シーズン佳境の5月中旬。イタリア3大クラブの一角に数えられ、優勝18回を誇るインテル・ミラノが、本拠ジュゼッペ・メアッツァに中位のサッスオロを迎えた。
しかし、収容約8万人のスタジアムを埋めたのは半分だけ。観戦したフェデリコ・タボラ(40)は「いつものことだけど、半分なんて寂しいね」。試合は1 2でインテルが力負け。覇気を欠く戦いに、ゴール裏のサポーターは前半途中に観戦をボイコットした。スタンドの寂しさはいっそう増した。
それでもインテルのホーム観客数は平均で約4万6000人とセリエAトップだ。ただ今季、満員は2試合のみ。成績低迷もあるが、時代遅れのスタジアムの影響も大きいといわれる。
今、スポーツビジネスで成功のカギを握るとされるのが、きれいで観戦しやすく、レストランなどを備えた複合商業施設型のスタジアムだ。ところが、セリエAの大半のスタジアムは老朽化が激しい。ACミランと共用のインテルの本拠も完成は1925年。トイレが汚く、飲食の売店は数が少ないうえに品ぞろえも悪い。
イタリアサッカー連盟によると、2015年時点でセリエA各クラブの本拠は建設から平均で約69年が経つ。大型映像装置がない、ピッチから客席が遠い、席が屋根に覆われていない。そんな施設がある。
約20年前は1試合3万人を超えたセリエAの平均観客数は、今季約2万2000人。古豪サンプドリアは、昨季から約1割減の約1万9000人にとどまった。最新型のスタジアムを備え、常に9割が埋まるイングランドやドイツのリーグとの差は開くばかりだ。
希望の光「ユベントス」
チケット収入にも響く。15年はセリエA全体で計2億400万ユーロ(約300億円)。一方、イングランド・プレミアリーグは7億1800万ユーロ(約910億円)、ドイツ1部は4億7340万ユーロ(約600億円)だった。
スタジアムの改善が急務なのに、各クラブの腰は重い。元イタリア代表で国営テレビ解説者のサルバトーレ・スキラッチ(52)は「まず資金。さらに政治や行政、地元との交渉で物事が進まない」。スタジアムに商業施設を入れようとしたら、地元の商工会議所が注文をつけるなど、調整が難航することもあるという。
マラドーナ、ジダンらスターが集まった時代も遠い昔だ。クラブが選手1人にかける費用は年平均139万ユーロ(約1億8000万円)。イングランドは307万ユーロ(約3億9000万円)と倍以上だ。
希望の光は名門ユベントスだ。トリノ郊外に収容4万1000人の新スタジアムを11年にオープン。客席とピッチが近く、音響も充実。敷地内にショッピングモールも併設し、毎試合、9割以上が埋まる。米経済誌フォーブスの調査では、資産価値はサッカークラブ世界9位の約1400億円でセリエAトップ。チケット入手が困難となり、さらに人気を呼ぶ。
戦力面もFWイグアインをナポリから獲得したように、ライバルチームの主力を引き抜き、セリエA史上初の6連覇中だ。
成功例にならえと、サッスオロ、ウディネーゼがスタジアム改装にこぎつけ、収益を改善させた。しかし、イタリア経済の停滞もあり、他クラブまで波及しない。最高峰リーグ奪回への道は遠い。