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壁がつくる世界

脱北者の漫画家が描く南北ギャップ(2)

「南北合作」の統一漫画

韓国と北朝鮮の間では70年以上という分断の時間が、言葉や習慣に大きな違いを生んでいます。これに苦しんでいるのが、韓国で暮らす3万人以上の脱北者たち。異質感を共感に変えようと、ある韓国の出版社が脱北者に漫画で体験を描いてもらい、インターネットで連載をしています。出版社代表にインタビューしました。(聞き手・GLOBE副編集長 神谷毅)



出版社コリアウラ代表 パク・チャンジェ



分断から長い時間がたち、世代も代わりました。政治も経済も理念も何もかも違う南北には、大きな異質感が生まれています。統一が成ったとしても、多くの葛藤が起きるでしょう。あらかじめ準備しておかないといけません。そのためには、まず南は北を、北は南を知らなければいけない。でも、あまり本は読まれなくなったし、テレビも放送された後はあまり見られない。そこでインターネット漫画がいいという考えに至りました。


そんなとき、ぴったりの人物と出会ったのです。北朝鮮に30年以上住み、漫画やアニメなどを書く仕事をしていた脱北者、チェ・ソングクです。


2016年春に連載を始め、300万人以上が読んでくれました。読者の中には、「南北の異質感を縮める統一漫画だ!」「この統一漫画が南北の住民を親密にしてくれる気がする」といったコメントを書き込んでくれています。





漫画のストーリーの紹介

ストーリーはチェ自身の体験に基づいている。主人公は、仕事で出会った女性から電話番号を尋ねられる。その際、女性は「これも縁だから」「友達になりたい」などと言う。なんのことはない。女性は脱北者が珍しかっただけなのだが、北朝鮮では、縁という言葉は恋人のような親しい関係でないと使わないような言葉。つまり、「大好きなあなた」というわけだ。



主人公、つまりチェは、完全に舞い上がった。SNSでやりとりをしている間も、女性の話をことごとく「自分を好きなのだ」と誤解。さらに、これもチェが言う北朝鮮式なのだが、男の方からはっきりと好意を示さなければいけないと意を決し、なんとSNSで結婚を申し込んだ。その後、女性からの連絡は途絶えた――。











そもそも漫画として面白くなければ、特に若者たちには読んでもらえません。話の内容には、韓国の流行も採り入れました。韓国人の女性ウェブデザイナーがアイデアを出し、それを彼に理解してもらって漫画として表現しました。


ウェブデザイナーのキム・イヨン。「彼と話していても、同じことを語っているのに表現が違うことに戸惑うこともありました。通訳までは必要ありませんが、韓国ではこう表現するのに違うんだなあ、と。北朝鮮の言葉は、軍事的な背景からなのか、とても強い言葉が多いのが特徴だと思います」


例えば、「SHOW ME THE 忠誠心」という回がありますが、脱北者の登場人物たちが、いつもとは違うストリート・ファッションに身を包み、韓国で流行したヒップホップの歌詞にのせて、忠誠心について面白おかしく語ります。北朝鮮の人たちだけで描いても、韓国の人たちだけで描いても、こうした作品は生まれないでしょう。だから私は「南北合作」だと思っています。この漫画が注目され、彼は国連総会の関連イベントにも招かれて、講演をしました。

「SHOW ME THE 忠誠心」

漫画の連載を始める前、体制批判をするといった政治的な内容は、あえてしないことにしました。脱北者が直面している悩みを、そのまま描くことにしたのです。そうすれば逆に韓国の人たちの胸の中にも、すっと入っていくのではないかと考えました。


多くの韓国の人たちは、北朝鮮が今後どうなのか気になっているし、知りたいと思っています。北朝鮮の指導者と国民は別であり、国民同士は同じ民族だから助けなければと思っている人は多いのです。


(GLOBE副編集長 神谷毅)

(敬称略)




漫画の作者、チェ・ソングクのストーリーは、こちらへ。

漫画は、こちらへ。


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