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「パレスチナにとって、これが唯一の道」 分断の世に、必要なこと

パレスチナ人医師イッゼルディン・アブエライシュさんに聞く

報道陣と意見交換するイッゼルディン・アブエライシュさん=高橋友佳理撮影

国家や民族間の分断が各地で表面化している現在。パレスチナ自治区ガザに生まれ育ち、イスラエルで働く初めてのパレスチナ人医師となったイッゼルディン・アブエライシュ・トロント大准教授(62)は2009年、自宅への砲撃で自身の娘を3人亡くした。だが、翌年、『I Shall Not Hate(それでも、私は憎まない)』の著書を出し、憎しみではなく対話を呼びかけた。先月来日し、広島や長崎などで講演したアブエライシュ氏に、いまの世に必要なことを聞いた。


――ガザの現状は。


耳に入ってくる状況は悪いままだ。電気は1日4時間しか供給されず、汚水が垂れ流され、飲み水も安全ではない。電気は現代人にとって空気のようなもの。病院や学校で電気が足りないと、どんなに困るか分かるだろうか。家庭では夜、ろうそくで明かりを取るためにやけどを負う人が続出している。この10年間にガザは3回の大規模攻撃を受け、イスラエルは物と人の流れを制限している。国連は今のペースで人口が増えれば20年にはガザは人が住めない状態になると警告している。21世紀にもなってこのような状況下で人々が苦しむことを、放置してはならない。


――先月、10年にわたり分裂状態にあるパレスチナ自治政府の主要組織ファタハとガザを実効支配するイスラム組織ハマスの両代表団が和解で合意しました。この動きをどのように見ていますか。


パレスチナにとって、これが残された唯一の道だと感じている。同じ人々で占領者も同じなのに、そもそも分かれるべきではなかった。一つになることができなければ、人々は政治への信念を失ってしまう。この和解を快く思っていないイスラエルは、再び両者を分断しようと、先日ガザを攻撃しハマスのメンバーらを殺害した。パレスチナのリーダーたちは報復してはならない。パレスチナの内政に介入する機会をイスラエルに与えてはいけない。暴力からは何も生まれないのだ。


――医者の視点から、イスラエル・パレスチナ問題はどう解決できると思うか。


患者が血を流している間に、リハビリを始めることはできない。パレスチナは血を流し集中治療室に入っている状態だ。まずイスラエルによる占領に終止符を打ち、パレスチナ人がイスラエル人と平等の市民にならなければ、リハビリに移ることができない。イスラエルも占領により病んでいる。占領が終わることは、イスラエルにもより安全をもたらすと信じている。


――トランプ米大統領をどう見ていますか。


オバマ氏が大統領になったとき、私たちは希望を持った。ただ、彼はよい言葉を発したものの、実際には何もしなかった。状況は何も変わらないどころか悪くなったほどだ。私たちはどの政治家にも過度な期待を懐かなくなった。だが誰にでも、意志があるところに道はあると思う。


――09年、イスラエル軍のガザ大規模攻撃で自宅にロケット弾が打ち込まれ、3人の娘とめいを目の前で亡くしましたが、あなたは憎しみに駆られることなく、双方の対話を呼びかけました。翌年出版された本は23カ国語に訳され、米国やカナダでは教材に使われ、欧州では劇化されました。


「パレスチナ人の苦しみを知り、光を見た」「読んで変化が起こった」など世界中から何千ものEメールを受け取っている。個人レベルの苦しみだけではなく、国や地域が暴力行為に遭遇したときにそれをどう乗り越えるかの手引きにもしてほしい。


――今回の来日で、初めて広島と長崎も訪れました。何を感じましたか。


日本が受けた戦禍について頭では知っていたが、実際に博物館などを訪ね目で見て話を聞き、原爆投下への怒りと痛みを感じた。広島で平和の鐘を鳴らした時、その音が子どもの泣き声に聞こえた。死んだ娘たちの声と重なり、悲しみがこみ上げた。日本が大きな被害を受けたにもかかわらず、自尊心を失わず、その後の復興を遂げたことに、今まで以上に励まされている。

(聞き手・グローブ編集部 高橋友佳理)



Izzeldin Abuelaish

2014年に日本語訳が出版された著書。『それでも、私は憎まない』(亜紀書房)

1955年、ガザ地区の難民キャンプで生まれる。奨学金を得てエジプト・カイロ大学医学部を卒業。ロンドン大で学位、ハーバード大で修士号を取得。97年にイスラエルの病院で初のパレスチナ人研修医となり、その後不妊治療を専門とする医師としてイスラエル人、パレスチナ人の双方を治療。現在はカナダ在住。娘たちの追悼基金「Daughters For Life Foundation」で中東の少女たちの教育を支援している。

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