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壁がつくる世界

[Part3]壁の世界の向こう側/村山祐介


世界はやがて壁で覆い尽くされてしまうのではないか。取材を進めるにつれて、そんなSFめいた不安すら覚えた。世界各地で同時に起きていた壁の建設は、決して偶然ではなかったためだ。

 

現状維持が精いっぱいの低成長時代を迎えた先進国は、移民を受け入れる余裕を失った。排外的な風潮が強まるなか、雇用や暮らし、テロへの不安をすくい上げて政治力を手にした「ポピュリスト」と呼ばれる政治家にとって、壁は手っ取り早く、目に見える「特効薬」。打つ手を欠いた官僚組織や商機を感じた軍需産業も手を携えた??そんな構図が浮かんだ。冷戦期のような抵抗感も薄れた。

 

壁はできたものの、それを生み出した根本原因が解決したわけではない。

 

メキシコや中米の貧困層はより危険な砂漠や川へ、内戦や政情不安が続く中東やアフリカの難民や移民は地中海に向かった。朝鮮半島は平和条約にはほど遠く、ヨルダン川西岸ではイスラエルによる占領状態の固定化が進んだ。壁は、はかない「安心感」と引き換えに地域や家族を分断し、無関心や憎悪を生み、遺体の山が築かれた。壁のある新しい現実を前提とした暮らしが生まれ、利害はより複雑になった。

 

四方を海に囲われた島国・日本も、移民の受け入れを「見えない壁」で制限してきたと見れば、それほど違いがあるわけではない。

 

ベルリンの壁は崩壊まで28年。いったん出来てしまうと、壁を壊すのは容易ではない。壁というその場しのぎの策に逃げず、問題に正面から、地道に向き合うしかない。世界が壁で覆い尽くされてしまう前に。


(村山祐介)



取材にあたった記者


村山祐介(むらやま・ゆうすけ)

1971年生まれ。アメリカ総局員、ドバイ支局長を経てGLOBE記者。約350軒もの歯科が集まる町があったり、国境を越えて通学する子供がいたり。壁の向こうの物語をウェブでお伝えします。




神谷毅(かみや・たけし)

1972年生まれ。経済部などを経てGLOBE副編集長。人が足を踏み入れられないDMZは野生生物の宝庫。戦争が生んだと考えると、美しいけれど悲しい現実だ。




浅倉拓也(あさくら・たくや)

1971年生まれ。大阪社会部などを経てGLOBE記者。ブダペストで立ち話をした市民は「難民が駅にたくさん来た時は、水や食料を持っていった」。これもハンガリーの顔。






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