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アメリカの厳しい格差 元「隠れホームレス」の子役と映し出す~『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

東京でインタビューに答えるショーン・ベイカー監督=仙波理撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#92] 藤えりか


「隠れホームレス」と呼ばれる人たちがいる。米サブプライム住宅ローン危機などを境に、住まいを確保できず安モーテルなどを転々とする人たちだ。彼らの状況を背景にした米映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(原題: The Florida Project)(2017年)の日本公開が始まった。モーテルでの「その日暮らし」を実際に余儀なくされた子どもをも起用して現実を切り取ったショーン・ベイカー監督(47)に、インタビューした。


『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は米フロリダ州に実在するモーテル「マジック・キャッスル・イン・アンド・スイーツ」を軸に展開する。世界屈指の人気テーマパーク「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」のほど近くにある、薄紫色のかわいらしい外観の宿泊施設だが、泊まっているのは観光客ではなく、家族ぐるみで住まう人たちだ。映画は定職のない母ヘイリー(ブリア・ヴィネイト、24)と2人で暮らす6歳のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス、8)を主役に据え、彼女の目線で「隠れホームレス(The Hidden Homeless)」の日常を見据える。ムーニー自身は暮らしの厳しさなどよく実感しないまま、「マジック・キャッスル」管理人のボビー(ウィレム・デフォー、62)に厳しくもあたたかく見守られつつ、同じ境遇のスクーティ(クリストファー・リヴェラ)やジャンシー(ヴァレリア・コット、7)といたずら三昧。だが奔放な母ヘイリーの収入がいよいよゆき詰まってモーテル代も払えなくなり、ムーニーの無邪気な暮らしに危機が迫る。ウィレム・デフォーは今作でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

『フロリダ・プロジェクト』より、ムーニー役のブルックリン・キンバリー・プリンス(右)と母ヘイリー役のブリア・ヴィネイト © 2017 Florida Project 2016, LLC.

マジック・キャッスルは実在のモーテルで、撮影当時も今も営業を続けている。主な子役はそろって地元フロリダ出身。ムーニー役のブルックリンこそ子役としての活動歴があるが、スクーティ役のクリストファーは今作の出演募集広告を見て応募、ジャンシー役のヴァレリアはベイカー監督が米量販店チェーン「ターゲット」の店内でスカウト。母ヘイリー役のブリアはベイカー監督がインスタグラムで見いだしたリトアニア移民と、まったくの新人ぞろいだ。特にクリストファーは2008年に生まれてこの方、人生の大半がモーテル住まいだった。それだけに、彼らの一挙手一投足は演技と思えないほどリアルに感じる。


「既存の枠組みからは外れた、路上やソーシャルメディアでのキャスティングを交ぜ込みたかった」とベイカー監督は語る。幼いクリストファーの経験は脚本に生かされたりもしたのだろうか。そう聞くと、「彼の感情を揺さぶりかねないから、そういうことはしたくない。幸い彼はもう安モーテル住まいではないけど、僕らが彼に出会った時はまだモーテルに住んでいた。彼は多くの子どもよりも確実に、いろんなものを目にしてきたよね」とベイカー監督は答えた。

ショーン・ベイカー監督=仙波理撮影

今作を貫くテーマは「隠れホームレス」。ベイカー監督と共同脚本・製作を担ったクリス・バーゴッチが母の引っ越しの手伝いでフロリダを訪れた際、ディズニー・ワールドへと続くハイウェイ192号線沿いの安モーテルが軒並み、低所得層の住みかになっていると知り衝撃を受けたのがきっかけだ。ディズニー・ワールドが世界の豊かな観光客を惹きつける一方、そのチケットの数分の一の料金で泊まれる安モーテルは、サブプライム住宅ローン危機などで家を失ったり、高騰する家賃を払えなかったりする人たちの最後の手段として機能してきた。ベイカー監督は2011年ごろにバーゴッチから知らされるまで、「正直、『隠れホームレス』という表現があること自体、知らなかった。背後にある政治や状況を理解しようとリサーチを進めると、これは全米規模の問題だとわかった」と話す。


「モーテルだって1室1泊数千円するのに、なぜ安上がりなの?」と疑問に思う方もいるかもしれない。でも家を借りるにはある程度の家具を買いそろえて保証金を支払う必要があるし、米国ではクレジットカードの支払いを過去に延滞していたり、支払い金額が少なかったりすると、いい保証人がいない限りなかなか部屋を貸してもらえない現状がある。そのうえ米国の家賃水準は都市部を中心に、好調な経済を背景にとんでもなく上がっている。その日暮らしの人が仕事を求めて都市部に居ようとすると、住まいにたちまち困ってしまう。

『フロリダ・プロジェクト』より、ウィレム・デフォー(手前)とブルックリン・キンバリー・プリンス © 2017 Florida Project 2016, LLC.

ロサンゼルス在住のベイカー監督は言った。「ロサンゼルスも今きわめてひどい状況になっていて、ホームレスの救護施設も、手頃な住宅も足りない」。実際、私が4年前まで住んでいたロサンゼルスのアパートは、当時も年々賃料が上がって難儀したが、調べてみると、今はさらに手が出ない水準にまで高騰していた。


ベイカー監督が営業中のマジック・キャッスルで撮影を続けられたのは、オーナーも「住人」もこの問題を何とかしなければならないと思っていたためだという。「オーナーはとても心の広いすばらしい人物だし、モーテルで暮らす人たちも、自分が何に直面しているか理解していた。彼らは2008年の金融危機や、サブプライムローン住宅危機による大打撃を取り上げてもらうことで変化がもたらされれば、と願っていた。オーナーたちは地元行政やNPOと団結して状況を変えようと努力していたが、連邦政府の資金も必要だ。国の政策レベルで変えていかなければならない」とベイカー監督は語った。

ショーン・ベイカー監督=仙波理撮影

マジック・キャッスルの住人たちとは今も連絡を取り合っているそうだ。「彼らはなおひどい苦境にあり、それを打破できないでいる。最低賃金が上がらず、貯金もできない。手頃な住宅が提供されない限り、この状況から抜け出せないと感じている」。米国は経済指標が総じて好調で、雇用も平均して上向いているが、「トランプに言わせれば『好調な経済』となるけれど、米国で今年、最低賃金が上がったのはわずか18州。この賃金では家族を養えない事実を見るべきだ」とベイカー監督は力を込める。



(次ページへ続く)

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