1. HOME
  2. World Now
  3. もう援助はいりません 必要なのは投資です アフリカからの声

もう援助はいりません 必要なのは投資です アフリカからの声

アフリカ@世界 更新日: 公開日:
ヨハネスブルグの中心地

日本企業に出遅れ感も



「もう援助は必要ありません。日本企業の皆さん、ぜひ投資して下さい」。ここ数年、アフリカ諸国の政府関係者から、そんな言葉を聞く機会が増えた。貧困や飢餓が蔓延していた1990年代までのアフリカを知る者としては隔世の感を禁じ得ない。だが、今やアフリカが「援助対象地」ではなく「投資対象地」として世界の注目を浴び、アフリカの人々もそれを自覚していることは紛れもない事実である。

ヨハネスブルグの中心地

1980年代初頭からおよそ20年にわたって低迷を続けたアフリカ経済は、今世紀に入って成長軌道に転じた。国際通貨基金(IMF)の統計によると、最も勢いのあった2003年から2012年までの10年間のサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)の国内総生産(GDP)成長率は平均で年間5.9%に達した。

成長のきかっけは、中国など新興国の経済成長で資源需要が急増し、豊富な天然資源を有するアフリカ諸国に多額の資源マネーが流入したことだった。資源生産国で本格化した成長は周囲の非資源生産国にも波及し、急成長はアフリカ諸国共通の現象となった。

近年の各種資源価格の低迷により、2016年のサブサハラ・アフリカのGDP成長率は1.4%にまで下落したものの、IMFは2018年以降、再び3%台に回復すると予測している。2000年代のような全大陸的な急成長はひと段落したが、国別に見ると、エチオピアのように現在も毎年10%前後の高度成長を持続している国も存在する。

経済が成長すれば、所得水準の向上で消費が拡大し、企業にとっての新たなビジネスチャンスが生まれる。過去10年ほどの間、世界はアフリカ投資ブームに沸き、日本企業の中にもアフリカで成功を収める企業が現れた。ナイジェリアを中心に販売網を拡大する「味の素」や、ケニアでカップヌードルを売る「日清食品」のように、アフリカ社会で一定の知名度を獲得している日本企業もある。

しかし、伝統的にアフリカとの結びつきが強い欧米企業や、今世紀に入ってアフリカ投資を増やした中国、インドなどの企業と比べて、日本企業の「出遅れ感」は否めない。
2014年末時点の世界の主な国の対アフリカ直接投資残高を見ると、米英仏の3カ国がそれぞれ500億ドルを超え、中国が約325億ドル、インドが約136億ドルなのに対し、日本は約100億ドルにとどまっている。中国に抜かれたとはいえ、日本のGDP総額が世界第3位の規模であることを考えると、やはり少ない感じがする。

企業にとって、アフリカへの投資が困難なことは言うまでもない。まず、インフラの問題がある。多くの国で発電所や送電網が絶対的に不足しており、電力の安定確保が至上命題の製造業の進出のネックになっている。また、南アフリカを除いて道路網は未整備で、資材や商品の運搬にはしばしば膨大な時間とコストがかかる。

人材不足も深刻だ。アフリカにも優秀な人材はいるが、残念ながら数が絶対的に不足している。外国企業が進出先のアフリカの国で何かの問題に直面した際、その国の所管省庁に相談しても、対応した役人によって言うことが百八十度違うことも珍しくない。自国の法令に精通している公務員が少なく、そもそも法令自体が存在していないこともあるからだ。

このほかにも「政情が安定しない国が多い」「テロや紛争の心配がある」「汚職がひどく、政府相手のビジネスはできない」「アフリカは欧米や中国の企業に任せ、日本企業はアジアで稼げばよい」など、「アフリカに投資しない理由」はいくらでも列挙できる。

私は仕事柄、様々な日本企業の幹部たちから、そうした声を聞かされている。講演会で「アフリカ市場の魅力」について話したところ、聴衆の年配のビジネスマンから「あんな未開の地に投資なんかできる訳ない」と叱られたこともあった。

進まない投資の理由は?


企業の経営陣が「投資しない」という決定を下すことは、一つの立派な経営判断である。だが、問題は、アフリカ投資に慎重な日本企業(特に大企業)の姿勢が、本当に熟慮の上の経営判断なのかという点ではないだろうか。

ナイロビの街

一例を挙げたい。アフリカの経済の急成長を象徴する現象の一つに、携帯電話の爆発的普及がある。米国の世論調査機関ピューリサーチセンターによると、ケニアとガーナにおける携帯電話普及率は2002年時点で人口の10%に過ぎなかったが、2014年にはケニア82%、ガーナ83%に達し、米国の普及率89%に迫る水準となった。今や砂漠で暮らす遊牧民やジャングルの村人の間にも携帯電話は普及している。

アフリカでは大都市の富裕層や企業オフィスを除いて有線電話がほとんど普及していなかったため、1990年代から2000年代にかけて携帯電話の技術が普及した途端に、アフリカ大陸は世界の通信企業の草刈り場となったのである。

翻って日本の通信産業はこの間、何をしていたのか、説明するまでもないだろう。日本勢はアフリカどころか近隣諸国へすら進出しない「ガラパゴス携帯(ガラケー)」の担い手であった。私が2004年から2008年まで南アフリカに駐在していた当時、南アの携帯電話はアフリカ域内のほぼ全ての渡航先でSIMカードを入れ替えれば通話可能であり、欧州でも米国でも使用できた。通話できなかった唯一の渡航先は一時帰国した祖国だけであった。

ケニア・ナイロビで2016年に開かれた第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)の閉会セッション

昨年8月にケニアのナイロビで開催された日本政府主催の第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)に合わせて放映されたNHKのインタビューで、高い経済成長を遂げているアフリカ中部の小国ルワンダのカガメ大統領が「日本はアフリカへの投資を拡大し、協力関係を強化することをためらっているようだ」と本音を漏らしたことがあった。

主観の域を出ない話であることをご容赦願いたいが、この10年ほどアフリカのエリート層と話をしてきて分かったことの一つは、彼らの多くは日本人の仕事に対する誠実さや高度な技術力を極めて高く評価しているが、同時に「今の日本の大企業は経営陣がリスクを取りたがらず、内向きで、決断が遅い」と考えていることであった。日本国内では若者の「内向き志向」を嘆く中高年の声が大きいが、アフリカのエリート層は、むしろ企業幹部の世代である日本の中高年の「内向き志向」を懸念しているのである。

本当は21世紀のグローバル経済の波に乗り遅れ、過酷なアフリカ市場で戦える力が備わっていないだけなのに、アフリカの短所を並べて「投資しない理由」をもっともらしく取り繕っているだけの経営者もいるのではないか───。世界各国の様々な業種の企業が悪戦苦闘しながらアフリカ・ビジネスに挑んでいる様子を見ていると、アフリカにおける日本企業の出遅れは「アフリカの問題ではなく日本企業の側の問題ではないか」と思うことがある。

「アフリカに投資しないこと」が、情報を集めて精査した上の主体的な経営判断であるならば何の問題もない。だが、日本企業の「出遅れ」が世界市場で戦う力の衰弱を象徴しているのだとしたら、問題はかなり深刻ではないだろうか。