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ビジネスに「アフリカ」という選択を考えてみる

アフリカ@世界 更新日: 公開日:
水草に覆われたビクトリア湖で環境対策に取り組む(明和工業提供)

アフリカ進出「昔は考えもしなかった」

「アフリカでのビジネスに取り組み始めたことで、私たちの会社はこれまでになかった大きな変化を経験しています」

3月末、大阪府茨木市の立命館大学茨木キャンパスで開かれた「アフリカ ビジネス シンポジウム in 大阪」。発表者の一人として出席していた金沢市の環境設備メーカー「明和工業株式会社」の代表取締役、北野滋さんからそんな言葉を聞いた。

シンポジウムは、日本企業のアフリカ向け投資を促進するために、駐日ケニア大使館と立命館大学イノベーションマネジメント研究センターが主催した。4時間以上に及んだシンポジウムでは、アフリカでビジネスを展開している日本企業5社が自社のアフリカビジネスを聴衆に紹介する時間があり、明和工業はそのうちの一社であった。私はシンポジウム冒頭の基調講演を行うために招かれ、会場で北野さんと言葉を交わす機会を得た。

明和工業は、下水汚泥や生ごみを農業用肥料に作り変えるプラントなどを製造・販売している社員50人ほどの企業だ。昨年、ケニアの環境コンサルティング企業で働いた経験のある若い男性を社員として迎え、ケニアの都市部で増大する廃棄物を処理するビジネスに本格的に乗り出した。

昨年9月には、5年間でアフリカの若者1000人を日本の大学院や企業に迎える日本政府の事業「ABE イニシアティブ」の参加企業として名乗りを上げ、アフリカからの留学生約15人の2週間の研修を引き受けた。今年は、アフリカからの留学生5人を半年間の本格的なインターンシップで受け入れることにしているという。

創業は、東京オリンピックが開催された1964年。2000年代に入って以降、中国などアジアの国々に製品を販売してきた実績はあるが、「アフリカでのビジネスに本格的に乗り出すことになるとは、昔は考えもしなかった」(北野さん)という。

外務省統計によると、2015年10月現在、日本企業の海外拠点は全世界に計7万1129カ所あり、このうち70%はアジアに存在している。一方、アフリカにおける日本企業の拠点はというと、全体の0.97%に当たる計687カ所に過ぎない。進出している日本企業も、総合商社や自動車メーカーなどの大手企業が中心であり、中小企業は数えるほどしかない。

ロサンゼルス都市圏に住む日本人は約6万9000人、ニューヨーク都市圏に住む日本人は約4万5000人いる。一つの都市にこれほど多くの日本人が暮らしている一方、日本の80倍もの広さのアフリカ54カ国に住む日本人は、全部合わせておよそ8000人しかいない。日本企業にとって、アフリカは今なお遠い存在である。

創業から半世紀以上が経過した今、明和工業がそんな「遠いアフリカ」でのビジネスに乗り出す理由は何か。北野さんは「自社の先進的な技術を駆使し、廃棄物処理の問題に直面しているアフリカ諸国の役に立ちたい」という思いとともに、「アフリカ市場の成長性に活路を見いだしたい」と、その理由を語ってくれた。

現地調査する北野滋さん(手前)

国内市場の縮小に直面する日本企業

 前回(4月13日)、本サイトに掲載された拙稿「増え続ける『胃袋』をどう満たすか? 人口爆発に直面するアフリカ」では、2100年には人類のおよそ3人に1人以上がサブサハラ・アフリカのの住人となる見通しについて紹介したが、こうした状況と対照的に、史上空前の人口減少と少子高齢化に直面しているのが日本である。

日本の人口は2011年から明らかな減少局面に入った。2015年10月現在の人口は1億2657万で世界11位だが、2050年には1億741万にまで減少する見通しだ。

厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が4月10日に発表した「将来推計人口」を見ると、日本の人口動態は、もはやどのような手を打っても反転回復が困難な状況に陥っていることが分かる。

この推計では、1人の女性が産む子供の数(出生率)が現行水準の1.44であるとした場合、日本の人口は2053年に1億を割り、2065年には2015年比3割減の8808万にまで減少すると予測されている。仮に出生率が2020年代にかけて急上昇し、2065年まで1.8を維持し続けた場合ですら、ぎりぎり1億人を維持できる程度だという。

人口が減っても、移民の受け入れや労働生産性の向上によって、1人当たりGDPの水準をある程度維持していくことは可能かもしれない。

だが、これからの日本では、確実に人が減り、街が消え、多くの製品やサービスの市場が縮小していく。現行の出生率が続いた場合の人口減を分かりやすく表現すれば、2015年に生まれた子供たちが50歳を迎えるまでに、日本では年間平均70数万人ずつ人口が減っていくということだ。自治体でいえば、岡山市(2016年3月末現在70万6728人)に相当する都市が毎年一つずつ消えていく。こうした状況が何十年も続くのである。縮小する国内市場にこだわらず、海外に市場を求めざるを得ない日本企業が次々に出てくるだろう。

そのように考えれば、アフリカに活路を見いだそうとする日本企業の選択が、決して無謀な決断などではなく、むしろ一定の合理性を備えた選択に見えてはこないだろうか。なにせ2050年には、人類のおよそ4人に1人がアフリカ大陸の住人になることが確実視されているのである。日本企業のアフリカ進出は、もはやアフリカの経済発展のためのみならず、日本自身のためでもある時代が来ていると、私は感じている。

とはいえ、アフリカにおけるビジネスは「言うは易く行うは難し」の典型ともいえる。次回はアフリカでのビジネスの難しさについて考えながら、日本が直面する課題についても同時に考えてみたい。