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「野次馬」たちの大騒動

[第218回]泉京鹿 翻訳家

Photo:Nishida Hiroki

若手、大御所を問わず、昨秋、中国人作家の来日が相次いだ。海外からも引く手あまた、本国のサイン会でも大行列ができる作家ばかり。各種シンポジウム、対談、講演など、日本の読者が直接会える機会も近年増えているのは喜ばしい。


昨年11月、東京大学で作家の浅田次郎とユーモアあふれる対談で会場を沸かせた劉震雲。日本では2011年にこの欄で紹介した『一句頂一万句』の邦訳(彩流社)が8月に刊行されたが、中国では初版90万部で発売された新作『吃瓜時代的児女們』が好評だ。彼の作品は多くが映画化、大ヒットしてきたが、本作も映画の話が進行中。邦訳も今年、同じ水野衛子訳で刊行予定ということで、お楽しみに。


結婚を控えた農村の娘・牛小麗は、妻に逃げられた兄と四歳の姪のため、借金をして兄に再婚相手を迎える。しかし、女はわずか五日で失踪。牛小麗は騙し取られた大金を取り返そうと女の故郷へ向かうが徒労に終わる。借金返済に焦り、道中知り合った女にそそのかされ、政府高官相手に売春するはめに。牛小麗、某省副省長・李安邦、某県公路局長・楊開拓、某市環境保護局副局長・馬忠誠……本来、縁もゆかりもないはずの四人。だが目に見えぬドミノ、バタフライ効果のように互いの人生が連鎖する。


出世競争では手段を選ばずライバルを陥れる。汚職による手抜き工事で橋が崩壊。隠ぺいした息子の起こした交通事故で、死亡した同乗女性は下半身裸。清廉なはずの幹部の妻は賄賂三昧。インサイダー取引で巨額の富を築いた不動産ディベロッパーは海外逃亡、政府高官の実情をテレビ出演で暴露……。現実社会の話題の事件や噂がユーモアと皮肉交じりにテンポよく織り込まれ、笑いが止まらない。


タイトルは「野次馬時代の子供たち」の意。2016年に「真相を知らない人」を意味する「吃瓜群衆」が流行語となったが、「吃瓜」とは、「おやつにスイカやヒマワリの種(瓜子)を食べる(吃)」から転じた、ネット上で「暇つぶし」「野次馬」を指す言葉だ。犯罪者だが被害者でもある登場人物たちに根っからの悪人はいない。「さまざまな事件の背後にあるばかげた道理に思いをめぐらせてほしい」と劉震雲。タイトルは読者へのメッセージなのだ。


(次ページへ続く)

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