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17年ぶりのエチオピア

エチオピア伝統農業 日本の地下足袋で支援

京大研究者の取り組み

平均年11%の「高度経済成長」が進むエチオピア。大規模な工業団地の開設など「産業の近代化」が注目される一方で、在来の農耕技術を生かした支援に取り組む研究者がいます。京都大アフリカ地域研究資料センターの研究員、田中利和さん(34)。伝統的な「牛耕」を続ける農家の人たちに、日本の地下足袋を広めたい――。そんな「地下足袋プロジェクト」を構想しています。(GLOBE編集部・左古将規)

地下足袋を履いて牛耕をするエチオピアの農家の男性(田中利和さん撮影)

田中さんは2014年、エチオピア西部の農村に2年余り住み込んだ成果を博士論文にまとめた。研究テーマは「牛耕」。トラクターの代わりに2頭の牛にすきを引かせて畑を耕す伝統的な農耕だ。


田中さんによると、エチオピアでは過去数十年、国際協力などでトラクターを農業に導入しようとしてきたが、なかなか広がらなかった。畑を耕す季節は現地の雨期。道の多くは未舗装で、粘り気の強い泥に覆われるため、トラクターではタイヤが泥にとられて畑までたどり着くことさえ難しいという。また、燃料費や故障時の部品交換など、維持も大変だ。そのため、スマホなどの電気製品が地方の村にまで普及した今でも、伝統的な牛耕を続けているという。

地下足袋プロジェクトに取り組む京大研究員の田中利和さん

田中さんの博士論文は、トラクターに比べて作業効率が悪いとされる牛耕でも、家族を十分に養えるだけの畑を耕せることを実証的に調べたものだ。


田中さんが住み込んだ村の農家の人たちは、日常生活では靴を履いているが、畑に行くときには決まって裸足になるという。現地調査を始めた当初、田中さんは長靴を履いて畑まで行こうとしたが、粘り気の強い泥につかまって、すぐに身動きがとれなくなった。

牛耕をする農家の人。足元は裸足だ(田中利和さん撮影)

かといって村の人たちと同じように裸足になると、痛くてたまらない。仕方なく、現地の人におんぶしてもらって畑まで行った。そのうち、靴下をはけば泥道の中でも歩けることに気づき、大量に買い込んだ靴下を毎日1足ずつ履きつぶして畑に通い続けたという。


翌年、日本に一時帰国した田中さんは、地下足袋の存在を思い出した。布地とゴム底でできた地下足袋をエチオピアに持ち帰って履いてみると、泥にとられにくく、裸足と同じように軽快に歩くことができた。

粘り気の強い泥の上でも、地下足袋なら脱げずに歩ける(田中利和さん撮影)

田中さんが驚いたのは、現地の農家の人たちの反応だ。初めて見る地下足袋に、最初は「牛の足みたいだ」と驚いていたが、田中さんの動きを見るうちに「おれたちの足だって柔らかいし、痛いんだ。おれたちにも地下足袋を履かせてくれ」と言われるようになったという。

牛耕に取り組む少年(田中利和さん撮影)

それまで農家の人たちは、裸足でも痛いとは言わず、黙々と畑を耕していた。慣れているから痛くないんだと田中さんは思い込んでいた。だが、詳しく聞いてみると、牛耕しているときに何かで切った足がはれあがって歩けなくなったり、破傷風を患ったりするケースもあったという。

日本製の地下足袋を履いて牛耕に取り組む(田中利和さん撮影)

地下足袋なら、動きやすいし、けがもしにくい。そのことに気づいた田中さんは、現地の起業家や履物産業を巻き込んで地下足袋をエチオピアに普及させたいと考えている。今年度から3年間、「アフリカにおける労働履物の実践的な研究」というテーマで、文部科学省の科学研究費補助金(科研費)を獲得。まずは今年9月から来年1月までエチオピアに滞在し、現地の履物文化や流通の仕組みなどを調べ、今後の事業展開を考えたいという。

牛耕に加わる田中利和さん

中学生だった1996年、家庭教師に誘われて参加したスタディーツアーで初めてエチオピアを訪れた田中さん。農村で地元の人たちと一緒に暮らしながら現地語を駆使して活動する獣医に出会い、あこがれた。「自分もエチオピアの人たちのためになる仕事をしたい」。そう志して20年。「牛耕は彼らの豊かな文化だ。一緒に暮らし、課題を解決しながら、彼らの文化の良いものを伸ばしていきたい」と話している。

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