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太平洋波高し

米と同盟国 抑止力のかけ算/ハリー・ハリスさん(米太平洋軍司令官)

太平洋 覇権の行方(上)


太平洋地域の緊張感が高まっている。北朝鮮は核・ミサイル開発を加速し、中国は南シナ海などへ急速な海洋進出を進めている。同盟国・日本に期待する役割に加え、米国からこの地域のリスクはどう見えているのか。「覇権国家の論理」とは。(聞き手・梶原みずほ)


ハリー・ハリス太平洋軍司令官

いま米国が直面している課題は五つあります。ロシア、中国、北朝鮮、イラン、テロです。このうち、イランを除く4つの課題は米太平洋軍(司令部・ハワイ)が担当する地球の表面積の約半分と、その中にある36の国・地域を擁するアジア太平洋と深く関わっています。38万人の兵力をもつ私は世界を「自分の4つの課題+イラン」として見渡しています。


司令官に就いた2015年に比べると、この地域は悪くも、良くもなっています。


北朝鮮はこの2年間で確実に脅威が増しました。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は米国本土を射程にした核搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射というゴールに突き進み、達成されつつあります。中国は北朝鮮に対して外交や経済面で圧力をかけているとはいえ、できることをすべてやっているとは思えません。


中国は東アジアで覇権国家を目指すとともに、南太平洋の小さな島々や南アメリカへの動きも加速させています。中国との関係にどれだけ価値をおくかは受け入れ国の判断であり、米国はとやかくいう立場ではありません。


ただ、南シナ海での中国の人工島造成を、私は「万里の長城」になぞらえて「砂の長城」と呼んで問題視しています。国際法で保障されている「航行の自由」を守るため、米軍は艦船などを派遣する「航行の自由作戦」をしています。中国が南シナ海を支配しようとするのであれば、世界全体の問題のはず。「南シナ海で米国の対応は十分か、効果があるのか」とよく聞かれるのですが、「なぜ米国1カ国だけが『航行の自由作戦』をやっているのか」と逆に問いたい。


日米同盟は最も良好

ただ、それはそれぞれの国の判断であり、様々な形のオペレーションがあるでしょう。5月から長期任務にでていた護衛艦「いずも」はシンガポールから東南アジア諸国連合(ASEAN)の海軍士官を乗せて南シナ海を航行しました。プレゼンスを世界に示したこと、若い士官が現場を目の当たりにした意味は大きいでしょう。

     

ここ数年の変化といえば、巨大化する中国を前に、米国をパートナーに選ぶのが一番だという認識が急速に醸成されつつあることです。米国にとってもこの地域の五つの同盟国、タイ、フィリピンに加え、日本、オーストラリア、韓国との同盟関係が重要になってきており、同盟の意義を再認識しています。7月は日米印の海上共同訓練や米豪合同演習もありました。日米豪印の4カ国の演習も実現させたいと思っています。


以前は忙しさで寝られない夜を過ごしていたのですが、少し休めるようになりました。理由は日本の存在が大きい。安全保障法制や防衛協力など日本側のニーズに基づいた新たな動きが、結果的に日米同盟に大きく寄与しているのです。太平洋軍司令部と自衛隊の統合幕僚監部との関係はかなり強化されています。海軍軍人としてのキャリア約40年の中で、日米同盟はいま最も良好です。

     


ミンダナオ島の「アラーム」

イラクやシリアで過激派「イスラム国」(IS)の掃討作戦をしてきましたが、ISに忠誠を誓う武装組織はいまアジア全体に広がっています。政府軍と激戦を繰り広げているフィリピン南部ミンダナオ島の例は、我々に目を覚ませという「アラーム」です。

 

抑止力はかけ算です。「国家の能力×決意×シグナル発信力=抑止力」。一つでもゼロだと、抑止効果はゼロです。米国は十分な軍事力もあり、必要なときにはその能力を使う意思があり、自分たちの国益は自分たちで守るんだと言動で示しています。

 

日本を含め各国の抑止力の「宿題」が何であるか私は評価を下しませんが、どれも米国だけの問題ではありません。対テロのような分野では日本が国際的にリードできるかもしれません。


     

Harry Harris

1956年、神奈川県横須賀市生まれ。父は米海軍軍人、母は日本人。ハーバード大、ジョージタウン大で修士号取得。太平洋艦隊司令官など歴任。


(このインタビューは2017年7月28日付朝日新聞朝刊「耕論 太平洋 覇権の行方」に掲載されました)


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