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人の心もわかる「ワトソン」

Re:search 歩く・考える 更新日: 公開日:
写真:IBM Japan

米IBMのコンピューターシステム「ワトソン」。人間からの自然言語による問いかけを理解し、蓄えた膨大な情報から正解を抜き出して答えることができ、2011年には米クイズ番組「ジョパディ!」でクイズ王を破って話題になった。

だからこそ「いっそ米国の大統領に」というキャンペーンすら始まったわけだが、自発的に話し出すわけではないうえ、形もない。日本IBMのIBMワトソン・マーケティング・マネジャー、中野雅由いわく、「システムが膨大だから、ヒト型ロボットにも収まりきらない」。すると表情や身ぶり手ぶりは示せず、スピーチの原則からすると、聴き手へのアピール効果は半減しかねない。単独でのスピーチは、確かに難しそうだ。

ならば、記者会見はどうだろう。

中野マネジャーによると、記者が一人ひとり、完結した質問を整然と続ける場合は進めやすい。でも「さっきの質問への追加ですけど」、あるいは「今の何ていうんでしたっけ」といった声が飛んでくることも少なくない。「ワトソンは1対1のやり取りが基本。過去のやりとりを保持したまま次の質問に答える仕掛けを、さらに考えなければならない」

開発当初は英語だけに対応していたワトソンも、2月に日本語版が出た。ただ、「日本語は『あれ』とか『それ』が多くて、そこが非常に難しい。今私が言った『そこが難しい』の『そこ』も、ワトソンはどう判断するか。何について語っているかを関係代名詞で明確に示す英語以上に、日本語は文脈を理解させるのが大変なんですよ」と中野マネジャーは言う。

とはいえ、ワトソンは応用ソフト次第でいろんな可能性が広がる。

映像を含む必要なデータを事前に覚え込ませることで、ワトソンは性別や年代を判断できる。お年寄りと若者の「ヤバイ」も区別して理解できる。聴き手が満足しているか、困っているのか、怒っているのかもわかるという。

心理学に基づいた性格分析も可能だ。「やり取りを通して、相手が怒りっぽいのかのんびり型か、好奇心が強い人か保守的なのかを分析する。さらに相手の話すトーンも加味し、『どうやら不満に思っているようです』『満足しているようです』といった判断もできる」。そうやって、人間が顧客を前に話す際のサポート役にも使えるそうだ。

世界中のありとあらゆるデータを入力し、さまざまな応用ソフトをつけて経営者や宰相にお供すれば、こんなにパワフルな「片腕」はいないだろう。だが、中野マネジャーは言う。「技術的には可能ですが、お金も時間もかかる。そのコストを誰が負担するのか、という話にはなりますね」