RSS

豊かさのニューノーマル(紙面)

[Part1]自由と民主主義が後退し、世界は強さを崇めるかのようだ――ブラジル

インタビューに答えるジャイール・ボルソナーロ。背後には軍政時代の歴代大統領の写真が飾られていた photo : Tamagawa Toru

ニューノーマルは、良いことばかりとは限らない。「最善」と信じてきた民主主義への幻滅が今、世界中に広がっている。既存の政治はもはや自分の意思をくみ取ってくれない。そんな失望への反動から、過激な主張に政治を託そうとする動きも相次ぐ。「ブラジルのトランプ」と呼ばれる異色の政治家に迫った。



10月下旬、南米ブラジルの首都ブラジリアの国会議員会館。自室で出前のパスタをほおばりながら、彼は真顔でこう言った。「実は、私もびっくりしているんだ」


右翼のベテラン下院議員、ジャイール・ボルソナーロ(62)。来秋の大統領選に向けた世論調査で支持率17%を獲得。2014年の前回選挙で名前すら挙がらなかった一議員が、元大統領ルラ(72)の35%に次ぐ、2位に躍り出た。


しかもルラは7月、収賄と資金洗浄の罪で有罪の一審判決を受けており、二審も有罪判決となれば出馬できない。別の世論調査は、ルラ不在なら、ボルソナーロが中道左派系の元環境相と同率首位という結果をはじき出した。


人なつこい笑顔を振りまき、自分の冗談に高らかに笑う陽気なおじさん。しかし、口を開けば、「ブラジル第一主義」「移民受け入れ制限」「少年犯罪の厳罰化」「善良な市民に銃を配れ」と、過激な主張が次々に飛び出す。中でも、主要メディアが「ブラジル民主主義の最大の脅威」と警戒するのが、公の場でもはばからない軍事政権時代への賛美だ。


ブラジルでは1964年の軍事クーデターから85年の民政移管まで、軍部が政治の中枢を握っていた。反対派への拷問で多くの死者が出た。市民は集会を禁じられ、表現の自由も制限された。


欧米の価値観からすれば、当時のブラジルは「軍事独裁政権」。国内でも軍政への支持はタブー視されている。


しかし、軍人出身のボルソナーロは、書斎に飾ってある軍政時代の大統領5人の写真を仰ぎ見て言う。「軍政下では、平和で治安もよく、雇用も守られていた。今よりもずっと進んだ国だった」


こうした主張は以前から続けていたが、急激な広がりを見せたのは、SNSを活用して、政治的なメッセージを毎日送るようになってから。現在、ツイッターとフェイスブックのフォロワー数の合計は国内政治家で屈指の550万以上だ。


その影響を最も強く受けているのが若年層だ。民間調査会社IBPOの最新調査では、16~24歳の25%がボルソナーロを支持すると答えた。彼らの多くは中流家庭で育った高学歴の若者たちで、「ボルソミニオンズ」と呼ばれている。彼らは、SNS上でボルソナーロを「神話」「伝説」と呼んで称賛する。日本でいえば、「伝説のヒーロー」といったところか。


既存の政治家・政党に対する失望の裏返し


ブラジリアでロースクールに通うジョゼ・コスタ(19)も、ボルソミニオンズの一人。裕福な企業家の家に生まれ、5年前に両親と渡米し、ビジネス教育に強い大学で経営学を学んだ。


休暇で一時帰国した昨春、政府会計の粉飾に関わったとして当時の大統領ルセフの弾劾を求めるデモに加わった。そのとき、「ブラジルという国家こそ重要だ」と演説するボルソナーロに心を震わせた。「この国のために仕事をしてくれる政治家は彼しかいない」


それは、既存の政治家や政党に対する失望の裏返しでもあったという。


ジョゼが物心ついた2000年代、ブラジル経済は世界的な資源ブームに乗って歴史的な高成長を記録した。


だが、リオ五輪が迫る中、主要な貿易相手である中国の景気減速で資源価格が下落。政府の失策もあって、南米最大の経済大国は大打撃を受ける。国内総生産(GDP)が15年、16年と連続でマイナス成長に陥った。通貨レアルの価値も下がり、ジョゼは道半ばで帰国した。


そこに重なった、ブラジル史上最悪とされる国営石油会社をめぐる汚職スキャンダル。「政治家は政党や自分の利益しか頭にない」。そう吐き捨てるジョゼの目には、「知識」でしか知らない軍政時代の方がよほど輝いて見える。「軍政下では拷問で死者も出たし、検閲もあったけど、それは全体で大きな目標があってのこと。今ブラジルには秩序がない。軍政でも民主主義でも、国が秩序をもってコントロールされていることが重要だ」


深刻な治安悪化も拍車


ボルソナーロ現象の根っこは何か。


大手紙エスタド・デ・サンパウロの政治記者、ジョゼ・トレド(51)は、近年の深刻な治安悪化も拍車をかけていると言う。「社会不安が増す中、主張したくても代弁者が見つけられない。そんな若者たちの心にSNSですっと入り込んだのが、ボルソナーロの過激な主張だった。この国の民主主義は大きな転換点にある」


(玉川透)


(文中敬称略)


(「[解説]なぜ民主主義は揺らいでいるのか」に続く)


【関連するWEB記事はこちら】

・ドラえもんの超ブラック回「どくさいスイッチ」の教えとは

・サル山にボスはいなかった?サルに学ぶ独裁

・人間よりも民主的?ミツバチの議会とは

・サンバの国にも「トランプ」

・ブラジルの「ミニオンズ」自国のトランプに会いに行く

・「ブラジルのトランプ」もツイッター頼み?

・「ブラジルのトランプ」ボルソナーロ一問一答




この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示