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本質的議論抜きで決定されたイージス・アショア導入

軍事社会学者 北村淳 #20





1月10日(ハワイ時間)、小野寺防衛大臣がハワイのカウアイ島にある米軍弾道ミサイル防衛システム試験施設を訪問し、日本国防当局が輸入調達する方針を固めた「イージス・アショア」弾道ミサイル防衛(BMD)システムを実地検分した。アメリカの国防当局高官ですら、ほとんど訪れることがないカウアイ島BMDシステム試験施設を日本の防衛大臣がわざわざ(日本からハワイ往復1泊の弾丸スケジュールで)訪問するという熱の入れようには、BMD推進の総本山である米軍ミサイル防衛局高官たちも内心驚いていたに違いない。


ペンタゴンなどアメリカ東海岸からカウアイ島を訪れるのには日本からよりも遙かに時間がかかるため、隣のオアフ島に本拠地があるアメリカ太平洋軍関係者はともかく、ミサイル防衛局関係者や開発企業関係者など少数の人々以外、ましてアメリカの政治家などがわざわざBMDシステムを"見学"するために訪問することなどは極めてまれである(もっともBMDシステムのような複雑な最先端兵器システムを、現地を訪ねて"見学"してもあまり意味はないため、ワシントンDCから訪問しようなどという発想すら湧かないのだが)。


そのため、もともとBMDにはさしたる期待を持っていない海兵隊関係者たちなどは「大臣自らイージス・アショアを実地検分するためにハワイに乗り込むパフォーマンスをしなければならないということは、日本側にはイージス・アショア導入反対勢力が多いのか?」といった質問を投げかけてきた。


しかしながら日本の現状は違う。莫大(ばくだい)な国費を投じて導入するイージス・アショアBMDシステムに関して、一部の専門家たちによる技術的議論は別として、国会やメディアなどで真剣な議論が展開されたとは到底思えない。


北朝鮮による日本列島周辺での弾道ミサイル試射、それに核・ICBM開発の目に見える形での進展という情勢に対応して、「北朝鮮の対日弾道ミサイル攻撃を抑止するにはいかなる対応策をとるべきか?」という本質的議論を深化させることなく、政府国防当局によって「弾道ミサイル防衛(BMD)システム調達の強化」が独り歩きさせられてしまった。そして、あれよあれよという間に、アメリカ側、とりわけミサイル防衛局としてはぜひとも日本列島に設置させたいイージス・アショアを、日本の防衛省は調達する方向に定めてしまった。


移動できないイージス・アショア


イージス・アショアは、その原型であるイージスBMDシステムやPAC-3システムなどと違って地上に固定して配備されるBMDシステムであり、移動はできない(ミサイル防衛局の売り込み用の宣伝文句の一つに、「モジュール式構造のイージス・アショアは『移設可能』である」というのがあるが、これは「場合によってはイージス・アショアを構成する建造物全体を、他の地点に移設させることが可能である」という意味であり、用地確保や大規模工事なしにシステムを動かすこと--すなわち「移動」は不可能である)。


イージス・アショア概念図(原図は米軍ミサイル防衛局、日本語訳は筆者)

たとえば、イージスBMDシステムは、駆逐艦(米海軍アーレーバーク級駆逐艦、海自あたご型駆逐艦、海自こんごう型駆逐艦)あるいは巡洋艦(米海軍タイコンデロガ級巡洋艦)に搭載されて、海上を動き回ることができる。また、航空自衛隊や米陸軍などが運用しているPAC-3システムは、迎撃ミサイル発射装置や制御管制装置などのシステム構成要素がトレーラーに搭載されており、地上を動き回ることができる。そして、米陸軍が運用中のTHAAD(終末高高度空域防衛)システムも、PAC-3システム同様に各種構成要素が大型車輌に積載されて地上を移動することが可能である。


そのため、米軍としては必要に応じてPAC-3やTHAADを同盟国領内に持ち込んで展開させることができる。実際、沖縄の嘉手納航空基地内には米陸軍PAC-3部隊が常駐しているし、北朝鮮情勢が緊迫しているため韓国には米軍のTHAADシステムが持ち込まれて展開している。もちろん、イージスBMD搭載艦は、BMD態勢を強化する必要がある海域に自由に派遣することが可能である。


同盟国にイージス・アショアを展開させる方法


イージスBMD艦、PAC-3やTHAADと違って、地上に固定配備するタイプのイージス・アショアを、海外に配備するのは、その設置場所が同盟国内であっても容易ではない。


アメリカの弾道ミサイル防衛(BMD)戦略の都合によって、どうしてもイージス・アショアを海外に配備したい場合には、アメリカが設置を希望する国と交渉して設置場所を提供(借り上げ、買い上げ)してもらい、イージス・アショア基地をアメリカの資金によって建設する必要が生じる。あるいは、アメリカのBMD態勢強化のためだけでなく、設置国のBMD態勢も強化されるとの論法でアメリカが設置を希望する国の防衛当局にイージス・アショアを売り込んで、調達させる途もある。


当然のことながら、アメリカ国防当局そしてアメリカ防衛産業にとっては、後者のほうが遙かに理想的な海外展開方法であることは言うまでもない。なぜならば、イージス・アショアそのものの費用に加えて土地確保費用、施設建設費用、周辺環境整備費用など固定式BMDシステムの設置に要する莫大な費用を設置国に負担させることになるからだ。


その上、イージス・アショアのような最先端主要兵器の売買は、FMS(対外有償軍事援助)という一言で言うならば、製造輸出元であるアメリカ側の言い値でとりおこなわれ、アメリカ政府にも4%の手数料が転がり込み、アメリカ防衛産業にも米軍が調達するよりも割のいい収益が確保される仕組みになっているからである。したがって、後者の方式でイージス・アショアを設置してくれる国などそうそう見当たらないことは言うまでもない。


日本にもイージス・アショアを設置したいアメリカ


現在、イージス・アショアの実戦配備第1号システムがルーマニアに設置されているが、これはアメリカ軍のヨーロッパ駐屯施設を含むNATO軍諸国をイラン(それにロシア)からの弾道ミサイル攻撃から防衛するためのBMD態勢強化の一環として配備されたものである。


ルーマニアのイージス・アショア施設(写真は米海軍提供)

そして、このイージス・アショアはアメリカが主導してNATOが設置したものであり、ルーマニアが調達したものではない。さらにNATOのBMD態勢を強化するため、ポーランドにもイージス・アショアの2号システムが設置されることになっているが、それもポーランドが調達するのではなく、NATOが調達することになるのである。


ヨーロッパ戦域以上にアメリカがBMD態勢の強化に迫られているのは、東北アジア戦域である。核や弾道ミサイル開発の進捗(しんちょく)状況が著しい北朝鮮や、北朝鮮の比ではない強力な弾道ミサイル戦力を強化し続けている中国の弾道ミサイル攻撃によって、アメリカ軍の重要司令部機能が集中しているハワイ(オアフ島)や、アメリカ空軍や海軍の前進拠点が位置しているグアム島、それに日本に展開しているアメリカ軍施設などが脅威にさらされているからである。


そのため、日本周辺に展開する米海軍イージスBMD搭載艦(駆逐艦、巡洋艦)の配備数を増加させたり、海上自衛隊にもイージスBMD艦を増強するよう(そして日本が集団的自衛権を行使してハワイやグアム方面に飛翔する弾道ミサイルの迎撃も行えるように)それとなく圧力をかけたりしてはいるものの、日米共に超高額なイージスBMD艦をこれ以上増強することは困難な状況になりつつある。そこで、イージス・アショアを日本列島に配備すれば、頭打ちになってしまったイージスBMD艦増強を補うことが可能になる。


アメリカのもくろみ通りにイージス・アショアを調達する日本


アメリカ側にとって好都合なことに、現在の日本政府はアメリカから超高額兵器を調達することに熱心であり、あたかもアメリカから主要兵器を輸入することにより、日米同盟が強化されるものと単純に考えているようである。また、アメリカから超高額兵器をアメリカ側の言い値で購入すれば(FMSは基本的にはこのような仕組み)、アメリカ側の対日貿易赤字の軽減にもなるため、高額兵器の輸入が促進されているという側面もある。


おそらく日本防衛当局に対して、「日米同盟の強化」ならびに「日本自身のBMD態勢の強化」を説得材料として水面下で強力な売り込み工作を推し進めたアメリカ国防当局(アメリカ国防総省の内局であるDefense Security Cooperation Agencyがアメリカ製兵器システムの海外売り込み--すなわちFMS推進の総元締となっている)のもくろみ通りに、1システムあたり1000億円と言われるシステム本体の費用に加えて、土地確保費用、施設建設費用、周辺環境保全費用など莫大な費用をものともせずに、2セットのイージス・アショアの調達がほぼ確定したのである。


陸上自衛隊が運用することになる2セットのイージス・アショアがそれぞれ山口県と秋田県に配備された場合(ただし運用開始は2023年頃になる予定である)、もちろん日本のBMD態勢が強化されることは間違いない。しかしながら、日本にとってのメリットよりも更にBMD防衛上の恩恵を被るのはアメリカ軍である。また、いくら日本のBMD態勢が強化されるとは言っても、数千億円の予算を注ぎ込んでようやく2023年頃に運用を開始できるかもしれないイージス・アショアよりも、同レベルの国費を投入することによって「アメリカではなく日本自身にとって、より効率の良い弾道ミサイル対策」をも手にする方策がないわけではない。これらの諸事情に関しては、次回に詳述させていただく。







(次回は2月7日に掲載する予定です)



きたむら・じゅん


1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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