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トイレから愛をこめて

[Part3]子どもの命、救うために/ケニア







ケニアの西部、人類発祥の地とされるグレート・リフトバレー(大地溝帯)に位置するケリチョー県。紅茶の一大産地だ。


60世帯が暮らすケティップセゲイ村にとって、6月10日は記念すべき日だった。この日をもって、村は「トイレ普及100%」を達成したからだ。貧しいシングルマザーと4人の子どものために、村人たちは半日がかりで畑の一角に「トイレ」を完成させた。地面を2メートルほど掘り、サトウキビの葉で編んだ壁で囲んだシンプルなつくりだ。


トイレをつくって食べ物や水の汚染を防げば、たくさんの命が救える。そんな知識の普及と、人材育成をこの地で応援してきたのが日本のNPO法人HANDS(ハンズ)である。「住民自身が納得し、参加する地道な努力が必要なんです」と、メンバーの北島慶子(47)は話す。


トイレ問題の解決がより難しいのは、農村より都市だろう。そう感じたのは、ケニアの首都ナイロビ、空港近くに広がるムクル・スラムを訪ねた時だ。


数十万人が密集して暮らすが、下水道などの公共サービスはない。治安も不安定で、ライフルを持った私服の警察官に護衛されながらの取材となった。


ドブ川とぬかるみ、掘っ立て小屋が見渡すかぎり続く。





そこらに捨てるしかない


ここに住むドリス・ボシボリ・モセティ(34)の自宅を訪ねた。12歳と9歳の子どもと暮らすが、トイレがない。


夜、女性一人で用を足しに行くのは、レイプや強盗にあう危険がある。「誘い合わせて5人ぐらいで工場の裏手の方へ行っていました。一人が用を足している間は、男の人が来ないように、別の人が見張ります」とドリス。


今は近くの共同トイレを使うが、1回3シリング(4円弱)かかり、夜9時から朝5時までは閉まる。下痢になった時は、家でポリ袋を使って用を足す。問題は後始末で、有料トイレには持ち込めず、「そこらに捨てるしかない」。ポリ袋に排泄し、ドブやゴミために投げ捨てる行為は「フライング・トイレ」と呼ばれる。


昨年10月、ドリスを含むスラムの女性約100人が、政府に衛生状態の改善を求めてナイロビ市内をデモ行進した。手にはこんなプラカードを掲げていた。


「フライング・トイレはもうごめんだ!」


子どもたちの笑顔がまぶしい冒頭の写真は、スラムの学校で撮影した。背景に並ぶトイレの個室の中は、コンクリートの床に穴が開いているだけ。穴の中をのぞくと、汚物が縁近くまで迫っていた。くみ取りは毎回8000シリング(1万円弱)かかるので、半年に1度しかできない。女性教師は「裸足でトイレに入る子がいて、とても危険なのです。床をきれいに保つようにしていますが……」という。




改善に情熱注ぐ日本人女性


足についた病原菌が、水や食べ物を介して口に入り、下痢を引き起こす。コレラや腸チフスの発生は珍しくない。下痢で命を落とす5歳未満児は、南アジアやアフリカを中心に世界で年間約76万人。肺炎に次いで多い(WHO調べ)。


スラムの学校でトイレの改善に情熱を注ぐ日本人女性がいる。山上遊(やまかみ・ゆう)、37歳。住宅設備大手LIXIL(リクシル)のケニア担当社員だ。


「明るく、風通しがよく、気分がよくなるようにしたかった」。トイレが嫌で、学校を休む子どもたちをなくしたい──。子どものころ、頻尿に悩んだ山上の思いである。


リクシルは、国連児童基金(ユニセフ)と連携し、2013年から「世界の学校のトイレを改善するプロジェクト」として、フィリピン、インド、ベトナムなど5カ国で活動を展開してきた。ケニアでは、これまで約1200人の子どもたちに、新しいトイレ環境を提供してきた。その第一弾が昨年6月、スラムの学校「マンデレオ・ラーニング・センター」に完成したトイレだった。


小学生から高校生まで約100人が学ぶが、公立ではなく私塾に近い。かつては大便器二つと男子用小便スペースしかなかった。男子生徒(17)は、「以前はフライング・トイレを使っていた」という。リクシルは男女別の個室を計8セット、男子用小便スペースなどを新設した。


尿と便をわけて回収し、肥料として役立てる。目指すのは、そんな「循環型無水トイレシステム」だ。水や衛生問題に悩む新興国でのビジネスを視野に入れたリクシルの戦略。その最前線で、山上の奮闘は続く。


(浜田陽太郎)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


子どもの命、救うために

ケニアの地方の村と都会のスラムを訪ね、トイレ事情を探りました(撮影:浜田陽太郎、機材提供:BS朝日「いま世界は」)




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