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中国人が日本人を知れば@広州(中国)

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
世界第2位の高さを誇る広州タワーからの夜景 Photo: Koyama Kentaro

私のON

2014年に「田園工作室」という名前の会社を広州で立ち上げました。中国人4人の社員と一緒に、中国人向けの雑誌編集のほか、日系企業の中国市場向けPRなどを請け負っています。

この会社を起業する前、中国人に日本文化を紹介するサロンを、共同出資者の一人として運営していました。日本の文化や生活に関心のある広州人の中間層を集めて、日本企業や観光客を増やしたい地方自治体と結びつけるアイデアでした。

1年弱で会員を2000人にまで増やしたんですが、なかなかお金には結びつきませんでした。自分の貯金もゼロになり、最後には自宅の家賃を払うためにクレジットカードのキャッシングに頼って。4000元(約6万円)引き出したんですが、これからどうなっちゃうんだろうと怖かった。

そんなとき、以前に私が広州で日本人向けのフリーペーパーの編集長をしていたことを知っていた日系出版社の方から、中国人向けの雑誌をつくってみないかと声をかけてもらいました。

日本での旅やショッピングを紹介する雑誌と、日本のライフスタイルを紹介する雑誌の2種類です。年に8冊発行して、高年収の中国人約1万人に無料で郵送します。広告で稼ぐフリーマガジンです。

広州で10年間、記者や編集者をやっていた中国人の若者が、「太田さんと働いて日本の編集を学びたい」と一緒にやってくれることも力になりました。創刊号をつくって最初の編集料が入ってめどがつき、いまの会社を立ち上げることができました。

彼に加えて、デザイナー、広報、会計担当と、新会社の社員4人はみんな30代前半の広州人たちです。細かな点まで気を配る日本の仕事を覚えたいという意欲がすごい。子供が生まれたり、家を買ったりするころでもあり、もっと頑張って、もっといい仕事をして稼ぎたいというやる気も強く感じます。

仕事のもうひとつの柱は、中国人消費者に向けた日系企業の製品のPRです。ママさんを集めて子育て講演会を開き、粉ミルクを紹介したり、レストランを借り切って日本のおしょうゆを使った料理教室を開いてみたり。食の安全への関心から、中国人女性たちの日本製品への注目度は高いんです。

いま、いちばん宣伝効果があると言われているのが、中国版のLINEともいえる「微信」を使ったプロモーションです。フォロワーが数十万人いる有名ブロガーたちと手を組んで、商品についての記事づくりやその配信をお願いしています。数十万人の携帯電話に宣伝記事が直接届くので、新聞や雑誌などの伝統的メディアよりも広告効果があると、ここ2年で多くの企業が使うようになりました。

悩ましいのは、彼らに支払う配信料の急激な値上がりです。この宣伝方法が始まった当初は、ある旅行系のブロガーさんからは「タダで配信してあげるから面白い話を教えてよ」とお願いされていたぐらいでした。ところがいまや、同じ人に記事の配信を1本頼むだけで2万元(約30万円)以上を要求されるようになりました。毎月1000元(約1万5000円)ずつ値上げしてくるブロガーもいます。

いま新たに狙っている仕事は、広東省政府が日本企業の誘致のためにつくる省全体のPRパンフレットの受注です。広東省は省内総生産が2015年に7兆2800億元(約109兆円)と大きな省。彼ら地方官僚にとって一番大切なのは経済発展ですから、そこに反日感情はあまり入り込みません。仏山市にあるハイテク産業開発区のPRパンフレットを手がけた経験を元に営業しています。

自治体によっては、PRパンフレットの日本語はこなれていないし、内容も経済的利点を企業に訴えかけるようなものにはなっていない。改善点がいくらでも見つかるのでチャンスだと思っています。

対日感情は決して改善しているわけではありません。昨年の9月には北京で「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」の軍事パレードがありました。パレードのあった午前10時ごろ、広州でも街中から人がいなくなりました。みんなテレビを見ていたようです。「ああ、私がこんな仕事をしていても関係が無い。中国は永遠に日本が嫌いなのか」と、10年以上中国に住んできて一番落ち込みました。ただ、身近な中国人の仕事仲間や友人たちからはそういった感情を感じません。日中友好というときれいごとに聞こえるかもしれませんが、こういった仕事を続けて日本製品や日本を好きな中国人が増えれば、彼らと日本人の接点も増える。少しずつ、お互いの感じ方も変わるんじゃないかと思っています。

私のOFF

太田元子さんと中国人社員たち(太田さん提供)

広州は人口は多いのですが、メディアや広告、デザイン、音楽などの業界人たちの輪は比較的小さいんです。なので、知り合いの知り合いみたいな感じでどんどん仲良くなって遊んで、仕事につながる。北京や上海、まして東京ではこうはいかないんじゃないかなと思っています。

仕事が終わった夜は、音楽ライブによく足を運んでいます。有名人もたくさん来るんですが、広州人は外国の有名人にあまり詳しくなかったり、主催者側が文化的なイベントの宣伝が下手なこともあったりして、小さな会場で彼らを間近に見ることができるんです。

食べ物には困りません。いえ、おいしすぎて困っています。特に広東料理の一派の潮州料理がおいしくて。フォアグラのしょうゆソース漬け、生のエビやカニのしょうゆ漬け、カキのおかゆなどなど。広州に来てから10キロは太ってしまいました。ジムでダイエットに励んでいます。

不満と言えば、牛肉はいまいちですね。おいしいステーキは高いホテルのレストランにしかない。なので、西洋料理が充実しているマカオにおいしいアルゼンチン料理屋を最近見つけました。バスで3時間かけて食べに行っているんです。

広州

中国南部、広東省の省都で人口約1300万人。2014年の市内総生産は1兆6700億元(約25兆円)で、上海市、北京市についで中国第3位。2015年10月現在、邦人約7600人が住む。日系企業は約700社が拠点を置いている。

Ota Motoko

1971年、東京生まれ。中国で日本人向け情報誌編集長を経て、デザイン・PR会社「田園工作室」経営。