「ルール好き」のイメージのあるドイツ人ですが、意外にも「電車内で何をしてよいか、悪いか」について「ルール」はありません。

だから電車の車掌さんが「荷物はこのようにしてください」と車内アナウンスをすることはありませんし、いわゆる「マナーポスター」も見かけたことがありません。かといって、年がら年中、上記のような「気まずい空気」が流れるわけでもありません。乗客同士で「このようにしてくださる?」とお願いして、相手が素直にそれに応じることもあります。人によって「対応はまちまち」です。

つまり「何々の時はこうしてください」と一般化するのではなく、考え方は人によって違うので、対応の仕方も様々なのが当たり前だと考えられています。ルールを一律化せず、乗客同士で会話をしながら、臨機応変に対応するのがベストだというのがドイツの一般的な考え方です。

そもそも「マナーとは何か」ということについて各自の解釈が違うので、ドイツでは「これがマナー」というふうに一般化できないわけです。もちろん昔からのナイフやフォークの使い方など「食事に関するマナー」はあるわけですが、「電車の中で荷物をどうするか」といった話はそもそも「マナー」関連の話だと考えられていません。

携帯で話すのは禁止なのに「アナウンス広告」

筆者は東京に住んでいますが、車の免許を持っていないこともあり、電車で移動することが多いです。「こんなに人が多いのに、これといったトラブルもなくスムーズにみんなが電車に乗れているというのは、本当にすごいことだな」と常々感じます。

その一方で「あの時のルール、いつの間にかなくなっている!」と不思議に思うことも。かつて日本の電車では心臓ペースメーカーの乗客に配慮し「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」といったアナウンスがよく流れていました。ところがいつの間にそういったアナウンスはほとんど聞かなくなりました。技術の向上や研究結果を受けてのことだと思われます。

ただ、昔も今も日本では「電車の中での携帯電話での通話を控える」ことが「マナー」だとされています。だから今も電車やバスの中で「携帯電話での通話はお控え下さい」というアナウンスが流れることがあります。

写真はイメージです=gettyimages

東京の公共交通機関は混みますので、確かに全員が携帯電話で会話を始めたら、「カオスな状態」になることは目に見えています。実は筆者も「多くの人が使用する電車やバスでは『音』が少ないに越したことはない」と思っています。

そんななかで疑問に思うことがあります。バスに乗っていると、乗客は話さずに静かにしているのに、甲高い声の「車内アナウンス広告」が流れるのです。筆者が使用するバスでは「ナントカ英会話教室」や「ナントカ美容皮膚科」などの宣伝が流れます。

「乗客には『携帯電話での通話を控える』ことを求めるのに、乗客はなぜこんな甲高い声の宣伝広告を聞かされなくてはならないのか」と毎回疑問に思うわけです。

バスの「車内アナウンス広告」に限らないことですが、日本では駅のアナウンスが重複したりと「色んな音」が聞こえてきます。乗客が声を出すことについて厳しいわりには、発車メロディーも含め色んな音が聞こえてきて決して静かではありません。

筆者は「昭和の時代」が好きなこともあり、発車メロディーも「レトロ感」があり好きなのですが、「電車内で個人の携帯電話の着信音にはあれだけ厳しい目線が向けられるのに……」とも思います。

ちなみにドイツの電車や駅は「ピンポンピンポン」などの人工的な音がすることはなく、アナウンスも最小限に抑えられています。ただ、これはこれで「電車が止まっても、アナウンスがないため、いつ再開の目処が立つか分からない」などサービス面での問題がありますが……。

一律のルール化に意味はあるか

冒頭の「満員電車の中でリュックサックは前に抱えるべきか否か」という問題について、ネット上では、女性とみられる人の意見として「私は満員電車でもリュックは背負ったままが多いです。理由は痴漢対策。前は自分で見えるし手で防ぐこともできますが、何も背負っていない背中は正直、無防備な状態です。痴漢の多い車内で自分を守るために背負っています。少しは理解して頂きたいです」というものがありました。

「前リュック」は胸が大きい人やふくよかな体型の人にとっても厳しいかもしれません。

電車内のリュックサックについて「前リュックにすべき」「従来の通り背中で背負わせてほしい」「床に置くべき」「車両の棚に上げるべき」など「それぞれの立場」から様々な意見があるわけです。「立場が違う」と全く違う意見になるのだな、ということが浮き彫りになりました。

例えば「棚に置くべき」という意見について、背が低い人から「そもそも棚に手が届かない」という声があります。筆者自身は背が高いものの、それでも荷物を棚に置くことはありません。まず、ラッシュで押されていくうちに棚から離れてしまい荷物が取れなくなってしまう不安があります。それからこれは個人的な事情ですが、筆者は「手先が不器用でよく物を落っことす」傾向があるため、棚に上げた荷物を降ろす際に下に座っている乗客の頭に落としてしまうかもしれない、という不安があるからです。

ちなみにリュックサックはローマ字でRucksackです。Ruckはドイツ語で背中を意味するRückenからきており、Sackは袋や入れ物という意味です。ドイツで育った筆者としては、日本の満員電車の中の話だということを考慮しても、やっぱり「リュックサックはその名の通り、背中に背負いたい」と思ってしまいます。

求められるのは臨機応変な姿勢

人口が多く公共交通機関が混む東京のような街で、「ルールはなし」というわけにはいかないのかもしれません。それでも人間には各自事情があり、それゆえに「ルールには例外もある」ということを多くの人が念頭に置いておいたほうがピリピリせずに済むとも思います。

「電車の中での通話は控えること」がルールであっても、緊急の場合は電話に出て話さざるを得ない状況もあるでしょう。そこは温かい目で見守っても良いかと思います。筆者も普段は電車の中にいる時に携帯電話で話すことはありません。でもドイツで一人暮らしをしている高齢の母がいるので、「ドイツからの番号」で電話がかかってきた時は「万一のことがあるかもしれない」ので、電車の中であっても電話に出たいと思っています。

「ルール」たるものは存在しても、それが絶対的な正義ではないということは心得ておいたほうが良いかもしれません。「電車内での携帯電話での通話よりも、酔っぱらいの大きな声のほうが不快」というような声だってあるわけです。捉え方次第の部分も大きいのではないでしょうか。

平和な証拠?

ドイツで「荷物」についてアナウンスがある時、それは駅でも空港でもたいがいは「持ち主の分からない荷物にはご注意を」という内容です。これはテロを警戒してのことです。ポツンと置かれた荷物の中には爆弾が入っているかもしれません。だから持ち主の分からない荷物を見かけたら速やかにその場を離れ、警察や保安官に通報しなければなりません。

そう考えると、リュックサックという「荷物」の話になった時に「棚に上げるべきか」「前リュックにすべきか」などといったことにスポットが当たる日本はつくづく平和だな、と感じます。