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ロシアの原発輸出、どこが問題か 国内からの視点

World Now 更新日: 公開日:
環境保護団体共同代表のウラジーミル・スリバク=モスクワ、大室一也撮影

■ウラジーミル・スリバク環境保護団体エコディフェンス共同代表

――ロシアの原発輸出には、どんな問題がありますか。

ロシアの原発輸出は、政治的な影響力を及ぼすためだ。例えばロシア大統領のプーチンにとって、ハンガリーのようなEU域内の国にロシアの原発を持つことはとても大事なことだ。核エネルギーは国際政治のツールになっており、原発をつくる国はロシアに依存するようになる。欧州連合(EU)では、ハンガリーでの増設が決まり、フィンランドでは計画中。ブルガリアにもできるかもしれない。プーチンはEU内に多くの原発を造ろうとしている。

――ロスアトムはほかのエネルギー産業と異なり、行政とビジネスが一体化した形態の組織です。問題はありますか。

所管する省庁がないことが問題だ。実質的に大統領に直轄で、プーチンだけがコントロールしている。プーチンは国際政治に興味があって、原発の価格や安全性には関心が無い。原発輸出の目的は、ほかの国をロシアに依存させることにあり、政治的な理由がかなり大きい。

1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が一番いい例だ。原子炉の爆発後、政府はすぐに情報を公開せず、爆発を隠して多くの被害を出した。チェルノブイリは政治の対象だった。もしすぐに情報が公開されていれば、あんなに多くの人が被害を受けなかっただろう。

――所管省庁による監督があれば、何が変わるのでしょうか。

今ロスアトムはエネルギー省や経済発展省よりも格が上。それではだめだ。ロスアトム内にはビジネス部門があり、東京電力福島第一原発事故のような事故が起きる可能性が高い。

――ロシアは核兵器保有国である以上、原発をなくするのは不可能ではないですか。

昔は原発で核兵器のためのプルトニウムをつくっていたが、今は特別な施設でつくっている。だから核兵器は原発と関係がなくなった。もちろん、核燃料は兵器製造、平和利用の双方に使われているが、昔と違い原発は核兵器のために何も作っていないため、原発をなくすことはできる。個人的には核兵器をなくすことも可能だと思う。それは政治的な意思の問題だ。もっとも今の政府からは常識的な決断は期待できないが。

■ウラジーミル・ミロフ元エネルギー省次官

――ロシアの原発輸出にどんな問題がありますか。

まずは競争力の問題がある。ロスアトムが海外で競争できるのは、国からの補助金があるからこそ。ないと低価格で原発を造ることはできない。政府系金融機関からの低金利での長期的な貸し付けを受けている。もちろん金融機関の利益にはならない。

さらにロシアがなぜ世界で優れた競争力があるかというと、原発輸出の費用を低金利で融資ししているからだ。つまり、ロシアの国民が払う税金で、外国の原発の建設費を支払っていることになる。補助金がないと、ロスアトムは海外で原発を建設できない。

ロシアの元エネルギー省次官ウラジーミル・ミロフ=モスクワ、大室一也撮影

英国の首相だったサッチャーが1980年代に英国で石炭産業を閉じたのと同じように、ロシアは原発輸出をやめた方がいい。だが、多くの町に関連企業があり、たくさんの人が仕事をしているので、政治的な問題になるだろう。

――CO₂を削減して地球温暖化を防止するため、ある程度原発は必要ではないですか。

原発は非効率で、高いし、問題もたくさんある。CO₂を削減する必要はあるが、ほかの発電方法もある。例えば再生可能エネルギー。私は20年前に政府で仕事をしたとき、再生可能エネルギーは一番進んでいるエネルギーだと言っていた。太陽光に風力、ゴミを焼却した熱でも発電ができる。原発をやめて、予算を再生可能エネルギーに充てるべきだと言っていた。15年、20年先には核エネルギーは必要がなくなり、逆に風力や太陽光の発電設備の需要が高まると話していた。

だが、残念なことに、ロシアは古くなった核エネルギー産業にこだわり、再生可能エネルギーを発展させていない。時間が経つと、我々は損をすることなることになる。客観的に見てロシアの原発は全て古い。原発は必ず縮小していくだろう。

――旧ソ連時代の1986年にチェルノブイリで原発事故が起きた。原発は安全になったのですか。

原発の建設計画があると、技術者たちは「事故の確率は低い」と言う。数字だけ見ると、何千年に1回しか事故が起こらないとも言われるが、30年の間に三つの大きな事故が起きた。79年に米スリーマイル島、チェルノブイリ、そして2011年の福島。何千年に1回じゃなくて、だいたい10年に1回だ。専門家はリスクを正しく評価していない。

テロリストが飛行機を原発に落とす危険性もある。米同時多発テロのときも、原発が狙われていたとされる。飛行機が天然ガス、太陽光、水力の発電所に落ちても被害は出るが、原発に比べると大きな事故にはならない。チェルノブイリ原発と同型の黒鉛減速炉はまだロシアで稼働しているが、情報はほとんど公開されていない。ロスアトムはもちろん情報を公開しない。こうした原発は早くやめなければならない。

■特集「核の夢 二つの世界」に登場した世界中の原子力専門家たちに、核のいまと未来を聞いたインタビューを掲載します。第4回の明日は、ヨーロッパなどで起きた数々の核密輸事件を知るベテラン研究者が登場します。