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100歳までの人生設計

[Part2]孤独は孤立ではない――フィンランド

アンヤ・フッソ(87)<右>
担当ソーシャルワーカーのマレ・ローセンベリと。ローセンベリのことを「心のマレさん」と呼び、彼女主宰のデイケアを心待ちにしている。
Photo : Ota Hiroyuki



年を重ねることの最大の不安の一つが「孤独」だろう。フィンランドでは高齢者の独居率は日本の2倍近い。65歳以上の約3分の1、35万人が一人暮らしをしている。日本でも今後、一人暮らしの高齢者は急増する。フィンランドの人たちから学べることはないか。



現地に行く前は「フィンランドの高齢者は厳しい自然の中、孤高を貫き、孤独死も恐れない」と勝手に思い描いていた。しかし、取材を始めるとあてが外れた。一人暮らしの高齢者たちの話を聞くと「子どもには頼りたくないが、孤独にも耐えがたい」という、日本人とさして変わらない実像が見えてきた。


アンヤ・フッソ(87)は一昨年、63年連れ添った夫のラウリを心臓病で失った。残されたアンヤは途方に暮れた。北欧の長い冬の夜、1人でテレビを見ていると、涙がこぼれてくる。今にも部屋の扉が開き、ラウリがひょっこりと現れそうな幻覚にもとらわれた。


そんな彼女が心を開くきっかけとなったのが、ヘルシンキ市の「コントゥラ多目的サービスセンター」が開催する高齢女性のためのデイケアだった。


センターは退職者や失業者であれば誰でも利用できる。在宅の高齢者を対象とするデイケアやリハビリの施設に加え、認知症の人向けの居住施設もある。一方で、健康な人もアスレチック施設を利用したり、ボランティア活動に参加したりしている。市立図書館の分室やラテンダンスのサークル活動まである。


こうしたセンターは市内に14カ所。様々なサービスを一つにまとめたのは、多様な人々が出会う機会を作ることで、センター自体が高齢者の「居場所」となることを目指しているからだ。


日本でも「高齢者の居場所づくり」の取り組みはあるが、財源の問題もあり、多くは民間の努力に委ねられる。居場所づくりの主役を公的機関が担い、税金でここまで積極的に進めることはない。


センターが特に力を注いでいるのが、アンヤのような孤立した高齢者を早期に把握し、対応することだ。精神的孤立は心身の急速な衰えにつながりかねないからだ。アンヤも予防接種のためにセンターを訪れたのをきっかけに、ソーシャルワーカーから参加を勧められた。


フィンランドも日本と同様、「介護はできるだけ施設ではなく在宅で」という方針を打ちだす。かつては施設での介護を主軸としたが、コスト高で断念した。「居場所づくり」に力を入れる背景には、「施設を増やすよりも、一人暮らしでもできるだけ長期間がんばれる環境を整えた方が、結局は安上がり」という合理的な計算も、垣間見える。


同じ境遇の女性たちと集い、気持ちを分かち合うことで、アンヤの心に光が差した。1人でいる不安が和らぎ、夜もよく眠れるようになったという。


新たな「居場所」をつくろう


妻が認知症でケアハウスに移り、3年前から一人暮らしを続けるエルッキ・ヴァンスカ(84)にとっては、週に一度、センターで行うリハビリ訓練が生きがいだ。3年前から車いす生活でほとんど自宅で過ごすが、リハビリの場では、同じ障害を抱える同年代の男性たちが集まる。センターが「高齢の男性だけ」のリハビリグループを作ったのも、居場所づくりを狙ってのことだ。「訓練の後、コーヒーを飲みながら仲間と語り合うと、生まれ変わったように気力が充実する」とエルッキは話す。


高齢者の居場所づくりの鍵となるのが、「シームレス(継ぎ目がない)」という概念だ。会社を退職し、ぽっかりと空いた時間にセンターに通うことで、仕事の同僚らに代わる新たな人間関係が自然に育まれる。元気なうちから通えば、介護が必要になったり、施設に移ったりしても、慣れ親しんだ場所で顔見知りの職員からケアを受け、以前からの仲間とも会える。健康な人、在宅で介護を受ける人、施設で暮らす人がセンターで一堂に会することで「居場所」となるのだ。


「一人暮らしになっても人間関係を維持し、孤立させないのが狙い」。同センターのプログラム指導責任者、アニッタ・テッスマンはそう話す。小さな工夫を積み重ねることで、濃密な関係を作ることができるのだと実感した。


「里親」の高齢者版という試み


「ペルヘホイト(家族ケア)」と呼ばれる、一人暮らしの高齢者のための新たな居場所づくりも始まっている。国立健康福祉院で高齢者問題を担当するミンナ・リーサ・ルオマによれば、コンセプトは「里親制度の高齢者版」だ。


身寄りのない子や親に問題のある子を他人が自宅で養育するように、子どもが自立した中年夫婦や健康な高齢者が、一人暮らしの高齢者を受け入れて自宅に住んでもらい、食事や団欒を共にする。


介護サービスは外部スタッフが担当するため、「里親」が担うことはない。施設よりも低コストで、人間味のある関係を高齢者に体験してもらうのが狙いだ。


現時点では280人の高齢者が利用しているだけだが、思いついたことはどんどん試し、結果次第で取捨選択する、というのがフィンランドの流儀。政府は当面、高齢者政策の重点として利用者の拡大を目指すという。


(太田啓之)


(文中敬称略)


「『死』も自ら選べるか――オランダ」に続く)



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