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忘れられた南スーダン自衛隊派遣

アフリカ研究者 白戸圭一 06

現実を直視しない日本

5月、PKOの任務を終え南スーダンから撤収する自衛隊員たち

 南スーダンで展開中のUNMISSは11年7月に発足した当初、国連安保理決議によって「国家建設」のための任務のみが付与されていた。同年同月にスーダンから分離独立した時点の南スーダンの治安状態は一応落ち着いていたからである。

 しかし、その後、南スーダンの治安情勢の悪化を受け、UNMISSは新たな安保理決議に基づいて「文民保護」に任務を拡大した。強力な武力行使による「平和の強制執行」を任務としてはいないものの、文民保護のための一定の武力行使が国際法上認められるようになったのである。それは国連が、先述した新しい紛争に対応した原則に則って、PKOの任務を拡大した結果に他ならない。


 日本政府は11年時点では、四半世紀前に定めた「5原則」の順守は可能であると判断し、自衛隊をUNMISSに派遣した。だが、案の定というべきか、南スーダンには四半世紀前の「原則」に固執していたのでは対処できない現実が待っていた。

 どこまでも国内法の原則に忠実であるならば、停戦合意が崩壊している南スーダンから自衛隊は撤収しなければならない。だが、世界60カ国以上が血を流す覚悟で任務に臨んでいる状況下で、日本だけが即座に撤収することは国際政治の常識から言って困難であり、撤収するにしても周到な準備と一定の時間を要する。とはいえ、派遣の原則を根本から見直すのは、日本の政治状況や世論をみれば容易ではない。


 そこで、政府が選んだ道は、どんなに内戦が激化しようと「戦闘」を「衝突」と言い換えることや、戦闘の事実を記した文書を表に出さないこと。すなわち、「詭弁(きべん)」や「隠蔽(いんぺい)」によるその場を凌ぎだった――。南スーダンへの自衛隊派遣を巡って起きた一連の騒動を要約すると、そういうことではないだろうか。

 安倍政権のそうした対応を批判するのはたやすい。しかし、「詭弁」や「隠蔽」の根源を突き詰めると、紛争の現実や国連の基準から遠くかけ離れた日本の自衛隊派遣・運用基準に行き当たる。こうした「世界との乖離(かいり)」に正面から向き合おうとしない点では、リベラル・左派勢力も同じだというところに、日本の問題の深刻さがあるように思う



〈バックナンバー〉

白戸圭一 05 定義なき「テロ等準備罪」

白戸圭一 04 エボラ熱対策、合理性は

白戸圭一 03 現地から「援助より投資を」

白戸圭一 02 「アフリカ」という選択

白戸圭一 01 増え続ける胃袋を満たせ


白戸圭一(しらと・けいいち)

三井物産戦略研究所中東アフリカ室主席研究員。毎日新聞社でヨハネスブルク、ワシントン両特派員などを歴任。2014年より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任准教授兼任。

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