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黒人奴隷反乱を描いた話題の映画、日本公開中止に~『バース・オブ・ネイション』


というのも、1915年の作品は、はっきり言って、内容がとんでもない。舞台は同様に南北戦争前後だが、『國民の創生』では黒人が暴力的な悪役となっている一方、かの白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」が英雄として描かれている。過去の芸術作品を現在の価値観で判断するのはよくないにせよ、数多くの黒人を暴力的に迫害してきたKKKが「南部の混乱を治めた立役者」となっていることなどから、当時ですら各地で抗議や上映禁止運動が起きた。複数の市長も当時、「人種差別を助長する」として上映禁止を求めたほどだ。米紙ワシントン・ポストなどによると、作品はその後、KKKを勢いづかせるきっかけにもなり、彼らの宣伝や人員獲得にも利用された。


同じタイトルでもって、1915年の作品を黒人の手で上書き更新したい――。そんな思いがパーカーにはあったのだろう。


日本では「20世紀フォックス映画」の配給で、アカデミー賞授賞式のある2017年2月下旬に公開するべく準備が進んでいた。


それが、取りやめになった。日本だけではない。20世紀フォックス映画に聞いたところ、アジア諸国やノルウェー、フィンランド、ロシア、そしてブラジルを除くラテンアメリカ諸国でも公開がキャンセルとなった。


何があったのか。聞くと、パーカーと、今作の脚本の構想をともに練ったジーン・セレスティンの過去のレイプ疑惑が今年の夏以降大きく取りざたされた影響が大きすぎるのだという。

『バース・オブ・ネイション』より © 2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

パーカーとセレスティンはペンシルベニア州立大学の学生時代、レスリング選手仲間でルームメイトだった。米メディアによると、2人は1999年、女子学生に対する強姦容疑をかけられた。意識のないまま被害を受けたと訴える女子学生に対し、パーカーらは「合意のうえだった」と主張。結局、パーカーは無罪に、セレスティンはいったん有罪判決を受けたもののその後無罪となった。それを今年、作品に注目が集まるにつれテレビを含むメディアが取り上げた。8月には被害女性がうつになった末に2012年に自殺していたことも新たに報じられ、人権団体なども反発した。映画は、黒人女性への強姦にターナーが憤って立ち上がるさまも描いているだけに、被害者の遺族が米誌バラエティーに、不快感を示す寄稿もした。今作の共演女優ガブリエル・ユニオン(44)までもが米紙ロサンゼルス・タイムズに「(パーカーらへの)被害訴えを軽んじることはできない」と寄稿するに至っている。一方のパーカーは米CBSの看板番組「60ミニッツ」などで、ひたすら無罪を主張した。


歌手ハリー・ベラフォンテ(89)が「なぜ公開のタイミングでこれが出てくるのか? 彼が犯罪を犯して逃げているならともかく、司法の裁きを受けている」とAP通信に語るなど、擁護する声も一部にはあるが、大きなうねりとはなっていない。


結局、米国での興行成績は当初の予想を大きく下回るものとなっている。米映画興行収入データベースサイト「ボックス・オフィス・モジョ」によると、10月の公開第1週の週末の全米興行収入は約700万ドルと6位。翌週末の興行収入はこれより約6割減って10位となり、第3週の週末には上映劇場数もぐっと減った。賞シーズンを迎える12月はオスカー狙いの作品が出そろって宣伝合戦も激しくなる時期なのに、4日時点で全米で11館しか上映していない。同様に興行収入としては大きくならなかったものの、公開年の同時期は全米1000館以上で上映されていた『それでも夜は明ける』とは対照的だ。米大統領選の投開票前の公開とあって、フォックス・サーチライトは一部の上映館で有権者登録ができるようにするなど集客に工夫を凝らしたが、上映館では同時に、パーカーの疑惑への抗議や被害者追悼の座り込みをする性犯罪撲滅団体の姿も目立つこととなった。

『バース・オブ・ネイション』より © 2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION


宣伝費用などの縮小を迫られたフォックスは、日本を含む多くの国での公開を断念せざるを得なくなった。


ロサンゼルス映画批評家協会の会長で、朝日新聞GLOBE「映画クロスレビュー」の評者でもある映画評論家クラウディア・プイグに尋ねると、こう解説してくれた。「作品自体に強姦シーンがあり、パーカー演じるターナーがそれにヒロイズムでもって立ち向かう設定であるがゆえに、パーカーへの現実の疑惑を思い浮かべずに見るのは難しい。我々評論家は作品とは切り離して見るようにしているし、例えば欠点だらけの人間がすばらしい芸術を生み出しうるのも確かだが、これだけ公開直前に一連の報道が出てくると、その文脈を考慮に入れずに映画を見てもらうのは厳しくなる。フォックスとしては、国外にもこの論争を持ち込んで損失をさらに大きくしたくはなかったということだろう」。パーカーのメディア対応も逆効果に働いたようだ。「テレビのインタビューにおいて彼は防御的で、被害女性の自殺に対しても自責の念をあらわにする風ではなく、無責任だとみなされた」とプイグは言う。

クラウディア・プイグ


米国ではトランプに便乗して差別的発言を繰り出す人たちが目立つようになり、KKKの元最高幹部はトランプ政権誕生をたたえている。今回の作品のつまずきは、パーカーの疑惑に加えて、そうした米社会の空気も影響しているのだろうか? そう聞くと、プイグは言った。「いいえ、それが直接影響したとは思わない。トランプを支持する人たちはもともと、この映画を見に行きそうにもない。ただ、今の米国がこの作品をもり立てる状況にない、ということは言えるでしょうね」


それにしても、トランプの場合は過去のわいせつ疑惑がいくら取りざたされても、今作品のように「トランプ劇場」が縮小を余儀なくされることなどないどころか、大国のトップに選ばれた。プイグは嘆息した。「そう、トランプはどんな行いや発言をしても彼のファンが支え、揺るがない。皮肉ですよね」


いろいろ、やるせない。






藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。取材裏話を読者と語る「シネマニア・サロン」主宰。ツイッターは @erika_asahi

『バース・オブ・ネイション』より © 2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

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