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壁がつくる世界

[Part2]2003年 巨大官庁誕生




越境の「組織化」が進むメキシコ側に対し、米国側は壁の「軍事化」で対抗している。


フェンスには赤外線暗視装置や振動センサーが配され、上空ではアフガニスタンの戦場で性能が培われた無人機や係留型飛行船が、川面ではプロペラ船や高速艇が巡回する。イスラエルの軍需大手はハイテク監視塔を建設している。私が国境そばで道を間違えて車を引き返すと、不審な行動に映ったのか、数分でヘリが飛来し、警備隊の車両が駆けつけた。


壁建設は当初から、警備隊と軍の二人三脚で進んできた。


冷戦と湾岸戦争が終わった1990年代、国防予算が大幅に削減される一方、警備隊の予算は伸び続けた。同時テロ後の2003年、ブッシュ政権は運輸保安庁など22の組織を統合した巨大官庁、国土安全保障省を創設。警備隊は1992年度から予算で約11倍、要員は約5倍に拡大し、所属する税関・国境警備局は、連邦捜査局(FBI)などを上回る米国最大の法執行機関になった。

人の往来を阻むフェンスは途中から車止めの鉄骨に変わった(中。米ノガレス郊外)
Photo:Murayama Yusuke

壁をめぐる産業も潤った。


発注先には、ボーイングやノースロップ・グラマンなど軍需大手が名を連ねる。航空宇宙産業が集まるアリゾナ州ツーソンでは、アリゾナ大学が運営する研究開発拠点テクパークス・アリゾナに、軍需大手レイセオンなどが進出し、100社以上が創業した。砂漠地帯に監視塔やフェンスをそなえ、新技術を試すことができる。テクパークス共同副社長のブルース・ライト(70)は「光学センサーなど国境警備技術が生かせる市場が爆発的に広がっている」と語る。軍事技術に強いイスラエルの大学などと提携を深める。


地元記者で『国境監視国家』を出版したトッド・ミラー(46)は「壁をめぐって官民が協力し、企業は予算増を求めて政治家に陳情する。国境版の『軍産複合体』をみているようだ」と話す。


砂漠を過ぎ、国境の東半分を占めるテキサス州に入ると風景は一変した。緑が増え、壁はほとんど姿を消した。国境を分かつリオグランデ川が自然の障壁となって人の往来を妨げていた。


その川が今、攻防の主戦場になっている。


川を一望できる断崖に立つロマの野鳥展望台。夕日が沈み切ったとき、双眼鏡を手にした警備隊の男性(31)の声色が変わった。

展望台から国境の川を監視する警備隊員(下。米ロマ)
Photo:Murayama Yusuke

「見ろ。今、行ったぞ」

 

100メートルほど上流の中州の茂みから、数人が乗った小舟がすっと姿を見せ、暗がりに消えた。移民はマフィアの手引きで、当局の手が届かない「緩衝地帯」の中州にいったん上陸し、米側に渡る機会をうかがうのだという。小舟は1分もたたずに引き返した。「警備隊を見て上陸を断念したんだ。毎日いたちごっこさ」

 

川を渡る移民は数年前から急増している。州内の16年度の検挙者は約25万人と5年前から倍増し、今や国境全体の約6割を占める。溺れる人も相次ぎ、年200体前後の遺体が見つかる。

 

トランプ政権は壁建設の照準をこの川に向けた。18年度予算案に盛り込んだ建設計画約120キロのうち、約100キロが集中する。だが、メキシコとの条約で河川には建設できないうえ、川辺は大半が私有地で早期建設が難しい。

 

そこで全米有数の野鳥生息地であるマッカレン郊外の国立野生保護区内に壁を建てる案が浮上し、地元で激しい反発が広がった。8月には地元市民や自然保護、移民支援など52の団体が呼びかけ、約900人が「壁ではなく橋を」と叫んで行進した。地元議会は反対を決議した。

 

ただ、トランプが「強姦犯」「犯罪者」とやり玉に挙げて壁で防ごうと訴えるメキシコ人移民はむしろ、堅調な自国経済を背景に減少傾向が続いている。とりわけ08年のリーマン・ショック後に急減し、16年度の検挙者は約19万人と00年度の1割強の水準に。全体でも半数を割った。

 

増えているのは地理的にも同州に近いグアテマラとホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国だ。犯罪組織の暴力から逃れて出国する人が相次ぎ、難民認定を求める家族連れや子供の越境も多い。



(文中敬称略)


(「2016年 「壁つくれ」の大合唱」に続く)




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