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米軍のマスク作戦 布製自作マスクで新型コロナウイルスと戦う

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
マスクを縫う米陸軍特殊部隊員(写真:米国防総省)

■米陸軍でマスクを製造する部隊

この方針を受けて、アメリカ政府や多くの州では「公共の場におけるマスクの着用」を推奨するようになり、いくつかの州や都市では「公共の場における非医療用マスクの着用」は罰則を伴った義務になっている。

CDCやアメリカ政府のマスク政策の変更に即応して、米軍ではマスクの製造に取り組む部隊が現れはじめた。

ワシントン州のルイス=マコード統合基地の米陸軍第1特殊部隊集団支援大隊では、防護シールドを3Dプリンターを用いて設計し始めるとともに、医療用防護マスクやサージカルマスクの製造に着手した。

この部隊は、通常は特殊部隊が使用するパラシュートの補修も手がけているため、ミシンなどの扱いには慣れている。もちろん兵士たちはマスクを縫製した経験はないため、マスクの製造に取り組み始めた当初は習熟訓練が必要ではあったものの、一日200枚ほどの製造が可能となり、毎週1500枚近いマスクを生産しているという。

特殊部隊が生産したマスクをはじめとする個人用防護具は、同基地内の陸軍病院だけでなく、基地近隣の医療機関へも配布されている。ちなみに、ワシントン州はアメリカで初めて新型コロナウイルス感染の大きなクラスターが確認された州であり、ルイス=マコード統合基地周辺はワシントン州でも感染確認者数が多い地域の一つである。

医療機関にマスクを届ける米陸軍兵士(写真:米国防総省)

この部隊以外にも、アメリカ各地の陸軍空挺部隊や特殊部隊のパラシュート修理能力を有する部隊では、マスクの製造が急ピッチで進められている状況だ。

■米陸軍研究所によるマスク地の研究

長期戦が予想される新型コロナウイルスとの戦争に勝利するには、医療従事者のためのN95マスクや使い捨てサージカルマスクのストックを極大化しておく必要がある。そのため、医療従事者以外の人々のマスクは原則として自作する必要があり、米軍も軍将兵のマスクは軍自身で作製して調達するように下命している。

CDCが推奨し、いくつかの州では着用を義務化している布製マスクは、着用者自らの唾などを飛翔させないためと、自らの手で口や鼻を触らないようにすることを目的としているため、N95マスクのように95%近くといった高い確率でウイルスの侵入を遮断する必要はない。

とはいっても、せっかくマスクを自作する以上、できるだけN95に近い性能を有したマスクを作り出すに越したことはないし、N95に匹敵あるいはそれ以上の性能を有するマスクを自らの手で作れたら、医療従事者用のマスク供給の心配も低減されることになる。

そこで、アメリカ陸軍戦闘能力開発集団に所属するアメリカ陸軍研究所では手作りマスクに使用する布地についてのテスト研究を実施している。このテストは、「Model 8130 Automated Filter Tester」という特殊な装置を用いて、新型コロナウイルスと同等の大きさの蛍光着色をした粒子を様々な布地や布地の組み合わせに吹きかけて、どのくらいの分量が通過するのかを検証して、透過防御率をはじき出すものである。

これまでのところ300種類以上の布地を用いてテストが実施された。マイクロファイバー布を4枚重ねにした場合の粒子透過防御率は75%であり、N95の95%には及ばないものの、かなり高性能なマスク用生地であることが実証された。

また、口や鼻に当たる内側に吸湿性の高いタオル地やキルトコットン地や厚手のTシャツ地などを用い、外側にポリエステルのような撥水性のある生地(できればスプレーなどを用いて撥水処理をすることが望ましい)を用いた場合には、極めて良好な結果が得られるという。

そのように手が込んだ生地を用いずに、単にポリエステルのバンダナを折り返したもので鼻から口を覆っただけでも40%の粒子(すなわち新型コロナウイルス)を遮断することができるとの結果が出ていると、アメリカ陸軍研究所は述べている。

アメリカ陸軍研究所による布製マスク用布地のテスト研究は今後も継続され、N95と同等あるいはそれ以上の透過防止性能を持った生地の組み合わせの発見を目指すという。

■ますます必要となる自作布製マスク

1918年インフルエンザの経験から推測すると、あと2年程度は継続するであろう新型コロナウイルスとの戦争に打ち勝つには、何はともあれ医療従事者のためのマスクをはじめとする個人用防御装備(PPE)を有り余るほどふんだんに手にしておかねばならない、と考えるのが、武器弾薬は最大限以上用意しておくというアメリカの伝統的な戦争遂行方針である。

ミシンを使ってマスクを作る米軍隊員(写真:米陸軍)

ところが、軍関係者だけでなくトランプ大統領ならびにアメリカ政府や連邦議会の中からも、アメリカで使用しているマスクをはじめとする医療用品や医薬品などの多く——というより大半が、中国製であったことに改めて驚きの声があがっている状況だ。

そのため、もはや中国からマスクを大量に購入するのではなく、アメリカ国内で様々な手段を持ってマスクをはじめとする医療用の個人防護具を造り出さねばならない、というコンセンサスが出来上がっている。

このような状況であるため、今後もますます軍隊を含むアメリカ国民一人一人が、自分自身や身の回りの人々のマスクは自分たちの手で確保することにより、医療従事者や消防警察のような緊急出動要員、そして介護関係者に必要な使い捨てサージカルマスクの備蓄を増大させていく努力は継続されることになる。それとともに、さすがにN95マスクやサージカルマスクは手作りというわけにはいかないので、トランプ政権は「国防生産法」を用いてでも国内生産を増大させ、中国からの輸入品に頼らなければならない現実を打開しようと苦心している状況だ。