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Olá! みんなの経済

「みんなの経済」の未来は? インタビュー②

仏社会経済学者ジャン=ルイ・ラヴィルに聞く


フランスの社会経済学者、ジャン=ルイ・ラヴィルのインタビュー第2弾。「連帯経済」の歴史的な背景を説明する中で、ラヴィルはいまの経済の構造が「『物質経済』から『知識経済』への転換点にある」と語った。(聞き手・江渕崇)




綿農家の男性は連帯経済の枠組みの中で有機栽培を続ける=江渕崇撮影


――連帯経済は最近の動きのように見えて、歴史的なバックグラウンドがあると指摘していますね。


近代社会は、基本的には市場に重きを置くことによって形づくられてきました。そのことは尊重されるべきだと思います。しかし、別の原理、つまり「連帯」も昔から重要な要素でした。その「連帯」には大きく二つの種類があります。一つめは、19世紀初頭の欧州など多くの社会にみられた「民主的連帯」と呼ばれるものです。フランス革命のスローガン「自由、平等、博愛」を具体化するもので、欧州や、ここ南米、そしてほかの社会でも様々な試みがありました。アソシエーション(協会)、グループなどによる実践です。この記憶は徐々に忘れ去られはしましたが、今広がっている連帯経済には、人々が自主的に集まって自由と平等の原理に基づいて公共財のために行動する、という歴史的なルーツがあるのです。


ところがその「民主的連帯」は20世紀、性格を変えます。それが福祉国家です。福祉国家による「連帯」は、人々が自ら結集するというよりも、社会的権利に基づく再分配という形をとります。私が間違いだと思うのは、福祉国家で十分じゃないかと考えられていることです。私は、いまの連帯経済について、民主的連帯が二つの「足」を持っていることを再発見する営みだと考えています。社会的権利に基づく福祉国家による再分配という「足」だけではなくて、もっと水平的な関係のグループ、つまり協会、協同組合、労働者協同組合などの形での連帯という「足」もあるのです。


――市場の至らない面を補うのは、確かに国家に限りません。では、NPOや社会的企業などは連帯経済に入らないのでしょうか。


連帯経済はしばしば「慈善事業」としてとらえられることもあります。しかし、慈善と連帯は違います。NPOなどによる慈善は平等の原理に基づいているわけではなく、いわば富める者から貧しい者への施しです。また「社会的企業」などの名で慈善事業をすることで資本主義を補おうという多くの動きがありますが、私はそれを連帯経済とは言いません。


――現実には、連帯経済は盛り上がっていると言えるのでしょうか。とくに2008年の経済危機以来の状況についてどう見ていますか。


連帯経済をめぐっては、これまでに二つの局面がありました。一つは、20世紀の最後の10年間で盛んになった、草の根でのさまざまな実験や実践です。それが、21世紀に入り、徐々に制度化されるようになりました。いまや30カ国以上で連帯経済がなんらかの形で公共政策に取り入れられたり、あるいは法制化されたりしています。それぞれは不十分なものですが、単なる市民たちの試みにとどまらない、公共政策にまで及ぶ、なにか新しいものが立ち現れようとしているのは確かです。

フランスの社会経済学者、ジャン=ルイ・ラヴィル=江渕崇撮影


たとえばフランスでは、すべての地方政府の経済政策は、連帯経済を支援する枠組みがあります。それ自体は不十分ですが、20年前には全く存在しなかったものです。こうした動きは、未来の経済が市場と国家の再分配だけでなく、三つ目の要素によっても成り立つということに、みんなが気づき始めたことを意味します。


ここで重要なのは、私たちはちょうど経済の変わり目にいるということです。それは「物質経済」から「知識経済」への転換です。例えば、もし自動車を生産しようと思えば、連帯経済の出る幕はあまりありません。巨大な資本を必要としますからね。しかし、アイデアを持ち寄ることによって新たなサービスを開発しようというならば、連帯経済が活躍する余地はあります。実際に、コミュニティーバンク(地域銀行)のような試みは、すさまじい困難を乗り越えて、何十万もの雇用をスラム街に生み出しています。


――さまざまな形の連帯経済が広がっていますが、地理的には南欧と中南米のラテン諸国に偏っているようです。たとえばアングロサクソンの国々ではあまり聞きません。


おそらく、(独社会学者の)マックス・ウェーバーがプロテスタンティズムと資本主義の関係を説いたのと同じように、私たちもカトリックと連帯経済の関係について考えないといけないのだと思います。しかし、その点をめぐっては十分な研究がないのが実情です。ただ、一般的に言って、ほとんどのラテンの国々では、ほかの地域ほど国家が強くありません。そのため、市民社会が比較的存在感を持ち続けてきたことが背景にある、とは言えるかもしれません。


――南欧と、中南米の間の違いは。


政治的文脈も経済状況も中南米と南欧では異なりますが、私が印象的だと思うのは、その両者の連帯経済の違いよりもむしろ、両者が互いに合流しつつあるということです。個々の実践のありようは異なりますが、日々の暮らしの中で人々がつながることに基礎を置いた民主的連帯という意味では、どれも基本的に同じものだと私には思えます。


Jean Louis Laville 1954年生まれ。フランス国立工芸学院教授。世界の連帯経済研究の第一人者。


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