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もっと地球にやさしい太陽電池を作るために科学者が見つめるナノの世界

美ら島の国境なき科学者たち 更新日: 公開日:
OISTと琉球大学の共同プログラムの中で、学生に講義するアフシャン=OIST提供

エネルギー問題は、私たちが地球規模で解決しなければならない課題の一つです。

世界のエネルギー需要が高まる一方で、石炭や石油などの化石燃料を使用してこの需要に応えることの危険性がますます明らかになっています。化石燃料資源が地球上から使い果たされてしまうだけでなく、温暖化などにより地球に対して取り返しの付かない損害を与えているからです。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)博士課程4年生のアフシャン・ジャムシェイドさんは、この問題を解決しようと再生可能エネルギーの1つ、太陽光発電に関連した研究を行っています。

アフシャンは、パキスタンのペシャワール大学で電子工学の学位を最も優秀な成績で取得しました。日本の国費留学生として日本に留学。早稲田大学でナノ工学の修士号を取得した後にOISTに入学した学生です。

2月のある晴れた日、私はアフシャンに誘われて、沖縄本島中部恩納村にあるOISTから、車で南に1時間ほどの西原町にある琉球大学に同行させてもらいました。この日、アフシャンは、琉球大学で行われている気候行動講義シリーズの一環として、同大学の学部生に講義をしました。

「太陽光は莫大なエネルギー源です」とアフシャンは学生に対して語りかけました。「 太陽光が1時間地球に当たるエネルギーは、1時間で全世界が消費するエネルギーよりも大きいのです」

その莫大なエネルギーを利用しようと、科学者は太陽電池、すなわち太陽光から電気にエネルギーを変換するデバイスを開発しました。しかし、現在、市場の大多数を占めている標準的な太陽電池には大きな問題があります。これらの電池はシリコン製ですが、原料の二酸化ケイ素または砂をシリコンに変換する時、膨大な量のエネルギーを使うためです。太陽電池を作ると結局は温室効果ガスの発生につながり、生産コストも高くなるのです。

しかし、この10年で、太陽光発電技術に革命をもたらす可能性を秘めた新しい材料に注目が集まるようになっています。

それが「ペロブスカイト」です。

ペロブスカイトには、特定の結晶構造を持つ幅広い種類の分子が含まれます。これらの結晶は形成が容易であるため、シリコン製の太陽電池と比較して、はるかに安価であり、かつ、製造に必要なエネルギーが少ないため、二酸化炭素の放出量が少なくなります。

さらに、ペロブスカイトは薄いため、柔軟で軽量な太陽電池を製造できます。例えば、自動車の屋根の上や窓など、シリコンソーラーパネルを設置することが考えられないような場所で使用できます。現在世界中で研究開発が進んでおり、ペロブスカイト電池による太陽光の電気変換効率は過去10年間で前例のない速度で急上昇して25.2%に到達、シリコンの26.7%に追いついたのです。

古くから研究開発されてきた結晶シリコン(Si)の電気変換効率の推移(青色)に比べ、ペロブスカイトの電気変換効率が近年急激に上がっていることがわかる(赤色)=OIST提供
琉球大学でペロブスカイト太陽電池がどのように機能するかデモンストレーションするアフシャン。太陽光を発する機械から光を浴び、ペロブスカイト太陽光電池で赤い小型ファンを回す=OIST提供

ただ、まだ課題も残ります。アフシャンが説明してくれました。「確かに、ペロブスカイトは、今現在ソーラー技術のホットトピックなのですが、製品として市場に出回る前に解決しなければならない問題がまだいくつかあります」

アフシャンが所属している、OISTエネルギー材料と表面科学ユニット(ヤビン・チー教授)では、これらの諸問題に対処すべく研究を進めています。ペロブスカイトは研究用に試作しているサイズでは十分に機能していますが、商用サイズに拡大すると効率が急速に低下します。最も効率的なペロブスカイト電池には鉛も含まれており、こうした有毒元素が環境へ漏出するかもしれないという問題もあります。

また、ペロブスカイトは紫外線、熱、湿気などの特定の条件にさらされると急速に劣化してしまいます。現在、ペロブスカイト太陽電池の最長寿命は約1,000時間(42日)で、このままでは商業的にシリコンと競合するにはなかなか難しいところです。

アフシャンは、そうした課題の中でも、ペロブスカイトの耐久性を改善することに焦点を当てて研究を行っています。ペロブスカイトに使われている各材料が劣化の過程で何が起こっているのか、それを理解するために、原子レベルで材料を研究しています。

「材料をよりよく理解すれば、工夫して進歩させ、より安定した太陽電池を製造するための新しい方法を見つけることができます」とアフシャンは言います。

アフシャンは、学生の頃から原子の世界に興味をもっていました。
「学部生時代、私はナノメートルという大きさの世界と出会いました。これは1メートルの10億分の1、または1ミリメートルの100万分の1の大きさです。こう言ってもわかりにくいので、よく、1ナノメートルは髪の毛1本の太さのおよそ5万分の1と言ってみますが……これでもまだよくわからないかな(笑)」

「それでも、私はもっと小さく、原子レベルの大きさまで飛び込み、より詳細なレベルで、見たものを説明したいと思ってきました」
現在、OISTで博士号取得に向けて研究に励んでいる中で、アフシャンは彼女自身の素朴な希望を実現しています。

「博士号に進むことは、証明書取得のためだけにすべきことではありません。自分の仕事に本当に情熱をもっていなければなりません」 。琉球大学の理系学部生たちに向かって彼女はこう語りかけました。「私自身は、研究が毎日好奇心を満たしてくれるので、博士課程に進むことができてとても幸運だと感じています」

講義の後、アフシャンは私を彼女の研究室に連れて行ってくれました。窓のない部屋には金属製の機械がいくつか配置されていました。

その中で、アフシャンにとって最も重要なのが、物質表面の原子を一つ一つ分解して見ることができる顕微鏡「走査型トンネル顕微鏡」。これを使って、ペロブスカイトの表面の個々の原子の特性を画像化して調べています。

アフシャンの研究の必需品、走査型トンネル顕微鏡を注意深く検査する=OIST提供
顕微鏡はメンテナンス作業が多く、使用にはかなりの時間と忍耐が必要。顕微鏡内部では、ペロブスカイト材料を超高真空下に保ち、超低温まで過冷却する必要がある。-196℃の液体窒素を顕微鏡に補給するアフシャン=OIST提供

アフシャンは現在、ペロブスカイトに不純物「ドーパント」が追加されたときにどうなるか、顕微鏡を使用して原子構造を観察しています。
「ドーパントはペロブスカイト材料の特性を変えるため、太陽電池の効率と安定性を改善させることにつながると期待しています。私の目標は、ドーパントがペロブスカイト材料とどのように相互作用するかを調べ、これらの特性変化が発生する理由についての洞察を得ることです」とアフシャンは話してくれました。

走査型トンネル顕微鏡で捉えた画像を検査するアフシャン。濃いオレンジ色の塊が一つの原子を示している=OIST提供

アフシャンがこれに成功すれば、彼女の所属する研究室みんなで取り組んでいる、より安定した効率的な太陽電池の製造に大いに役立つ可能性があります。

「ペロブスカイトが、従来のシリコン太陽電池に取って代わるにはまだ道のりは長いです。でも、私たち研究者の仕事が前進すればするほど、化石燃料の呪縛から抜け出すことにつながるのです」とアフシャンは希望を持っています。

OIST広報メディアセクション ダニエル・アレンビ)