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ブレグジットのやめ方

[第216回]園部哲 翻訳家

Photo: Nishida Hiroki

今年3月、EUからの離脱通告をした勇ましい英国だが、まともな交渉に入らぬまま交渉期間2年のうちすでに1/3を無駄にした。レームダック化したメイ首相の求心力は失せ、離脱後の経済見通しは暗い。交渉相手のEUは、英国のやる気(ないしは能力)を疑い始めている。


こうした状況でうまれたベストセラー『How to Stop Brexit』。著者ニック・クレッグは自民党に所属し、キャメロン連立内閣で副首相を務めたが、6月の総選挙では労働党候補に敗れ、現在は浪人中。


ブレグジットを止められなければ民主主義ではない、と彼はいう。民主主義ならば国民投票の結果を尊重しろ、という意見への彼の反論は、「事実が変わった場合、私は意見を変える」というケインズの言葉だ。


最大の事実の変更、というよりも真っ赤な嘘が、EUから離脱すれば毎週3億5000万ポンド(約520億円)をNHS(国民保健サービス)に還元できる、というやつ。王室に次ぐ英国民の第2のプライドNHSが破綻寸前というときにこの数字は干天の慈雨に見えた。ところがこれに根拠がないことが投票直後にばれた。離脱キャンペーンの幹部が、あのインチキ数字を使わなかったら国民投票で負けていたと証言し、「離脱は間違い」と告白する始末だ。英国民は「EU離脱」という欠陥商品を売りつけられたのだから、これを突き返すのは正しい行為だ、と著者はいう。


ではどうするか?離脱に関する条文を書いたスコットランド人法律家が、離脱は撤回可能と明言している。2回目の国民投票をやればよい。そのためには労働党に入党してEU残留を唱えよ、というのが著者の主張だ。労働党議員232人のうち離脱に投票したのは10人程度(保守党議員も317人のうち176人が残留に投票したとされる)。もし労働党と肌が合わなければ保守党に入党してEU残留を唱えよという。上の数字の通り、両党ともマジョリティーは残留派だったから、民意が離脱を嫌い始めたと感じれば流れは変わるという。


ところで、総選挙でクレッグ氏が落選した理由を、彼のブレーンはこう説明している。「ニックは夢中になると自分のことも党のことも顧みなくなるんでね」。確かに、自分が党首を務めた自民党を身びいきせぬ彼は、今回も捨て身である。


(次ページへ続く)

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