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北朝鮮はなぜグアムを狙うのか

軍事社会学者 北村淳 #11


北朝鮮がグアム方面に向けて弾道ミサイルを発射するとの挑発を始めて以来、日本では大騒ぎが続いている。もっともグアム方面に飛翔する弾道ミサイルが頭上を通過するだけでなく、グアム攻撃のデモンストレーションとして北海道沖合海上に弾道ミサイルを撃ち込んだのだから、平和国家日本では大騒ぎになるのも無理もない。


一方、アメリカでは、遠く離れた海外属領のグアム周辺に向けて弾道ミサイルが発射されるとの挑発を受けても、軍関係者はともかく一般的にはさしたる騒ぎにはなっていない。ただし、これまで一部の米軍将兵を除いては一般のアメリカ人のほとんどが知ることがなかったグアムの知名度が(わずかに)上昇したことは確かである。


グアム——120年にわたるアメリカの軍事拠点

アメリカと違って日本では、グアムは観光地として多くの人々に知られている。しかしながら、グアムにはどのような米軍部隊が配置されているのか?グアムはいかなる戦略的価値を有しているのか?といったグアムを取り巻く軍事情勢はあまり知られていないようである。


1898年に米西戦争に勝利したアメリカは、スペイン領であったグアムも手に入れて海軍の拠点を設置した。それ以降、今日に至るまで、日本に占領された数年間(昭和16年12月10日〜昭和19年7月21日)を除いて、グアムにはアメリカ軍が駐留し続けている。


現在はグアム島の3分の1の面積を米軍基地が占めており、島の北部一帯にはアンダーセン空軍基地が設置されており、島の西側のアプラ湾には米海軍グアム基地が設置されている。現在グアムに駐留しているアメリカ軍将兵(主として空軍と海軍)はおよそ7000人であり、これに加えて将来的には5000〜7000人の海兵隊員が沖縄から移動してくることになっている。(北朝鮮弾道ミサイルの挑発によって、海兵隊のグアム移動計画が中断しそうであるが、沖縄基地問題とも密接に関係する海兵隊グアム移駐に関しては改めて触れることとする)


爆撃機の拠点——アンダーセン空軍基地

アンダーセン空軍基地にはB-1B爆撃機、B-52H爆撃機が配備されており、恒常的に米本土から戦闘機なども飛来して、常に即応態勢を維持している。


すでに50年以上も米空軍で戦略爆撃機(核爆弾搭載爆撃機)として使用され続けているB-52Hは、核抑止力としてだけでなく、その長距離飛行性能を生かして南シナ海や東シナ海への長距離パトロール(米空軍力を見せつけるのが目的)に従事している。もちろん、トランプ政権による北朝鮮への「予防戦争」が発動された場合には、超強力地中貫通爆弾をはじめとする多種多様の爆弾(場合によっては核爆弾も搭載可能)を搭載して出撃することになる。


B-52Hより“新鋭”(といっても1986年に登場したのだが)のB-1B爆撃機はB-52Hより大型で爆弾搭載量も多い(高性能爆薬500ポンド爆弾ならば84発搭載可能)のだが、ソ連とのデタントによって核爆弾は搭載できない仕様になっている。

B-1B爆撃機(米空軍提供)


ただし、スピードは速く(マッハ1.2)かつ機動性能に優れているため、低空を敵の防空レーダーを超音速でかいくぐって攻撃目標に接近することができる。そのため、北朝鮮攻撃に際してはB-52Hによる爆撃に先立ってB-1Bと米本土からグアムに派遣されるB-2ステルス爆撃機の先制攻撃により、戦端が開かれることになる。


このような爆撃機部隊と、それらのメンテナンスに当たる整備部隊、それにそれらの爆撃機に搭載することになる多種多様の爆弾やミサイルが収蔵されている超巨大(世界最大とも言われている)な弾薬施設がアンダーセン空軍基地を特徴付けている。



原子力潜水艦の拠点——グアム海軍基地

米海軍グアム海軍基地は、アンダーセン空軍基地から観光地として賑わうグアム中心地を挟んだ西部のアプラ湾に位置している。かつてグアム海軍基地には大規模な艦艇修理施設も併設されていたが、20年前に閉鎖となり、若干小規模な基地となった。現在は横須賀を拠点としている第7艦隊隷下の潜水艦部隊、米海軍特殊戦部隊、米海軍建設工兵部隊などが拠点を置いている。また領海警備を担当するアメリカ沿岸警備隊も3隻の巡視船をグアム海軍基地に配備している。


グアムの潜水艦部隊は4隻のロサンゼルス級攻撃原潜と2隻の潜水艦支援艦艇が中心となっている。これらの攻撃原潜は南シナ海や日本周辺海域のパトロールに従事しているが、北朝鮮に対する「予防戦争」の際には日本海や南シナ海に進出してトマホーク長距離巡航ミサイル(攻撃原潜1隻に12発のトマホークミサイルが搭載される)による先制攻撃を敢行することになる。また、シアトル郊外バンゴール原潜基地から2隻の改造オハイオ級巡航ミサイル原潜(1隻あたり154発のトマホークミサイルが搭載される)もグアムに派遣されているため、グアムを拠点とする米海軍原潜から連射されるトマホークミサイルは最大で356発ということになる。


ちなみに、グアムから出撃したアメリカ原潜がトマホークミサイルを発射するであろう地点から北朝鮮の攻撃目標まで〝低速〟のトマホークミサイルは20分〜1時間をかけて超低空を飛翔することになる。そのため、アンダーセン空軍基地を飛び立ったB-1B爆撃機やB-2爆撃機が北朝鮮に接近するはるか以前に、日本海や東シナ海の海中に潜んだロサンゼルス級攻撃原潜や改造オハイオ級巡航ミサイル原潜からトマホークミサイルが北朝鮮各地に向けて発射されることになる。


グアムの弾道ミサイル防衛態勢

以上のように、グアムの米軍基地は、アメリカによる北朝鮮攻撃の〝尖兵〝たちの本拠地ということになる。そのため、北朝鮮はグアム周辺に弾道ミサイルを撃ち込むと息巻いてみたり、グアムの米軍基地に弾道ミサイルを撃ち込む能力を誇示してみたりと、グアムを目の敵にしているのだ。

B-52H爆撃機(米空軍提供)

もちろん、アメリカもグアムの弾道ミサイル防衛態勢を固めつつある。すでに北朝鮮による対米攻撃用弾道ミサイル開発の伸展が危惧されつつあった2013年には、THAAD弾道ミサイル防衛システム(米陸軍の部隊)がグアムに配備された。また、日本のようにあえて公表はしないが、北朝鮮による脅迫がエスカレートしている状況に鑑みてアンダーセン空軍基地にはPAC-3部隊が展開しているものと考えられる。


THAAD迎撃ミサイルの最大射程圏は200キロメートル、最大射高は150キロメートルとされているため、北朝鮮の弾道ミサイルがグアム島めがけて飛翔してきた場合はもちろん、脅迫目的で領海外の排他的経済水域海上に落下してきた場合にも、迎撃することは可能である。


一方、PAC-3迎撃ミサイルの最大射程圏は20キロメートル、最大射高15キロメートルとされている。そして、おそらくはアンダーセン空軍基地敷地内で迎撃態勢を固めるため、北朝鮮の弾道ミサイルがアンダーセン空軍基地めがけて落下してきた場合には、迎撃可能ということになる。しかしながら、アンダーセン空軍基地敷地内で待ち受けるPAC-3では、グアム海軍基地めがけて落下する北朝鮮弾道ミサイルを打ち落とすことは出来ない。また、グアム沖海上に落下してきた弾道ミサイルに対してもPAC-3を発射することは出来ない。


弾道ミサイル防衛システムにとっての悪夢

これまでのアメリカ軍そして自衛隊による数々の弾道ミサイル迎撃実験によると、SM-3の迎撃成功率は85パーセント、THAADは100パーセントとされている。しかしながら、超高額である弾道ミサイル迎撃ミサイルの発射テストは試験回数が極めて少ないうえ、THAADの迎撃実験では予定されていた実験そのものが急きょ中止になったケースが数回あり、中止を失敗とみなすと成功率は75パーセントに低下してしまう。したがって、米軍関係者の多くも「成功率」という数字をうのみにはしていない。


いずれにせよ、グアムに向けて北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合には、アメリカ、韓国、日本が緊密に連携して捕捉、追尾、迎撃を行うことになる。ただし、着弾目標がグアム周辺海域であった場合には、そしてそのような攻撃目標が早期にかつ正確に判明した場合には、以下のような危惧があるため実際に迎撃はしない公算が大きいといわれている。


 ――先日、北海道沖に落下したケースと同じくグアム沖海上に落下した場合に、人的物的損害が生ずる可能性は限りなくゼロに近い。それに反して、グアム沖に向けて飛んでくるなんらかの飛翔体に対してSM-3ないしTHAADを発射して迎撃できない確率はSM-3の場合15パーセント、THAADでも数パーセント、場合によっては25パーセント、と考えざるを得ない。そして、15パーセントあるいは数パーセントの確率が現実となって、迎撃に失敗した場合、アメリカ軍とりわけ弾道ミサイル防衛システム開発の総本山であるミサイル防衛局にとっては最大の悪夢が降りかかることになるのだ――。


「悪夢」が現実のものとなった場合、弾道ミサイル防衛システムを偏重しすぎる傾向が強い日本の防衛態勢は、根本から崩れることになる。


(次回は9月20日に掲載する予定です)



きたむら・じゅん

1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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