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内部告発者自身が語るジャーナリズムの危機~『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

ペンタゴン・ペーパーズを内部告発したダニエル・エルズバーグ(左)。今年2月、講演後に妻パトリシアとともに=米カリフォルニア州バークリー、藤えりか撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#86] 藤えりか


「メディアにとっても、またフェミニズムにとっても意義ある映画だ」――。30日公開の米映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(原題: The Post)(2017年)が描く「ペンタゴン・ペーパーズ」を内部告発したまさにその人、ダニエル・エルズバーグ(86)に約7年ぶりに会いに行き、そう言われた。自ら危険を冒し、ベトナム戦争をめぐる米政府のウソを世に知らしめた20世紀を代表する内部告発者にインタビュー、今作の問題提起について考えた。


ペンタゴンとは米国防総省のこと。米バージニア州アーリントンにある同省の建物が五角形であることからそう呼ばれる。エルズバーグは同省系のランド研究所で軍事アナリストをしていたが、1971年3月、約7000ページもの機密文書をひそかに持ち出した。これが世に言う「ペンタゴン・ペーパーズ」。ベトナム戦争での米国の軍事行動について膨大な事実がつづられ、トルーマンにアイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンまで4人の大統領のもと、政府がウソの説明を何度もしていたことをもつまびらかにするものだった。

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』より ©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

エルズバーグは当初、当時の国家安全保障問題担当の大統領補佐官キッシンジャーや、上院外交委員長フルブライト議員らを動かそうとしたが叶わず、当時34歳のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)記者ニール・シーハンに持ち込む。NYTは法律顧問の反対を押し切り、約3カ月の精査を経て第一報を報じた。当時のニクソン政権は激怒、「国家の安全保障を脅かす」との理由で公表中止を求め、連邦裁は掲載中止の仮処分命令を出す。だが続いてワシントン・ポスト紙も文書を入手し報道。他の地方紙も続々と報じるようになり、最高裁は掲載中止の命令を無効とした。すでにベトナム戦争での死傷者数がどんどん増えていたさなか。報道を受け、ベトナム反戦運動は盛り上がった。


映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、原題のThe Postが示す通り、NYTの特ダネを続報で追ったワシントン・ポスト紙に焦点を当てる。NYTに比べ、「ワシントンの地方紙」といった雰囲気もまだ色濃かった当時の同紙では社主家のキャサリン・グラハムが、自殺した夫の跡を継ぐ形で主婦から突如として同紙発行人となり、「経験のない女性経営者」として周囲から軽んじられつつも奮闘していた。編集局は編集主幹ベン・ブラッドリーのもと、記者らが文書入手に奔走するが、報じればNYT同様に掲載中止の命令が出される恐れから、株式公開を控えて法律顧問らは猛反対。グラハムは決断を迫られる。

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』より ©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

グラハム役はメリル・ストリープ(68)、ブラッドリー編集主幹を演じたのはトム・ハンクス(61)。監督は言わずと知れたスティーブン・スピルバーグ(71)だ。


新聞記者のはしくれとしては、「特ダネを抜かれた側・追う側」の視点をスクリーンで見るにつけ、あるいは政権からの掲載中止要請でしばし孤立した形のNYTの苦闘を想像するにつけ、ヒリヒリとした思いになる。特ダネは、当事者が容易に認めない内容だったり、関係組織の権力が強大であったりするほど、追いつくのは難儀だ。一方、他社を寄せつけないほどの特ダネで先行したメディアは一見、「勝者独走」状態に映るかもしれないが、当事者が一貫して否定して他社がどこも追随しないと、権力から叩かれる一方で、孤立しかねない。

2011年に自宅でインタビューしたダニエル・エルズバーグ=米バークリー近郊、藤えりか撮影

ペンタゴン・ペーパーズの告発から40年の2011年、米バークリー近郊のエルズバーグの自宅を訪ねたことがある。妻パトリシアとともに迎えてくれたエルズバーグは「文書を多くのメディアに出せたのは、『たくさんコピーしておいたほうがいい』と言ったパトリシアのおかげだ」とたたえた。まだデジタル化が到来するはるか以前。約7000ページもの文書はエルズバーグが、ランド研究所の同僚アンソニー・ルッソと大量にコピーをとったことで、複数のメディアに持ち込むことができた。コピー機時代到来の産物とも言われたが、だからこそ報道はNYTにとどまらず、ワシントン・ポスト紙にボストン・グローブ紙、シカゴ・サンタイムズ紙などにテレビも追い、政府の意に反して報道が盛り上がったことで世論も動いた。「もしコピーしていなければ、(NYTで)止まっていただろう。自分はそこまで気が回らなかった」と振り返った。


エルズバーグはその後、スパイ防止法違反などで逮捕・起訴されたものの、政権側による違法な盗聴などが明らかになり、公訴棄却。以来、反戦・反核運動に身を投じ、何十回と逮捕されても活動を続けているが、かつては「正義の戦争」を信じるタカ派だった。ベトナムに文民として赴いて惨状を目の当たりにし、また帰国後に米国のベトナム介入の歴史を研究するにつれ、「戦争は最初から理にかなったものではなかった。不当な殺人だ」と気づいた。その陰にも、ベトナムで知り合った反戦派パトリシアの影響があったという。



(次ページへ続く)

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