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トランプ米政権の攻撃 調査報道で対峙

ダグ・ハディックス調査報道記者・編集者協会事務局長に聞く



 米国で報道を取り巻く環境が悪化している。ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」など、調査報道で権力と対峙(たいじ)してきた米国のジャーナリズムに何が起きているのか。米国のNPO、調査報道記者・編集者協会(IRE)の事務局長に聞いた。




 ――メディアを取り巻く状況はどう変わりましたか。

 トランプ政権はおそらく1960年代末からのニクソン政権以来、メディアに対して最も敵対的な政権です。2大政党の支持者に国が分断されるなか、メディアも党派的な存在の一つになってしまいました。昨年の大統領選では、トランプを始めとする複数の候補者が集会で記者を名指しで批判し、聴衆から喝采を得ました。今では記者が公共の場で危険な目に遭う恐れもあります。IREでは、会員の記者に身を守るための方法も伝えています。


 ――どうして敵視されるようになったのでしょうか。

 ここ10年ほどの間に新聞を読む人が減り、テレビやソーシャルメディアからニュースを得る人が増えました。ネット上では、誤りやニセの情報が広まりやすい。さらにテレビでは、FOXニュースを始めとして党派色が強まり、オピニオン番組とニュース番組がごちゃ混ぜになりつつあります。その結果、視聴者は何が事実なのかを理解するのが難しくなりました。


 多くの人が自分の世界に閉じこもり、事実ではなく、自分の政治的観点に合致する情報だけに接するようになったことも原因の一つです。リベラルにも保守にも同じことが言えるでしょう。


 ――メディアへの不信が高まる環境で、調査報道に何が求められるのでしょうか。

 会員に助言しているのは、記事の透明性を確保し、説明責任を果たすことです。学術論文のようにどこで情報を得たのか注釈を付けて、記事の材料にした文書やネット上のデータを共有する。


 その上で、今の政権に対する報道で言えば、ホワイトハウスの発表だけを追うのではなく、その声明や決定が日々の暮らしにどんな影響を及ぼすかに焦点を当てることです。


 ツイッターであっても大統領の言葉は政府の公式声明で、記者としては逐一追いかけたくなります。しかし、トランプ大統領は翌日には正反対のことを言うので、そこに多くの時間を割く価値はありません。


 トランプ政権が決めた不法移民の若者の救済制度の撤廃を例にとると、彼らを強制送還することが本人や家族にとって何を意味するのか、さらに経済にどんな影響を与えるのか。米国では、低賃金労働の働き手を見つけるのが難しい実態があります。日常の生活に結びつく記事を発信できれば、読者や視聴者からもっと信頼を得られるようになると思います。それが権力を監視する番人としての役割でもあります。


 ――トランプ政権は機密情報流出の取り締まりを強化する方針を発表しました。番人を続けられますか。

 外部に情報を提供した政府関係者の訴追と、メディア側への捜査強化の二つの攻撃が仕掛けられています。現時点では、トランプ政権が本当に内部告発者や記者を逮捕する気なのかは定かではありません。


 しかし、記者と内部告発者のつながりは、民主主義にとって非常に重要です。メディアやNGOなど50団体が今年1月に開いた会合で、メディアを弱体化させる試みに抵抗する方法を意見交換したとき、「連帯」という言葉が出てきました。30年に及ぶ私の記者経験のなかで、初めて聞いた言葉です。


 米国では、一人の記者に対する攻撃はすべての記者に対する攻撃だという認識が広がりつつあります。トランプ政権とメディアの関係がどうなるかは分かりませんが、報道の自由を守るために連帯しうることに希望を感じています。(聞き手・GLOBE編集部 宋光祐)


ダグ・ハディックス調査報道記者・編集者協会事務局長



 インディアナ大学で修士号を取得後、米国各地の報道機関で記者やデスクを経験。オハイオ州の日刊紙コロンバス・ディスパッチで調査報道に取り組んだ。調査報道記者・編集者協会では2016年から現職。調査報道に生かせる取材手法の研修プログラムを提供している。

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