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ジョコビッチの涙

[Part2]グローバリズムの寵児



Reuters

パリ、ロンドン、ニューヨーク、東京、上海……。男子テニスのプロツアーの主要大会が開かれるのは、世界の名だたる都市が多い。テニスのトップ選手はグローバリズムの象徴だ。ヒトやモノが国境という垣根を越えて、自由に行き交う。スポンサーを集めやすく、賞金が出せる都市を巡り興行するプロツアーをまわる選手たちは、国の支援を受けるわけでもなく、自らの力で人生を切り開く。ランキングというわかりやすい指標、勝てば倍々ゲームで増える賞金。そこには明快な競争の原理が働き、強い者に富が集中していく。


日本のエース、錦織圭は実力も思考もグローバルだ。全国大会で優勝した小学6年のとき、すでに「『日本一』という言葉にこだわらず次は『世界一』をめざして」と学校で作った新聞に書いた。12年全豪オープンで日本男子80年ぶりのベスト8を果たしたときは、「昔から世界を基準に考えて戦ってきたので」とさらりと言ってのけた。


13歳で島根県松江市の実家を離れ、米フロリダ州を拠点に暮らし、世界のツアーを行脚する彼にとって、ふだん「日本人」を意識する場面はあまりない。


そんな錦織の意識が、リオ五輪を戦っているうち、明らかに変わった。


7月のウィンブルドン。ゴルフの松山英樹がジカ熱などへの不安を理由にリオ五輪参加をやめたと知り、記者会見で、「僕もあんまり出たくないな」と口にしていた。



ときどき、冗談とも本気ともつかない発言をする人だから、五輪は出るだろうとは思っていたが、他の競技の選手のように「4年間の努力をリオにぶつける」といった情熱を感じられなかったのは確かだ。


それが、五輪が開幕し、自分や他の日本人選手たちが勝ち進むうち、発言のトーンが変わっていっ

た。


ベスト8入りを決めた試合の後で、こんなやりとりをした。体操の男子個人総合で2連覇を飾った内村航平について、「重圧を背負いながらの金は、ものすごく感動した」。さらに、日本が準決勝進出を決めた7人制ラグビーについては、「すごかった。見入ってしまったというか。7人制はたぶん初めて見たので。感動というか燃えました」


日本選手団の一員としてどう感じたかを尋ねると、「同じ日本人であれだけかっこいい活躍をされると自然と燃えます」。ふだんクールな彼の言葉とは思えない。これが五輪の魔力なのか──。


日本テニス界96年ぶりのメダルを獲得して一時帰国したとき、こう明かした。


「本心を言えば、1、2回戦ぐらいは気持ちが入らないまま、試合に入っていました。ランキングのポイントもなかったり、自分は何をめざして戦えばいいんだと。それが、だんだん日本のために戦うというのも、悪くないなと」


「すごいモチベーションが上がって、ここで全部吐き出して帰ろうと思った。それで勝ち取った銅メダルだったので、今までにない経験ができた五輪でしたね」


(稲垣康介)

(文中敬称略)

本編2へ続く







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