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ハリウッドに響きわたった「メキシコ万歳!」~『リメンバー・ミー』

東京でインタビューに答えるエイドリアン・モリーナ共同監督=池永牧子撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#85] 藤えりか


今週のアカデミー賞授賞式で最も胸を打った受賞スピーチの一つは、メキシコ系の少年がスペイン語で放った一言だろう。「¡Que viva México!(メキシコ万歳!)」。これが今の米国でどれほど重みを持つことか。メキシコの物語を描いてアカデミー長編アニメーション賞に輝いた16日公開の『リメンバー・ミー』(原題: Coco)(2017年)は、メキシコ移民を追い出しにかかり、国境に壁も作ると息巻くトランプ政権下の米国で喝采を浴びた。リー・アンクリッチ監督(50)とエイドリアン・モリーナ共同監督(32)に、それぞれ聞いた。


主人公はメキシコの少年ミゲル(声: アンソニー・ゴンザレス)。ミュージシャンを夢見て、自作のギターで密かに腕を磨いてきたが、一家は音楽を厳禁。ついにはギターまで壊されて打ちひしがれるミゲルだが、伝説の歌手エルネスト・デラクルス(同: ベンジャミン・ブラット、54)が実は高祖父ではないかと思うようになり、希望を見いだす。思いあまってデラクルスの墓所に忍び込むが、遺品のギターを奏でるうち、「死者の国」へと迷い込む。折しも年に一度の行事「死者の日」。先祖の助けで日の出までに「生者の国」へ戻らなければ永遠に帰れなくなるが、ミゲルはそこでも音楽活動に反対する先祖たちと衝突。実の高祖父と信じるデラクルスを探し求めて「死者の国」の奥深くへと飛び出したミゲルは、陽気で孤独なヘクター(同: ガエル・ガルシア・ベルナル、39)と出会う。

『リメンバー・ミー』より ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

アカデミー賞授賞式で「¡Que viva México!(メキシコ万歳!)」と叫んだのが、ミゲルの声を演じたメキシコ系米国人のアンソニー。ヘクターは、米国でも人気のメキシコ人俳優、自称「出稼ぎ労働者」のガエルだ。ちなみに一般にはヘクターと表記されるが、これは英語読み。メキシコに敬意を払って、ここからはスペイン語読みの「エクトル」と呼ぶことにしよう。実際、スペイン語まじりの英語オリジナル版でも「エクトル」と呼ばれている。


さて、そんな「メキシコ万歳!」な映画は、米国より先にメキシコで、死者の日に合わせて2017年10月に公開されるや、メキシコ歴代の興行収入1位を記録した。米興行収入データベースサイト「ボックスオフィスモジョ」によると、翌月公開の米国でも3週連続で週末の興行収入が1位となり、世界の興行収入は約7億4000万ドルに達した。

『リメンバー・ミー』より ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「死者の日」って?という方のために解説を。メキシコなどで長年続く、先祖の魂を迎えるための年に一度の伝統行事で、先住民の儀式を起源にカトリックの普及とともに発達、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。考え方は日本のお盆に似ているが、メキシコの場合はお祭り感がとても強い。先祖が「死者の国」から家族のもとへ帰る道しるべとして、鮮やかなオレンジ色のマリーゴールドの花びらが街中にふんだんにまかれ、色とりどりのガイコツ形の置物やお菓子、マリアッチ楽団の音楽や踊りがそこかしこにあふれてにぎやかだ。私は残念ながら、この期間にメキシコに行く機会はなかったが、少し過ぎた時期に訪ねて、ガイコツ形の飾りや、マリーゴールドの名残を目にしたことが何度かある。このオレンジ色が、カラフルなメキシコの家並みとぴったり。今作でもその色鮮やかさが実にリアルに再現されている。


アンクリッチ監督がこの映画を構想したのは、彼が初めてオスカー像を手にした監督作『トイ・ストーリー3』(2010年)の公開頃だったそうだ。当時の米国は多様性をうたうオバマ政権下だったが、メキシコ移民やその子孫はすでに増え、反移民の運動も各地で起きて、移民対策は当時も政権の課題となっていた。

エイドリアン・モリーナ共同監督=池永牧子撮影

米メディアによると当初は、死者の日をモチーフにしつつも、メキシコ系の米国人少年を主役に据える構想だったそうだ。それを「丸ごとメキシコの物語」に変更したのは、メキシコの伝統は現地の視点で描くべきだと考えたからだという。この英断がなければ、今作はここまでヒットしなかったのではないか、と私は思う。折しも、製作が進む一方で、米社会での反移民のうねりはどんどん高まり、メキシコを悪し様に罵ってはばからないトランプ米大統領が誕生。米国のエンタメ大手ウォルト・ディズニー・カンパニーの傘下にある名門ピクサー・アニメーション・スタジオが、かつてない 「完全にメキシコ視点の物語」を描く意義が、一気に高まった。


今年2月初め、出張先のロサンゼルスで映画関係のイベントに顔を出し、偶然にもアンクリッチ監督と居合わせた。アニー賞授賞式の会場へと急ぐ前のタイミングだったが、声をかけると質問に気さくに応じてくれた。



(次ページへ続く)

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