1. HOME
  2. People
  3. 「お金が権力」の世界はもういい 外資系金融機関を辞めニュージーランドへ

「お金が権力」の世界はもういい 外資系金融機関を辞めニュージーランドへ

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
息子とともに=写真はすべて本人提供

私のON

私の住むネルソンはニュージーランド南島の北側にある港町で、国内屈指の晴天率に恵まれているため「サニー(快晴の)ネルソン」として親しまれていいます。人口約5万人と小さいのですが、天候に後押しされ、マリンスポーツはもちろん、サイクリングやトレッキングも人気です。また、アート文化が根付く魅力的な街です。

私はいま、この街で「リアルニュージーランド」という会社を経営し、教育エージェントとして日本人の留学支援をしています。自ら海外で学びたいという子どもだけではなく、不登校などを経験して日本とは全く違う教育環境を求めてくる子どもたちと、ニュージーランドの学校とを橋渡しをしています。地元で支えてくれる現地の日本人を「ガーディアン(保護者)」ファミリーとして紹介します。

東京からニュージーランドに移住したのは200610月。どうしてニュージーランドに移住したのか説明します。

大学では高校から始めたラグビーに明け暮れて留年しましたが、そのとき、社会人ラグビーチームの遠征で初めて訪れた海外がニュージーランドでした。現地で個人的に活躍できたことにも気分を良くして、ニュージーランドのことが大好きになりました。特に美しいネルソンが気に入っていました。

大学卒業前、イギリスに3か月の英語留学をし、また内定先だったゴールドマン・サックスのロンドン支店で英語もろくに喋れないのにアルバイトをしました。無謀でした。卒業後は就職後2カ月で海外研修としてニューヨークに半年、そしてロンドンに1年半滞在しました。帰るころには、英語はほぼ完璧になっていたと思います。その後、ロンドンに3年強駐在しました。

ヘッドハンティングされ、36歳だった2002年、14年働いたゴールドマン・サックスを辞めてJPモルガンに移りました。業績も上向いたのですが、自分のやりたいことと会社の求めるものが違うため、2年働いて38歳の時に退社しました。その後、ニュージーランドに移住しました。

金融業界が嫌いになったわけでありません。私は、「お金が全て」という資本主義の最先端にいました。ものの尺度がお金、富を持っていることが権力、そういったことが顕著な世界でした。そんな価値観とは違う国でこれまでとは違うことをしたい、別の視点から人生を考えてみたいと思ったのです。

翌年4月に、旅行代理店としてリアルニュージーランドを立ち上げました。それまで日本人のニュージーランド旅行はバスツアーがほとんどでしたが、「それは違う、きれいな自然のある本当のニュージーランドを見てもらいたい」との思いで、個人ベースの体験型旅行を主体に打ち出しました。ニュージーランド政府観光局やニュージーランド航空も巻き込んでプロモーションし、結果を出してきました。

その一方で、09年からは留学サポート事業も始めました。高校の同級生から、進学校に通う娘さんが不登校になっているのでニュージーランドに留学させたいと相談を受けたことがきっかけでした。

大きな転機は、112月に南部クライストチャーチ市近郊で発生した「ニュージーランド南部地震」です。日本人28人を含む185人が犠牲になりました。地震の影響で、10年に13万人ほどだった日本人観光客は半分くらいまで減って困った状況になったため、教育事業を主体にしようと思ったのです。ちなみに日本人観光客はいま、年間15万人くらいにまでに戻っています。

自社オフィスで、日本からの留学生と一緒に

この国は平和で国民性は穏やかで、生活環境で困ったことはありません。しかし観光客が減ったことは私のような零細企業にはこたえました。業務縮小やリストラを余儀なくされ、正直不安でした。「サバイバル」と言えば、この時が一番大変でした。

旅行会社は14年に後進に譲り、いまは留学事業に集中しています。ニュージーランドへの留学はここ数年、年10%ほど伸びています。アメリカでは乱射事件が、ヨーロッパでもテロが相次いで治安が不安視されるなか、費用の点でも比較的安いニュージーランドが注目されています。

私の会社が現在、支援している生徒・学生は、長期と短期を会わせて約50人。将来的には、いまの倍くらいにするのが目標です。

ニュージーランドの大学入試にはいわゆるペーパー試験がなく、高校の成績で合格が決まります。また、英連邦の一員なので、オックスフォード大学などイギリスの大学の入学試験をニュージーランド国内で受けられ、比較的、入学のハードルも低くなるメリットがあります。ニュージーランドは世界に出るステップになります。

ただ、英語圏でもアメリカやイギリスは競争が激しい社会で、「将来、世界で勝負したい」という人にはいいでしょう。私も外資系金融機関で働いていたのでそれを痛感しています。一方、日本の教育に疑問を持っていて、自分のペースで伸び伸びとやり直したいという人にとってニュージーランドはうってつけだと思います。

ニュージーランドの教育は日本と比べるとかなり独特で、入試を意識しない高校では好きなことを集中して学び、得意なことをとことん伸ばそうとします。だから生徒や学生はハッピーですし、教える先生方も楽しくやっています。

日本では不登校児の問題は、もっとクローズアップされていいと思います。実は頭がいい子が多く、でも一人っ子が多くて家族から過剰に注目や期待を受けた結果、ちょっとしたつまずきで学校に行けなくなってしまうのです。

正直、私は日本受験では成功者です。でも世の中、成功者がいて失敗者もいる。ニュージーランドにはいろいろな物差しがあります。「みんなが同じ」が前提の日本と違い、ヨーロッパやアジアから人々が集まってくる文化や社会が教育の根底にあるニュージーランドは、大きく異なります。

私のOFF

 旅が大好きです。自転車やシーカヤックで、誰もいないところを移動するのがたまりません。山の中に入るのも大好きです。 

森の中を走るトレイルランニングをしている。ニュージーランドの友人とゴール後に

ニュージーランドといえばラグビーが国民的スポーツで、多くの男の子は「オールブラックス」の愛称で愛される国の代表チームの選手になることを憧れます。スポーツが盛んで、ラグビーのほか、夏はクリケット、冬はサッカーをやる人が多いです。私はラグビーを15歳から始めて32歳までクラブチームなどでプレーしました。いまは、子どもたちのコーチとして携わっています。 

今でも、高校ラグビー部のOBと一緒にゲームする

ところでニュージーランドの食事ですが、私は美味しいと思っています。農業国ですが人件費は高いので大量生産をして安く売ることはできないのですが、乳製品や肉、野菜、果物、ワインなど高品質で安全性も高く、世界で人気が高いです。私が好きなのはお肉料理とフィッシュアンドチップスです。

日本と同じ島国のニュージーランドは、人々は奥ゆかしく、日本人にもなじみやすいメンタリティーを持っていると思います。アメリカのように大陸的な、初めて人と会って積極的にハグしてくるような感じとは異なります。

物質的なものより大事な仲間との時間を大切にするニュージーランドのライフスタイルが大好きです。ここは素晴らしいきっかけがつかめる国で、優しい人々がいて、優しい自然があります。のびのびと本当の自分を見つけて、ゆっくりと過ごすことができます。(構成・中野渉)

 

ふじい・いわお 1966年、広島県竹原市生まれ、福岡県大牟田市育ち。鹿児島のラサール高校から東京大学法学部に進み、卒業後は米大手金融ゴールドマン・サックスに就職。その後、米銀最大手JPモルガンでマネージング・ディレクターを務め、200610月ニュージーランドへ移住し、「リアルニュージーランド」を立ち上げた。