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相次ぐ猛暑、ゆっくり移動し居座る熱波が原因か 「都市は特に危険」専門家が警告 

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
イタリア・フィレンツェのシニョリーア広場にあるレストランでは、熱波のさなか戸外で食事をとる客たちのためにミスト発生器を用意していた
イタリア・フィレンツェのシニョリーア広場にあるレストランでは、熱波のさなか戸外で食事をとる客たちのためにミスト発生器を用意していた=2023年7月13日、Francesca Volpi/©The New York Times

2023年の夏に熱波が地球の広範囲を襲った時、何日、あるいは何週間にもわたって猛暑が続いた地点が相次いだ。気候変動によって地球の温暖化が進むにつれて熱波の動きがどんどん遅くなり、長期化するようになった結果だ、と2024年3月29日に発表された研究は結論づけている。

1979年から2020年までの期間の各10年間ごとに、空気循環に押されて熱波が進行する速度は1日あたり約5マイル(8キロ余り)ずつ遅くなったことが研究でわかった。熱波はまた、平均で4日ほど長く続くようになっている。

「この現象は公衆衛生にも大きな影響を及ぼす」とウェイ・チャンは言う。米ユタ州立大学の気候学者で、科学誌「Science Advances(サイエンス・アドバンセス)」に掲載された今回の研究論文の筆者の一人だ。

熱波が長く居座れば、人びとは生命を脅かす気温にそれだけ長くさらされることになる。猛暑のさなかには労働者の働きが鈍り、経済的な生産性も低下する。熱波はまた、土壌や植生を乾燥させ、農作物に被害をおよぼし、山火事の危険性を高める。

チャンによると、こうした熱波の変化は1990年代後半からより顕著になってきている。この変化の多くは人為的な気候変動に原因があるが、部分的には気候の自然な変動にもよるという。

今回の研究は、熱波が空間と時間の両方でどう推移するかを追跡した最初の研究の一つになる。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の大気科学者レイチェル・ホワイトは、今回の論文には関与していないが、こうした研究を待ち望んでいたと言う。

「気候変動で熱波が激しくなっていることはわかっている。気候変動で熱波の頻度が増していることもわかっている」とホワイト。「しかし、今回の研究はそれがどのように起こっているのかを、より深く理解するのに役立つ」と言っている。

チャンたちは、1979年から2020年までの世界各地の気温を分析した。計100万平方キロ以上の連続した地域において、気温がその地域の最高気温の少なくとも95パーセンタイル(訳注=計測値を低い数から並べた時の95番目の気温)まで上昇した場合を熱波と定義した。

つまり、基本的に異常に熱い空気のかたまりを指す。また、少なくとも3日間続くことを条件とした。研究者らは、こうした巨大な気団が時間の経過とともにどれだけの距離を移動したかを測り、その速度を算出した。

彼らが調べた全期間において、熱波の進むスピードは10年ごとに1日当たり約8キロ遅くなった。

熱波の平均持続期間も長くなった。1979年から1983年までは平均8日間だったのに対し、2016年から2020年は12日間続いた。このような長期化した熱波はより遠くまで動き、その移動距離は10年当たり約226キロ増加した。

研究者らはまた、熱波の発生頻度も高まっていることを突きとめた。1979年から1983年までは年平均75回だったが、2016年から2020年は98回になっていた。

地域差もある。熱波は特にユーラシアや北米で長期化している。また、特に南米で移動距離が延びている。

気候変動がどう作用したかを調べるため、研究者らは人間由来の温室効果ガスの排出による温暖化がある場合とない場合を想定したシナリオをそれぞれつくり、模擬実験をした。

その結果、温室効果ガスの排出を伴うシナリオが、実際に起こった熱波の動向と最もよく一致していることがわかった。それは、気候変動がこうした変化を起こした主要因であることを示している。

研究者らは、北半球の高緯度地帯では少なくとも夏の間、大気循環と、ジェット気流を含む上層大気流が弱まる大きなパターンに気づき始めた。こうした変化が、あらゆる種類の異常気象の停滞と長期化を引き起こす可能性がある。

「そうであるなら、熱波の進行速度が遅くなるのは当然だ」とウィスコンシン州の州気候学者スティーブン・バブラスは指摘する。バブラスは大気循環を研究しているが、今回の研究には関わっていない。

この新研究で、ジェット気流の弱まりと熱波の進行の遅れには相関関係があることが判明した。しかし、ホワイトはジェット気流が本当の原因なのかを特定するためには、さらなる研究が必要だと指摘する。

熱波が減速する理由が何であれ、悪影響をおよぼすことに変わりはない。

「複数の要因が相互に絡み合っている」とバブラスは指摘する。熱波がより頻繁に、より激しくなり、より長期化し、そしてより広域化すれば、「その影響に関する私たちの懸念は本当に増大する」と彼は言う。

チャンは、ヒートアイランド現象のせいで、周辺地域よりも高温化する傾向がある都市部のことをとりわけ心配する。「そうした熱波が、都市部で以前より一層長く居座れば、非常に危険な状況が生じるだろう」と彼は言うのだ。

チャンは、大気研究と同時に、地元である米ユタ州ソルトレークシティーのバス停の周りに草木を植える取り組みを支援している。ますます暑くなる夏の間、人びとが太陽のもとで(バスを)待つ場所だからだ。

彼は都市部の当局に対し、特にホームレス状態になっている人たちのためにより多くの冷房センターを設置するよう提案する。

「コミュニティーにできることはいくつかある」と彼は指摘する。

世界の指導者たちが温室効果ガスの排出削減や気候変動の阻止に向けて成果を出すのを待つ間にも、人びとの安全を守るために、それぞれの地域に合った対策を講じることが重要なのだ。チャンは、そう言っている。(抄訳、敬称略)

(Delger Erdenesanaa)©2024 The New York Times

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