RSS

いまを読む

北朝鮮の子供たち、核ミサイル開発の影の犠牲者

ビーズリー国連WFP事務局長に聞く

インタビューに答える国連WFPのビーズリー事務局長 photo : Nakano Wataru



国連は昨秋、世界の「飢餓人口」が約10年ぶりに増加に転じ、その最大の原因は紛争であるとする報告書を発表した。国連はどう立ち向かい、米国や日本ができることは何か。来日した国連世界食糧計画(WFP)のデービッド・ビーズリー事務局長に、懸念される北朝鮮の食糧不足やミャンマーの少数派ロヒンギャ難民の状況なども合わせて聞いた。(聞き手・GLOBE編集部 中野渉)



――栄養不足の状態にある「飢餓人口」は今、世界全体でどのような状況にありますか。


飢餓人口はここ10年以上減り続けていたのですが2016年に増加に転じ、その前年の7億7700万人から8億1500万人になりました。これは世界総人口の11%にあたります。そのうち1億900万人は明日食べることもままならない深刻な状況で、命を落としかねない危機にあります。


その主な理由は明確で、紛争と戦争です。現在、シリアや南スーダン、イエメン、ソマリアなど19カ国がその危機に直面しており、飢餓人口の6割にあたる4億8900万人がそこに暮らしています。そして、WFPの支出の82%もがその地域のために使われています。


5歳未満の子ども1億5500万人は慢性的な栄養失調に陥っています。SDGs(2015年に国連で全会一致で採択された持続可能な開発目標)は2030年までに飢餓を無くす目標を立てていますが、紛争がなくならなければ達成できません。子どもたちの希望は打ち砕かれ、夢が実現しないのです。


WFPは16年には世界82カ国の約8200万人に対して約55億ドル(約6100億円)の支援をしました。しかし、数十億ドルの規模でより多くの資金が必要です。


――WFPの最近の取り組みはどんなものですか。


例えば昨年12月に現地視察をしてきたのですが、北アフリカのアルジェリアで16年から始めた科学技術を使った水耕栽培事業があります。

2017年1月31日、アルジェリアで WFP/Nina Schroeder

同国ではモロッコから逃れた多くの西サハラ難民がキャンプで暮らしています。サハラ砂漠に囲まれ干ばつに悩まされる場所ですが、事業では、太陽電池を利用して室温や明かりを調整したコンテナの中で、大麦など家畜の飼料を育てています。従来よりも早く収穫でき、さらに水の利用も10%から20%だけで済みます。


この飼料で育つヤギやヒツジなどの家畜はミルクを生産しますし、後に食肉にもなります。安全な飼料なので、家畜の死亡率も低くなりました。


砂漠の地で食料のサイクルが完結しており、持続的でもあります。同様の事業をペルーやヨルダンでも手がけています。

2017年11月29日、アルジェリアで WFP/Lourdes Melendo

――飢餓について日本ができることは何でしょうか。


日本は技術を持っており、その点でリーダーになることができます。また、毎年、世界で5、6番目に多い約2億ドル(約220億円)を拠出しています。


しかし飢餓者が増えている事実があります。そこで私は日本に対し、より多くの資金援助や民間部門の協力のほか、若い世代もSNSで発信して力を与えてほしいと思っています。


――世界の人々は、トランプ政権が米国の拠出金を減らすのではないかと危惧しています。


米国はこれまで、WFPに対して毎年最多の拠出をしてきました。私は米国人として、米国が拠出削減をすることはないと強調したいですし、これを死守したいです。


私は昨年4月5日に事務局長に着任して以来、かなりの時間を共和・民主両党の重要国会議員らと話すことに費やしてきました。WFPを通じて効果的に人道支援することが、ひいては米国の安全保障には極めて重要で、拠出金をカットするのは米国の国防予算を削減するのと同じだと強調してきました。


――WFPは、北朝鮮では栄養価の高い食品を妊婦や子どもに与えています。また、ミャンマーから隣国バングラデシュへと避難している少数派イスラム教徒ロヒンギャの人たちへの支援もしていますが、どちらの状況も深刻です。どう見ていますか。


北朝鮮は、核とミサイル開発を続けていることで各国からの支援が減っており、今後、食料不足などに陥る危険があります。可能なら私も北朝鮮を訪問し、指導者と話し合いたいと思っています。できる限りのことをし、無垢な子どもたちが犠牲にならないようにしたいです。支援の可能性を探りたいです。


私はまた、昨年10月にバングラデシュのロヒンギャの人たちの難民キャンプを訪れました。ロヒンギャの人たちは、あまりに言語道断の虐待を受けていました。母親が腕に抱えていた赤ん坊が無理やり取り上げられて火の中に投げ捨てられたとか、子どもが背中から銃で撃たれたとか、爆発で女性や子どもが命を落としたとか、悲惨な話ばかりを聞きました。人々は食料が不足し衛生状態が悪いという劣悪な状況に置かれており、一刻も早い支援が必要です。

2017年10月1日、バングラデシュで WFP/Saikat Mojumder


最後に、WFPの事業にドイツなど欧州各国や日本のように富のある国はもちろんですが、ロシアや中国といった大国はもっと関与してほしいと強調したいです。世界各国が手を携え、コストを抑えて結果を出します。世界すべての子どもたちが学校に行って給食を食べられるようになるよう、努力をしていきます。


2017年10月1日、バングラデシュで
WFP/Saikat Mojumder



David Beasley(デービッド・ビーズリー)

1957年生まれ。米サウスカロライナ州下院議員や同州知事を歴任。99年にはハーバード大学ケネディ行政大学院フェロー。昨年4月に国連世界食糧計画(WFP)の事務局長に就任した。


国連世界食糧計画(WFP=World Food Programme)

飢餓の撲滅を目的に1963年に活動を開始した国連機関。開発途上国や被災地への食糧援助を担当する。本部ローマ。


この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

米ニューヨーク大学大学教授ロバート・ボイントンさんに聞く 問題は日本の「9.11」 朝鮮半島との関係史から読み解く

米ニューヨーク大学大学教授ロバート・ボイントンさんに聞く
問題は日本の「9.11」 朝鮮半島との関係史から読み解く

ビーズリー国連WFP事務局長に聞く 北朝鮮の子供たち、核ミサイル開発の影の犠牲者

ビーズリー国連WFP事務局長に聞く
北朝鮮の子供たち、核ミサイル開発の影の犠牲者

香港の映画監督ン・ガーリョンさんに聞く 中国を意識、自己規制広がる香港 台湾との連携で活路を模索

香港の映画監督ン・ガーリョンさんに聞く
中国を意識、自己規制広がる香港 台湾との連携で活路を模索

ベイン・アンド・カンパニー パートナー エリック・ガートンさんに聞く 大企業病招くビジネス環境 貴重な人材、意欲引き出せ

ベイン・アンド・カンパニー パートナー エリック・ガートンさんに聞く
大企業病招くビジネス環境 貴重な人材、意欲引き出せ

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示