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シネマニア・リポート Cinemania Report [#23] 藤えりか

話題の黒人奴隷史映画、日本公開中止に~『バース・オブ・ネイション』


残念なニュースだ。今年の米サンダンス映画祭でグランプリと観客賞に輝いた話題の米映画『バース・オブ・ネイション』(The Birth of a Nation)の日本を含む国外での公開が、中止になった。米国であまり語られてこなかった、黒人奴隷が白人に反乱を起こした史実をもとにした問題作。トランプが勝った今こそ、なお続く、あるいは悪化さえしている人種間の相克を考える好機になりうると思ったのだが。




(c) 2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION


「ナット・ターナー」と聞いても、米国人でも知っている人はそう多くはないようだ。南北戦争勃発に30年先立つ1831年の米バージニア州で、心身ともにこれでもかと虐げられ続けた黒人奴隷たちが白人の「主人」たちに文字通り刃向かい、結局は弾圧・処刑された事件を率いた人物だが、米国でもこれまで広く教えられることも、本格的に映画化されることもなかったという。舞台となったバージニア州出身で、今作の製作・監督・脚本・主演の4役に挑んだネイト・パーカー(37)も「大学でアフリカ系米国人研究のクラスをとるまで、彼のことを何も知らなかった」とオフィシャルインタビューに答えている。足元の米国社会では、白人警官による黒人への相次ぐ不当な殺害や乱暴行為がますます問題になっている。当時の黒人奴隷としては極めてまれな牧師にもなったターナーを知らしめたいーー。パーカーは「タイムリーな話で、この国の人種問題を解決したいという強い願望に訴えるものになる」(オフィシャルインタビュー)と考え、アーミー・ハマー(30)らを白人農場主役に加えて映画化に約8年取り組んだ。そうして完成した『バース・オブ・ネイション』は、1月にサンダンス映画祭で上映されるやグランプリと観客賞をかっさらった。


当時の米映画界は、同じ月に発表されたアカデミー賞俳優部門のノミネーションが、2年連続で白人ばかりになったことで批判や不満が渦巻いていた。スパイク・リー監督(59)らが授賞式の欠席を表明するなど波紋が広がり、主催する米映画芸術科学アカデミーは、白人男性が大半となっている会員構成の多様化を打ち出すに至った。


そこへタイミングよく登場した今作に、「来年のアカデミー賞での黒人ノミネーションを増やす注目株」と業界はわき立った。ハリウッドのスタジオ大手「20世紀フォックス」の姉妹会社「フォックス・サーチライト・ピクチャーズ」は、世界での配給権をサンダンス史上最高額となる1750万ドル(約20億円)で買い取った、と華々しく報じられた。

(c) 2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION


黒人奴隷を描いた最近の作品としては、作品賞はじめアカデミー賞3冠に輝いた英国人スティーヴ・マックィーン監督(47)の『それでも夜は明ける』(2013年)が記憶に新しい。両作品とも奴隷をめぐる史実をもとにしながら大きく異なるが、違いを敢えて一つ挙げるなら、「白人にとっての救い」の有無だろう。『それでも夜は明ける』では、ブラッド・ピット(52)演じるカナダ白人が奴隷制度や黒人への残虐な扱いに異議を唱えるなど、現代の白人観客が見ていてほっとできる場面がいくつかある。私は『バース・オブ・ネイション』を11月に東京国際映画祭で見たが、ここにはそうした「いまの価値観からみても心底共感できる白人」が登場しない。そして、白人のひどい仕打ちはもとより、憤懣やる方ない黒人たちによる反撃の描写もハンパない。つまり、正直、見続けるのはつらい場面が多々ある。でもそれこそが、人間らしさを奪う奴隷制度がもたらす現実なのだ、とも思わざるを得ない。


『バース・オブ・ネイション』というタイトルにどこか聞き覚えがあるという人は、映画通、あるいは映画を学んだことがある方かもしれない。英語の原題としてはまったく同じ作品が、1915年に米国で公開されている。故D.W.グリフィス監督の無声映画『國民の創生』(The Birth of a Nation)だ。初めてホワイトハウスでも上映されたこの長編映画は、モンタージュやカットバック、クロースアップといった、今も受け継がれる映画技法を効果的に使った点から映画史的に長く評価され、米議会図書館にも保存されている。


原題が同じなのは偶然ではない。パーカーは「皮肉をこめて」このタイトルをつけた、と米誌「インタビュー」に語っている。



(次ページへ続く)

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