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ラーメンよ、覚醒せよ ベトナム・フォーに学ぶこと

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:
「萬福」の中華そば(東京・銀座) photo: Semba Satoru

ベトナムの国民食、米の麺を使う「フォー」が世界で人気を博している。大の日本食びいきの筆者も最近フォーに夢中。透明なスープをすすりつつ、愛するラーメンに忠告する。「汝、敵に学ぶべし」と。

「KHANHのベトナムキッチン 銀座999」の鶏のフォー photo: Semba Satoru



我々は今こそ、ラーメンをめぐる熱狂から目を覚ますべきなのかもしれない。湯気立ち込める丼からしばし顔を上げ、麺をすするのをやめて、ここは一つ、汁入り麺の新たな形に思いをはせてみようじゃないか。

この数年、日本はもとよりヨーロッパもアメリカもラーメンにぞっこんだ。私もその一人で、日本滞在中は週4でラーメンというときもあった。その豊かなご当地色と、ラーメン・シェフの飽くなき探求心のおかげで、嫌になることがない。くぐるべきのれん、食べるべき一杯が、常にあったのだ。

東京のあちこちでフォーを見かけるようになったのはそんな頃だ。ある週、さすがにラーメン疲れした私は、もっと軽い何かを求めていた。

複雑な香り、透き通ったスープに米でできた軽やかな麺。柔らかな牛の薄切り肉と新鮮なハーブが盛られたボウルはまさに求めていたものだった。最初はひと口ずつじっくりと。食べ進めるにつれ豊かになる味わいに狂乱の様相で麺をすすり、気づけば最後の一滴を飲み干そうとボウルに顔を突っ込む始末。これぞまさに次の「ワンボウル・ミール」の主流となると確信。それは正しかった! フォーは今や、ファストフード界に確固たるポジションを得たのだ。2013年、英国のチェーン店が料理名「フォー」を商標登録しようとしてネットで炎上、あえなく断念したが、彼らの狙いは米国チェーンの侵略を阻止することだった。フォー戦争に突入だ。

「萬福」の中華そば(東京・銀座) photo: Semba Satoru

フォーへと続く道



もっとフォーを知るために私はベトナムへ飛び、発祥の地に近い北部の首都ハノイから南部のホーチミンまで、「フォーへと続く道」をたどってきた。

フォーとは、朝食として食べられる、牛肉を使った料理だと思っていた私は、ハノイで出会ったグルメガイド、バン・コン・トゥーの言葉に驚くことになる。

「僕たちは毎日、朝昼夜のどこかで食べます」。道ばたの小さなプラスチックのイスに並んで座り、鶏のフォーをすすりながらバンは言った。なんと、豚肉のフォーもあるという。「特に決まりはないんです。食べたいときに食べるだけ」

北部ハノイのスープは南部より透き通っていて塩気も強い。南部ホーチミンではより甘みがあり、別皿で出てくる香菜を追加できる。MSG(うまみの主成分、グルタミン酸ナトリウム)をふんだんに用いたスープに「サスン」(ホシムシ)という調味料を加えると、ダシの干しエビやイカなどの臭みを感じさせず、うまみはより強くなる。

世界を席巻せんとするこのホーチミンのフォーこそ、ラーメンが最も警戒すべき存在だと私は思っている。心洗われる豊かな香り。滋味深く、満ち足りた味。

警戒する代わりに、私の提案を聞いてほしい。せっかく食材やスタイルを縦横無尽に統合させることに長けたラーメン・シェフなのだから、フォーからも採り入れてはどうだろう?

例えばスープはもっと軽く(牛骨とか?)、豆板?やチリソース、ライムの搾り汁などの薬味を客が自由に加えられるようにして、麺も米粉製にしてみたり。真打ちは惜しげもなく盛られた新鮮なハーブ、これに尽きる。オオバコエンドロ、パクチー、スイートバジル、ミントに魅惑のドクダミ(英語ではFish mint、その名の通り魚とミントが混ざった味がする)……。ベトナムのフォーにはこのいくつか、または全部が添えられ、好きなだけ追加できる。]

なにより、山盛りのハーブを前にすると、いかにも体にいいことをしている気になれるというものだ。負けるな、ラーメンよ。

(訳 GLOBE編集部 菴原みなと)