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「人をだます制度、恥ずかしい」と送り出し業者 技能実習の闇③

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日本で技能実習生として働くため、ベトナムで寮生活をしながら日本語を学ぶ若者たち(写真と記事は直接関係ありません)

1人20万円のキックバックも

送出機関との不適切な関係についての注意喚起――。昨年12月、法務省入国管理局などが、実習生を受け入れている監理団体に文書を出した。その2日前に、テレビ東京のドキュメンタリー番組が「不適切な関係」を報じたからだ。日本の監理団体が、実習生を送り出すベトナムの業者に対し、実習生を1人受け入れるごとに「キックバック」を要求している、という内容だった。

監理団体とは、実習生を受け入れるための組織だ。実習生のほとんどは中小企業や農家などで働いているが、建前は「技能実習」なので、こうした小規模の事業者が直接受け入れるのではなく、事業協同組合のような「監理団体」が受け入れ、傘下の企業などで「実習させる」仕組みになっている。

監理団体は「非営利」だが、諸手続きや実習生らのケアを理由に、毎月の「監理費」を、実習生が働く企業などから取っている。実習生1人につき、月3万円前後が多いようだ。地域の同業者などでつくる監理団体もあるが、業種に関係なく、全国規模で実習生を送り出している団体も多くあり、「実習生ならお任せ下さい」などと中小企業に盛んに売り込んでいる。

ベトナムの送り出し会社から監理団体への「キックバック」は、関係者にはよく知られた話だ。ある送り出し会社で働くベトナム人女性は「1人につき5万~20万円が相場。実際に、友人の送り出し会社は20万円を払っている」と証言する。

雇用者まで「これは人身売買」

送り出し会社が、接待やキックバックまでして、実習生を多く派遣しようとするのは、実習生から手数料や研修費用などが入るからだ。手数料は、ベトナム政府の規定で1人最高3600米ドル(約40万円)となっているが、この決まりを守っている会社はほぼないという。複数の送り出し会社によると、4000~5000米ドルが相場だ。

日本側への「キックバック」や接待にかかる費用も、結局は実習生の負担になる。さらに、地方出身者のベトナム人実習生が、地元のブローカーにお金を払い、ハノイなど大都市にある送り出し会社を紹介されていることもある。

一方、「安価な労働力として実習生を利用している」と責められがちな雇用者も、それなりの負担はある。毎月の「監理費」や、渡航や諸手続きの経費は、もともと日本に住んでいる求職者を雇えれば必要ない。受け入れた実習生が失踪する可能性もある。

実習生とトラブルがあった会社に取材すると、社長らは異口同音に「この制度はおかしい」とこぼす。制度を利用しながら「これは人身売買だ」と批判した社長もいた。「日本人よりまじめだから」と前向きにとらえる経営者もいるが、「日本人を募集しても来ない」「すぐに辞められた」といった声をよく聞く。「『実習生』という抜け道ではなく、正面から外国人労働者を受け入れることを考えるべきではないか」というのは、濃淡はあるがものの、ほぼ一致した思いのようだ。

あくまで「移民政策はとらない」

昨年11月、技能実習の「適正化法」が施行された。監督機関として「外国人技能実習機構」を新設し、受け入れ団体などの規制を強化するねらいがある。一方で、対象職種に対人サービス分野で初めて「介護」が加わるなど、制度自体は拡大された。

中国東北部で人材派遣業を営む女性は、「いまの時代、こんなに人をだます制度があるのは、日本にとって恥ずかしいこと。規制を強化しても、腐った肉に色んな味付けをしてにおいを消すようなもの」と、制度が維持されること自体にあきれている。

日本の技能実習制度は、米国務省「人身取引報告書」でも「一部に強制労働がある」と批判されてきた。昨年の報告書も、新法による取り組みには触れつつ、「(日本)政府は技能実習制度における強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない」と指摘している。

あらゆる職場で、外国人労働者への依存はますます強まっている。
安倍首相は、2月20日の経済財政諮問会議で、外国人労働者の受け入れ拡大を指示した。「移民政策はとらない」という基本方針を維持しつつ、「専門的、技術的な外国人」の拡大をはかるのだという。ただし、その前提は「在留期間の上限を設け、家族の帯同は認めない」というものだ。

日本で働く魅力が、賃金水準などで相対的に下がるなか、専門的な知識や高度な技術を持った人材を呼ぶことが目的なら、なぜ「単身で、日本に住みつかない」を条件にするのか。あるいは、「専門的、技術的」と言うのは、またしても外国人労働者を受け入れるためのまやかしなのだろうか。