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被災地と復興庁

[Part2]「希望」を査定する







かつて仙台藩の出先が置かれ、白壁の蔵が立ち並んだ陸前高田・今泉の街は、大津波があらかた流し去った。市全体で1757人が亡くなったり行方が分からなくなったりした。全半壊した住宅は、全世帯の半分の約4000戸にのぼった。


市は、高さ120メートルあった今泉の山を45メートルまで削って宅地をつくり、その土砂で津波をかぶった低地もかさ上げすることにした。川の向こう側の旧市街地も土盛りしようと、橋を架けて東京ドーム4杯分の土砂を運んだ。計300ヘクタール、今回の復興で最も大がかりな土地区画整理事業だ。約1100億円の費用の大半は、復興庁が窓口になる「復興交付金」(MEMO1参照)でまかなう。


「原資は税金です。現実を直視してほしい」。復興庁が問題にしたのは、震災のあった11年末に市がまとめた復興計画だった。復興後の人口目標を、震災直前の約2万4000人よりも多い2万5000人台と定めていた。


市長の戸羽(とば)太に、わけを尋ねた。「みんなぼろぼろになって泣いていたんです。住む人を元気にするのが復興の目的。人口が増えるぐらいがんばろうよ、と」


ただ、足元では人口流出が続き、ほぼ2万人にまで減った。復興庁の幹部らが何度も訪れ折衝した。高台の区画は元の1047戸から15年初めには659戸まで縮小した。住民に意向を聴くたびに、高台に移りたい人が減っていった。市長の戸羽は、いまも割り切れないようだ。「元の計画がムダだったわけではない。復興の先が見えないから、待っていられない人が出てきた」




「査定庁」と呼ばれた復興庁

復興交付金は、国の復興予算全体の2割に満たないものの、被災自治体が街づくりを進めるための中核となる仕組みだ。


最初の配分が決まった12年3月、宮城県知事の村井嘉浩は、前月に発足したばかりの復興庁を「査定庁」と呼んだ。申請額の6割しか認められなかったことを批判したのだ。「国を突き動かすには、インパクトのある言葉で世論を味方に付ける必要があった」と村井。その狙い通り、「憤る被災地」と書いた朝日新聞などメディアは復興庁に批判的に報じた。自治体の苦情も殺到した。


「どうしてここまで言われないといけないのか」。初代の復興相となった平野達男は、担当幹部が涙を流して訴えてきたのを覚えている。平野は「たたかれてもいい。いらんものは全部切れ」と命じていた。自治体の要望はその後も多岐にわたった。観光用のロープウェー。大型の野球場。ある首長は打ち明ける。「正直に言えば、復興の名の下に、いろんなものをつくろうとした」


災害復興は、元の状態に戻す「原状復旧」が基本だ。復興庁はその大原則は維持しつつ、元の場所が危険な場合はよそで再建することや、金額が大きく変わらない限り、以前より高度なものをつくることを認めた。ただ、どこから先はダメなのか、線引きははっきりしていない。


宮城県気仙沼市は、用地を整えないと企業誘致などおぼつかないと考え、津波をかぶった土地のかさ上げを相談した。しかし、復興庁の担当者は「先に誘致企業を見つけてほしい」と求めた。空き地のまま放置されることを恐れたからだ。




「かけ声は復興、実際は復旧」


気仙沼市長の菅原茂は言う。「かけ声は復興だが、実際には復旧を超えていない。正当な事業だと認めてもらうために、時間を費やしてきた」。自治体には「査定庁が、復旧庁になった」と揶揄する声がある。一方、以前復興庁の幹部だった官僚は「自治体の声が強く、結局は押し切られることが多かった」と言う。


攻防の背景にあったのが、復興費用を全額国が負担するという仕組みだ。阪神・淡路大震災では、がれきの処理にも地元自治体の負担があった。地方負担ゼロは異例の対応だった。


阪神大震災のとき兵庫県幹部で、自民党が政権復帰した12年に復興副大臣に就いた谷公一は在任中、ある自治体幹部の要望に思わず語気を強めた記憶がある。復興交付金でつくった市町村道の維持管理費も、国が全額出し続けてほしいという。「自分の施設すら自ら維持できない自治体は、存在意義が問われますよ」


潮目が変わったのは14年の夏。自民・公明両党の復興加速化本部が8月に出した提言は、「住民や企業が自らの力で発展する『自立』を目指さなければならない」とうたった。9月の内閣改造では、福島県選出の根本匠に代わり、島根県選出の竹下亘が復興相に就いた。被災地選出でない復興相は初めてだった。



(江渕崇)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)






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