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フィンランドでも台頭する排外・差別集団~『希望のかなた』

『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

フィンランドへ移るとすぐ、フィンランド語を勉強し、大学でも学んだという。2015年には英国のアングリア・ラスキン大学芸術学部に進み、博士号も取った。フィンランドでは映画のプロダクション会社も設立。今や母語のクルド語とアラビア語、トルコ語、フィンランド語、英語の5カ国語を駆使し、「最近はスペイン語にも挑戦しているよ」とシェルワンは言う。


その多言語対応ぶりも、今作に役立った。それまで映画に出たことがなかったシェルワンにある日、プロダクション会社から「英語とアラビア語と、できればフィンランド語ができて、ユーモアのセンスもある中東出身の俳優を探している」というメールが届いた。端役かなと思いつつ出向くと、フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキ監督(60)の作品の主役を決めるオーディションだった。シェルワンは言う。「脚本を読み、フィンランドの人が中東の難民について深く掘り下げようとしていることに驚いた。とてもすごいことだと思い、期待にこたえる責任をより感じた」

『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

カウリスマキ監督はフィンランドの気骨の映画人だ。9.11米同時多発テロの翌2002年、ニューヨーク映画祭にともに招待されたイランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督(2016年逝去)にビザが出ず、カウリスマキ監督は憤って映画祭をボイコットした。この時、カウリスマキ監督が出した声明はこうだ。「世界中で最も平和を希求する人物の一人であるキアロスタミ監督に、イラン人だからビザが出ないと聞き、深い悲しみを覚える。石油すら持たないフィンランド人はもっと不要だろう。米国防長官は我が国でキノコ狩りでもして気を鎮めたらどうか。世界の文化の交換が妨害されたら何が残る? 武器の交換か?」


そんなカウリスマキ監督だからこそ、今作でも敢えて、フィンランドの負の側面を強調したのだろう。

主演シェルワン・ハジ=早坂元興撮影

シェルワンは語る。「フィンランドはユートピアではない。他の国と同じように、いろんなタイプの人間がいる。カウリスマキ監督としては、フィンランドも何もせずにいたら遅かれ早かれ事態が進んでしまうかもしれないと恐れているんだと思う。世界は今、怒りや恐れ、孤立や争いへと突き進んでいる。フィンランドも今や、極右政党が連立与党の一角を占めているからね」


反欧州連合(EU)や移民排斥を掲げる「フィンランド人党」だ。2015年の総選挙で初めて野党第2党となり、連立政権入りした。加えて最近は、「移民からフィンランド人を守る」という名目で路上をパトロールする自警団も跋扈している。彼らも今作の自警団と同様、黒づくめで知られる。


「彼らは難民だけじゃなく、フィンランド人も攻撃している。アーティストとしては、この現実を作品に反映させようとするのは当然だ」

『希望のかなた』より、人気店をめざして寿司にチャレンジするカーリドらレストランの面々 © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

シェルワン自身はカーリドのような目に遭ったことはないが、友人は経験があるという。シェルワンは言う。「正直、世界は天国じゃない。歴史を振り返っても、それが現実だ。でもだからこそ僕は、悪い面よりいい面を見ていたい。愛や寛容の気持ちでアプローチする人たちだっている。この作品には、いいことをする普通の労働者たちも描かれているが、これも現実の反映だ。彼らも、人種差別主義のグループも、同じ国に生きながら考え方は違う。監督は観客に、前者でいたいか、路上で人種差別的な行動をする人になりたいか、選択を迫っている」


シェルワンはこのインタビューの前日、静岡県の貴船神社を訪れ、手を合わせたそうだ。え、イスラム教徒ではないのですか? そう尋ねると、「僕はイスラム教徒の家族に生まれたけど、だからって僕もイスラム教徒になるとは限らないよね。僕は何の宗教も信仰していないよ」と笑った。「僕は、他の人々とつながったり理解したりするのを阻むものからなるべく逃れようと意識してきた。そうすることで、とてもすばらしい経験が得られる。自分が善き人になるために書物が必要だとは思っていない。もちろん、どんな宗教であれ信仰を持つ人には敬意を感じているけれど、宗教は『受け継ぐ』ものではないと思っている。自分で選択して考える力や知識は受け継ぎたいと思うけれどね」

『希望のかなた』より、カーリドを見守る犬のコイスティネン © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

そう言ってシェルワンは、インタビューをこう結んだ。「僕は自分のことを、グローバル・シチズンだと思っているよ」




藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi

シェルワン・ハジ(左)のインタビューを終えた筆者。映画会社の方が撮ってくださいました





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