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金本位制は終わったのに……世界の中央銀行が金を買う理由

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韓国の中央銀行、韓国銀行
韓国の中央銀行、韓国銀行=東亜日報提供

昨年8月、韓国の中央銀行にあたる韓国銀行は、金を25トン買い入れたと発表した。まとまった量の金を買うのは13年ぶりだった。11月にも15トンの金を買い、金保有量は前年の14.4トンから54.4トンにまで増えた。

この時期に金を買い増したのはなぜなのか。2月下旬に取材に応じた韓国銀行の外貨準備運用グループ長、チュウ・フンシクは「外貨準備高が増え、分散投資をいっそう進める機が熟したと判断した」と説明した。

韓国銀行の外貨準備(外国通貨建ての資産)は2008年末からの2年余で1.5倍に膨らみ3000億ドルを超えた。「ウォン売り・ドル買い」介入をしてきたことなどが背景にあり、外貨資産の約7割が米ドル建てだ。ドル安が進めば資産が目減りするので、資産の種類を多様化させる必要があるという。

中央銀行が金買いに走るのは、韓国に限ったことではない。メキシコ98トン、ロシア94トン、タイ53トン――。昨年1年間で、世界の中央銀行が持つ金の総量は430トン前後増えたとみられている。経済成長が著しい新興国が目立つ。インドも09年に国際通貨基金(IMF)から200トンの金を買い入れている。

19世紀から20世紀にかけ、主要国は紙幣と金を一定比率で交換できることを基礎にした「金本位制」の仕組みをとっていた。その裏付けとして各国の政府・中央銀行は大量の金を持っていた。しかし、1971年に米国が金とドルの交換を停止した「ニクソンショック」の後、金と通貨の関係は、ほぼ、なくなった。以後、世界の中央銀行が保有する金はじわじわと減っていった。

だが、ここ数年流れが変わり、2010年には中央銀行全体で21年ぶりに売った金より買った金の量が多くなった。11年には買い越し量はさらに増えた。

国際通貨体制に詳しいカリフォルニア大学教授のバリー・アイケングリーンが指摘するように、各国中央銀行は金本位制に回帰しようとしているわけではない。表だった言及は避けているが、韓国銀行同様、「ドル安を懸念したリスク回避の手段」との見方が多い。

韓国には、外貨準備と金について、広く国民に共有された「記憶」もある。政府が国民から金を買い上げた「金集め運動」だ。

97年に通貨危機に見舞われた韓国は、防衛のためのウォン買い介入を続け、外貨準備がほぼ底をついた。IMFの管理に入り、経済を立て直す過程で、国内の金を政府に集めたうえで海外に売り、外貨獲得手段にしようという動きが民間から起きた。

ソウル市内に住む主婦キム・ドンイエ(53)も当時、金を売るために銀行の窓口に並んだという。「結婚指輪も娘のために買っていた金も、全部国に売った。国がしっかりしてこそ、国民の暮らしが成り立つと考えたから」

韓国では、結婚や子どもの1歳のお祝いに金の指輪を贈る風習がある。当時は「たんすに眠る金を集めれば2000トンになる」といった試算もあった。人口の7%強にあたる351万人が参加し、200トン以上の金を集めたという。

集めた金の売却額は22億ドルで、当時の対外債務の3%程度にすぎなかった。だが、国際金融センター部長のオ・ジョンソクは「国難の解決に向け、国民が国際社会に強い意志を示したという意味で、効果は大きかった」と話す。

昨年の韓国銀行の金購入については、韓国内で批判的な声もでている。「韓銀はもっと早く金を買う判断をしていれば割安で買えたはず」。韓国のエコノミストの一人はこう指摘する。

金には「堅実な資産」というイメージがあるが、利子を生まないため、市場での価格変動がすべてという側面もある。

韓国銀行のチュウは「長期投資なのでタイミングは重要ではない。中央銀行には金を買いたいという潜在的需要がある」と話した。(文中敬称略)(都留悦史)