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税と国境 スワヴォミル・マイマン

World Now 更新日: 公開日:
photo:Kamiya Takeshi

スワヴォミル・マイマン(63)情報・外国投資庁長官

政府の一貫した姿勢も大切

ポーランドが外国からの投資誘致に成功した要因には、経済状況を挙げることができます。リーマン・ショックで各国がマイナス成長になるなかでもEUで唯一、「優雅に踊った」のです。つまり1年たりともGDPは落ち込みませんでした。それが大きな磁力となり、外国企業が引きつけられているんです。今年の上半期をみても3.5%成長を果たしており、EUのなかではトップでした。

ポーランドを形容する時に使う「魔法の言葉」があります。「安定」です。経済的にも、政治的にも、金融的にも、ポーランドは安定している。外国企業は安定を求めるものです。こうした要因に加えて、企業は税制の優遇なども判断に加えて、進出を考えるのです。

外国からの投資に対する、政府の一貫した姿勢も大事です。1989年の体制転換後、ポーランドの政権をみると、右派も左派も、保守もリベラルもありました。でも、すべての政権が二つの原則をしっかり守ってきました。自由な経済政策と、外国からの投資に対してオープンであることです。ポーランドにとって、外国からの投資にオープンなのは当然のことです。昨年、輸出の60%が、外国資本が入った企業によってなされました。とても大きな規模です。

体制転換は、産業地図の再編を伴いました。古いタイプの炭鉱や鉄鋼、繊維、造船などの産業は、その姿を劇的に変えるか、なくなりました。いま、ポーランドは自動車や航空機、家電、食品加工の生産で欧州トップ級です。そこには、とても大きな割合で、外国企業がかかわっています。そして古いタイプの産業でも、例えば造船なら、競争力の高い先端技術を使った分野に特化するなどして変化しています。外国からの投資は、ポーランドに雇用をもたらすだけではなく、産業地図の転換に大きな役割を果たしたのです。

政府が行う外国企業の支援には、大きく二つのインセンティブがあります。キャッシュを伴うものと、そうでないものです。キャッシュを伴うインセンティブとしては、政府がこれから育てたいと考えている戦略分野、例えば研究開発、航空機、食品加工、情報通信技術、バイオなどに外国企業が投資をした場合、新しい雇用数や投資額に応じて、政府から支援を受けられます。

キャッシュを伴わないインセンティブとしては、ポーランド内に14ある特別経済地域(SEZ)が挙げられます。ここでは法人税の控除が受けられます。昨年はSEZ全体で30万人余りの新しい雇用をつくり出しました。これは、すごい規模です。

税について付け足せば、支援は国によるものだけではなく、地方自治体によるものもあります。例えば固定資産税。雇用の数など地元経済にメリットがあると地方自治体が判断すれば、かなり減額されるか、ゼロになります。

外国企業は、こうしたビジネス環境を評価し、昨年、ポーランド内であげた利益のうちの55%を、海外に持ち出さず、ポーランド内での再投資に回しています。

日本企業は、体制が転換してからすぐにポーランドに進出しました。安い人件費を目当てに、主に自動車や電子機器の分野でした。しかし最近は人件費が上がっていることもあり、進出の速度がスローダウンしています。こうした単純な組み立て産業の関連企業の一部が、ブルガリアやルーマニアなどに移る動きもあります。

日本からの投資についても、ポーランド政府が戦略分野として狙っている研究開発や食品加工、情報通信技術などに多様化したいというのが、私の考えです。ポーランドはいま、欧州の産業のハブになっています。日本企業には、そこに注目してもらいたいです。
(構成:神谷毅)